第48話 グレートウルフ

「よく来てくれた!」


 そこには勇者ノブヒコが塀際で剣を構えていた。魔獣をかなり斬りつけたようで返り血を浴びている。


「助かったわ!」


 もう一人、ハニーレディだった恵子もいた。彼女は今、この異世界の名前のアリシアと名乗っている。職業は踊り子。踊りを使った物理攻撃を得意とするようだ。武器として扇と短剣を持っている。服装もパンツ姿の派手なものになっていた。この姿は多分、前世で知っていたRPGの影響を受けているのだろう。彼女は勇者ノブヒコとここに駆け付けたのに違いない。

 だが魔獣の姿はない。その気配と殺気だけは伝わってきているが・・・。


「敵は?」

「あなたたちが来て警戒して木々の間に隠れたわ。でも用心して。素早いし、鋭い牙で咬みついてくるわ! 爪で切り裂いてくるかもしれない!」


 そういえばどんな魔獣かは聞いていなかった。木に隠れられるほどの大きさで素早くて、鋭い牙や爪を持つもの・・・。辺りには魔獣にやられた人が倒れている。その傷からいって、熊みたいなものか・・・俺は想像した。

 ここは危ないからまずは変身して・・・ということはできない。まずは生身で対決してピンチになったら変身するというポリシーがあるからだ。

 横にいるミキは魔法の杖を構えている。すぐに魔獣に雷撃を与えられる姿勢を取っている。勇者ノブヒコはお得意の不動の構え、アリシアは右手に扇、左手の短剣で待ち構えている。俺は・・・ただ素手で構えているだけだ。これでパーティーがそろった。


「ガルルルッ!」


 うなり声が聞こえ、木々の間から黒い影が駆けてきた。それも何十も・・・。俺はそんな数とは思っていなかったから面食らった。だが後の3人は手慣れたものだ。


「サンダー!」


 ミキの雷が先頭の魔獣を電撃で倒す。焦げ臭いにおいが充満する中、その後に続々と魔獣が押し寄せてくる。それを勇者ノブヒコが剣で叩き斬っていき、アリシアが華麗な舞を踊るように扇で打ちのめしていく。

 俺はその魔獣をこの目ではっきり見た。黒から濃紺の硬い毛でおおわれ、四つ足の魔獣だ。牙の生えた長い大きな口と両足には鋭い爪を持つ。


「こいつら・・・狼か?」


 狼と言ってもただの狼ではない。ファンタジー系のゲームに出てくる恐ろしいオオカミの姿だ。


「オオカミ? なんだそれは。こいつらはグレートウルフだ!」


 戦いながら勇者ノブヒコが教えてくれた。やはり俺の思っていたような狼だった。魔獣としてはまあまあの強さだが、数が多いからなかなか大変だ・・・俺は高みの見物と決め込んでいた。

 3人で十分にグレートウルフの群れに対抗できているし、魔獣とはいえ、ラインマスクが動物をやっつけていたのでは体裁が悪い。俺がこのままで戦うにしても、普通の生身の人間では敵う相手ではないのだ。

 それに俺はこの戦いをじっと見ている視線を感じていた。グレートウルフの群れが襲い掛かってくるのはやはりおかしい。ジョーカーが絡んでいるような気がしてならないのだ。

 俺は周囲を見渡した。変身しなくても俺の視力と聴力は常人の数十倍、いや数百倍、余計なものはカットできる機能もついている。すると少し離れたところに人影を認めた。


「そこか!」


 俺はすぐのその方向に駆けていった。


「どこへいく!」


 勇者ノブヒコの声は聞こえていたが、そんなものは無視した。俺の相手はやはりジョーカーに限る。するとその人影は森の中に逃げようとして走り出した。


「逃がすものか!」


 俺は追いかけて行った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る