第49話 オオカミ怪人

 俺は隠れていた人影を追っていくと、しばらくして開けた場所に出た。


「ふふふ。ヤスイ・ソウタ! よく来た! ここがお前の墓場だ!」


 低い不気味な声が響いてくる。それは怪人が出てくる定番の状況シチュエーションだ。俺はさっと身構えた。すると木々の間から急に人影が飛び出してきて俺に向かってきた。


「あっ!」


 と驚きの声を上げつつ、俺は横に飛んで避けた。そして立ち上がってみると、確かにジョーカーの怪人だった。その姿はまさしく狼男だ。


「出たな! ジョーカー!」

「俺はオオカミ怪人だ。ここでお前を抹殺してくれる!」


 奴はそう名乗りを上げた。ここは負けてはいられない。変身を・・・と思っていると奴がまた襲い掛かってきた。なかなかのスピードだ。だがさっき本物の「狼」を見たから、迫力はかなり足らないように思える。俺にはまだ余裕があった。


「トォーツ!」


 俺は一旦、後ろに下がってからジャンプした。そして大きな木の枝の上に着地した。ここなら時間をかけて変身ポーズを取れる。


「ラインマスク! 変身! トォーッ!」


 俺は再び飛び上がり、空中で変身。そしてオオカミ怪人のそばに着地する。


「天が知る。地が知る。人が知る。俺は正義の仮面、ラインマスク参上!」


 いつも通り、そう名乗りを上げる。さてオオカミ怪人の反応は・・・。


「おのれ! ラインマスク! ここでお前を抹殺してくれる!」


 そうわめいて、向かってきた。


(それはさっき言った。ボキャブラリーの少ない奴め!)


 と内心思いながらも、盛り上げるように戦わねばならない。しかし奴のパンチやキック、いずれも迫力不足だ。咬みつこうとしても、そんなしょぼい口では少ししかダメージを与えられないだろう。

 俺はキックやパンチを叩きこんでやった。するとオオカミ怪人は顔を抑えて後ろに下がった。敵わないと見て捨てセリフでも吐いて逃げるのだろうと思った。だが奴は何か企みがあるのか、不敵な笑みを浮かべながら俺に言った。


「ふふふ。お前がここにいる間にお前の仲間は全滅しているだろう」

「なに!」

「グレートウルフだけと思ったら大間違いだ。キングウルフもいるのだ」


 オオカミ怪人はそう言った。


(キングウルフ? グレートウルフとどっちが強いんだ?)


 悪の組織は怪人の名前にスーパーとかアルティメットとか様々な強そうな冠をつけることがよくある。しかしどれが一番強いのかよくわからない。だがオオカミ怪人の言葉のニュアンスではキングウルフの方がとんでもなく強いのだろう。


「仲間の死を見てくるがいい!」


 そう言ってオオカミ怪人は森の中に消えていった。退場の仕方は平凡だが、俺を焦らすのには十分だった。


「ミキたちが危ない!」


 俺はすぐにスタースクリームを呼んでそれにまたがり、北門の方に向かった。


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