第50話 タイマン

 北門ではまだ戦闘が行われていた。だがさっきまでのグレートウルフの波状攻撃ではない。それより2,3倍大きな魔獣が攻撃を仕掛けていた。それがキングウルフという奴だろう。大きいだけでなく額から鋭い角も生えている。ミキが何とか結界を張って、勇者ノブヒコとアリシアを守っている。だが今にも砕けそうだ。

 俺はそのままスタースクリームで突っ込んで行った。このままキングウルフを跳ね飛ばそうと・・・。だがそれに気づいた奴は角を向けてスタースクリームに突っ込んできた。


「バーン!」


 空中で激しく正面衝突した。勝ったのは・・・キングウルフの方だった。強い衝撃でスタースクリームはバラバラになり、俺は吹っ飛ばされた。一方、キングウルフの方はなんということもなく、そのまま平然と着地した。何というパワーだ。スタースクリームの体当たりを跳ね返してしまうとは・・・。

 俺は空中で態勢を立て直して、大きく回転してなんとか着地した。なかなかの強敵に俺はさすがに緊張していた。


(TVのラインマスクにもこういったものは登場しない。どうやって倒したらいいか・・・)


 キングウルフと対峙しながらそう考えていると、勇者ノブヒコたちが駆けつけてきた。


「ラインマスク。大丈夫か?」

「ああ。しかしこいつをどう攻撃するか・・・」

「みんなで一斉に攻撃しよう!」


 勇者ノブヒコはそう提案するが俺は首を横に振った。


「いや、だめだ。俺はこいつと1対1で対決する」

「それは危険だ。やめるんだ!」

「止めないでくれ。1対1のタイマン勝負で敵と分かり合えることもある」

「タイマン? どうして分かり合えるんだ?」


 俺の言葉を勇者ノブヒコは理解できない。俺は奴とぶつかってみてその性根がわかったような気がした。キングウルフはまっすぐな奴だ。ジョーカーに操られているのではない。どういう理由で北門を襲ってきたのかはわからないが、きっと奴なりの理由があるはずだ。それを聞きだせばいいのだが、奴は俺たちを信用していない。だから正々堂々戦って相手のことを理解すれば話し合いもできるはずだ・・・と思った。そんなスポ根みたいな展開は前世のTVで数多く見てきた。


 俺は一人で前に出た。仲間の3人を制して・・・。するとキングウルフも後ろにひかえるグレートウルフに何かを言った。するとグレートウルフたちはそこに座った。奴もこちらの意図をくみ取ったらしい。


「いくぞ!」


 俺は前に出てパンチとキックを放った。しかしキングウルフはその巨体に見合わないほどの敏捷さでそれを避けた。そしてその右前足の爪で俺を引き裂こうとした。俺はそれを両手で受け止めたが、左前足で吹っ飛ばされた。強烈な勢いで地面に叩きつけられる。


「ううっ!」


 俺は苦悶の声を上げるが、すぐに立ち上がる。キングウルフがさらに攻撃を加えるために接近してきた。このままではさらにダメージを受けてしまう。俺は逆にこちらから突っ込んで行き、


「ラインパンチ!」


 を放った。それはキングウルフの顔にヒットした。


「グォーン!」


 キングウルフが苦しげな声を上げるが、その右前足は俺を殴り飛ばしていた。俺はまた地面に叩きつけられた。そこにさらに攻撃を加えようとキングウルフが駆け寄ってきた。俺はいち早く立ち直ってジャンプした。そして空中で大きく回転すると、


「ラインキック!」


 を放った。一方、キングウルフも飛び上がって体を丸く回転させて向かってくる。奴の必殺技「ローリングアタック」だ。必殺技同士が空中でまともに激突した。

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