第38話 操られた群衆
いくらラインマスクでもそんな人数を相手にできないし、相手は操られているとはいえ、ただの一般人だ。攻撃もできない。だがこのままでは袋叩きは必定だ。
「ラインマスクよ! このまま町の者に殺されてしまえ!」
蜂怪女はそう声を上げる。俺は窮地に陥り、身構えながら後ろに下がっていった。人々はうつろな目をしたまま両手を挙げて近づいてくる。ゾンビ映画でこんな場面があったが、主人公がどうやって脱出したかは思い出せない。
だが俺はこうなることも一応、想定していた。大衆を操って動かすなんて、悪の組織ならやりそうなことなのだ。だから俺なりの対策を立ててきた。
「ミキ!」
俺は右手を挙げて合図した。すると広場のそばの高い建物の屋上に人影が姿を現した。それはそこでずっと待機していたミキだった。彼女は魔法の棒を取り出して大きく振り上げた。
「いくわよ! サンダー!」
彼女は大きく振り下ろした。
すると俺と観衆の間に「バーン!」と雷が落ちた。辺りに焦げ臭いにおいと煙が立ち込める。さすがに催眠状態の人たちもたじろいでいる。その後も雷はミキによって次々に落とされていった。それで人々はそれ以上、一歩も前に進めなかった。
一方、ステージ上は辺りが見えないくらい煙に包まれている。
「どこだ! ラインマスク!」
蜂怪女は大声を上げるが、それに答えるほど俺はバカではない。
「トォーツ!」
俺は大きくジャンプして煙に紛れてそこを脱出した。そして建物の屋根の上を飛びまわってやっと安全なところまで来た。
「危ないところだった・・・」
俺は変身を解くと、ふうっと息を吐いた。これではっきりした。ハニーレディはジョーカーの一味であり、多分、そのマネージャーが蜂怪女なのだろう。だが彼女を倒さぬ限り、町の人は戻ってこない。彼らは催眠状態のままなのだ。早くしないとどこかに連れ去られてしまう・・・。
それと俺はハニーレディの様子が気になっていた。そばで見ると彼女は何かにおびえているようだった。心底からジョーカーに服従しているようには見えなかった。もしかしたらジョーカーに脅されて、いやいや悪の片棒を担がされているのかもしれない。大衆をおびき寄せるために歌わされて・・・。ならば彼女も救わねばならない。ヒーローならば当然だ。
今回の戦いは、どうやって操られた人たちと戦わずに怪人を倒すということが肝だ。それにはどうしてもハニーレディの協力が必要になる。
「ハニーレディが戦いのカギを握る!」
俺はそうつぶやいた。そのためには作戦を立てねばならない。
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