第37話 蜂怪女
(歌でみんな催眠状態にされている!)
俺はそう思った。ハニーレディの歌に熱中させて、催眠音波を紛れ込ませているのかもしれない。
(このままではこの町の住人はすべてジョーカーに連れ去られてしまう!)
俺は観客の間をすり抜け、舞台に上がった。
「やめろ! ジョーカーめ! お前たちの思い通りにはさせない!」
大観衆の前でこれをするとなかなかぞくぞくする。しかしこれでは遊園地のヒーローショーみたいだが・・・。
ハニーレディがすぐに怪人に変身して・・・という展開になると思ったのだが、彼女は驚いて舞台の上で震えている。
(えっ! 俺が早とちりした?)
もしそうならとんだ赤っ恥だ。いや、コンサートを妨害したとして俺は皆からヒンシュクを受けるだろう。
「あなたは誰? どうしてこんなことをするの?」
ハニーレディにそう言われて返す言葉はない。俺は頭をかいて謝ろうとした。すると舞台袖から怪人が出てきた。
(よかった。間違いじゃなかった!)
それは蜂のような姿をした怪人だった。雰囲気からして女王蜂というところか・・・。
「やはりジョーカーだな!」
「よくわかったわね。私は蜂怪女。よく私の催眠音波にかからなかったわね」
「俺にはそんなものは効かん!」
確かにそうだ。他の人が操られても、俺だけは操られない・・・という設定になっている。だがこれでわかった。ハニーレディのコンサートで人々を集め、その曲に熱中している間に蜂怪女が催眠音波を出して人々を操っていたのだ。
「もしかしてお前は・・・」
蜂怪女が言いかけた。これはまずい。先に言われてしまったら後の盛り上がりはない。俺は奴の言葉を遮った。
「そうだ! 俺の力を見せてやる!」
幸い観客はすべて催眠状態だ。ここで俺が変身しても町の皆に正体が知れることはない。
「ラインマスク! 変身! トォーッ!」
俺はジャンプしてラインマスクに変身して舞台に降り立った。
「天が知る。地が知る。人が知る。俺は正義の仮面、ラインマスク参上!」
俺が名乗ると蜂怪女が大声を上げた。
「やはり、ラインマスクだったか! お前だけは抹殺する! 行け! スレーバー!」
すると舞台袖からスレーバーが押し寄せてくる。俺はパンチやキックで次々に倒していった。まるで遊園地のヒーローショーのように。
「おのれ!」
蜂怪女は悔しがっていた。そしてこの後は奴が向かってくる・・・と思ったのだが、
「町の者どもよ。このラインマスクは皆の敵だ。袋叩きにしてしまえ!」
などと観客に向けて叫んだ。その言葉の中には催眠音波が隠されているように俺には感じた。
(こいつ。自分の手は汚さないタイプか・・・)
自分でやるより人にやらせるのが好きな人種がいる。前世の時の由美という後輩の女性社員がそうだった。うまいこと言って人に仕事を押し付けていた。それで俺がどれだけ大変だったことか・・・そんなことはどうでもいい。大観衆が俺に殺意を向けて迫ってきたのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます