第36話 コンサート

 ライムの町の広場にステージが設営された。いよいよコンサートの開幕である。そこには町のほぼ全員がそろっていた。華やかな雰囲気で皆は心躍っているが、俺は嫌な予感がしていた。それはミキから少々気になることを聞かされていたからだ。


 ―――――――――――――――――


 昨夜、ミキが急に現れて俺に言った。


「ハニーレディが急に町や村に現れてコンサートを始めることがあるわ。でもおかしいの。その後で町や村の住人が消えてしまうのよ」


 今までは行き来の少ない小さな町や村だったので、そんなことは伝わってこなかった。だが魔法使い同士の情報網でつかんだらしい。俺はそれを聞いてピンときた。


「まさか、ジョーカーが・・・」

「そこまでわからないわ。でも注意した方がいい。ハニーレディには黒いうわさが付きまとうわ」


 ―――――――――――――――


 まずは舞台に黒メガネをかけた女性が立った。ハニーレディのマネージャーらしい。


「皆さま、ようこそおいでくださいました。今日はハニーレディの歌声をお楽しみください。さあ、ハニーレディの登場です!」


 すると幕が開き、カラフルな衣装を着たハニーレディが現れた。会場にリズミカルな音楽が鳴り響く。それを聞いて観客が一斉に立ち上がって声を上げた。


「何を歌うのか?」


 俺は興味津々だった。これほどまで人々を熱狂させる歌とは・・・。すると曲の前奏が流れてきた。


(ん? 聞いたことがある・・・)


 俺はその曲に覚えがあった。思い出そうとしているとハニーレディは歌い出した。


「ペッパー警部! 邪魔をしないでね・・・」


 俺はずっこけた。いきなりピンクレディーの歌とは・・・。いきなり前世の俺が生まれる前の歌謡曲だ。その曲は日本を熱狂の渦に巻き込んだとは聞いているが・・・。

 ハニーレディは華麗に踊りながら歌い上げる。完コピしているのだろう。観客も踊って声援を送っている。


「次はS.O.S! 行くよ!」


 ハニーレディは叫んだ。どうもピンクレディーのメドレーでもやるらしい。もちろん異世界の人たちはピンクレディーなど知らないはずだから、新鮮でポップな音楽、しかも斬新な振り付け付きだから、これならみんなが熱狂するわけだ・・・俺は納得した。

 だがそれで俺の疑念は深まった。多分、ハニーレディは俺にいた世界からの転生者だ。ジョーカーの改造手術によってこの異世界の記憶が消されて、前の世界の記憶がよみがえってきたのだろう。ピンクレディーの記憶が残っているのは脳改造されていない。俺と違うのは、その状態でジョーカーに従うことに決めたことだ。


「おやっさん。ハニーレディはジョーカーの一味です。奴ら何か企んでいます」


 大音量の中を俺はおやっさんに耳打ちした。だがおやっさんには聞こえていない。俺は耳元でもっと大きな声で言った。


「おやっさん! ハニーレディはジョーカーです!」


 それでもおやっさんは反応しない。その目を見るとうつろの状態になっている。ジロウもシゲさんもロコも・・・そして周囲にいる観客もそうだった。

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