第18話 怪人の正体

「やはりお前はゴウ・・・ではない。お前は誰だ?」


 予想外だった。そいつはシミズ・ゴウではなかった。だが顔に見覚えがあった。ゴウの取り巻きの一人だ。確かにこのレースには出ていた。


「俺はカスガ・ジンだ。ジョーカーの怪人だ。お前を抹殺するため、ゴウのいるレーシングクラブに潜入していたのだ」


 いきなり俺の予想は狂った。知らない奴がジョーカーの怪人だった。これも後から聞いた話だが、一着でゴールしたのはゴウだった。いくら待っても俺がゴールしなかったから、おやっさんたちは心配していたそうだ。さっきのサムズアップのこともあったから・・・。応援に来ていたミキも、(どうしよう。どうしよう・・・)と心配して探しに行こうとしたようだ。

 それはともかく俺は罠にはまる形になった。


「お前だな? 夜中に俺を襲ってきたのは」

「そうだ。あの時は失敗したが、今度は必ず仕留める! 見よ! わが姿を! ギエッー!!」


 ジンは奇声を上げて怪人に変身した。


「俺様はサソリ怪人だ! スレーバーよ。行け!」


 すると周囲からスレーバーが湧いて出てきた。いよいよこれからが俺の得意とするところだ。今までは前振りに過ぎない。

 俺は向かってくるスレーバーを次々に倒していった。するとサソリ怪人が「おのれ!」と叫んで向かってきた。そうでなくては変身する機会がなくなってしまう。俺はサソリ怪人の攻撃を2度、3度と避けると、


「トォーッ!」


 と声を上げて飛び上がった。やはりこの掛け声はしっくりくる。そして目をつけておいた岩の上に飛び乗った。


「ラインマスク! 変身! トォーッ!」


 変身ポーズをじっくり見せて飛び上がり、空中で変身してまた岩の上に戻った。お決まりのようにサソリ怪人が聞く。


「お前は何者だ!」


(いいぞ!)と俺はうれしくなった。ぽかんと呆気にとられずに、そう聞いてもらわねばならない。


「天が知る。地が知る。人が知る。俺は正義の仮面、ラインマスク参上!」


 俺はポーズを決めた。すると言いしれない快感が身を包んだ。やはりこの儀式は外せない。


「なにを! 俺様が貴様を倒す!」


 サソリ怪人がいきり立って向かってきた。なかなかいいリアクションだ。敵はこうでなくてはならない。俺は岩を飛び降りて身構えた。

 サソリ怪人は右手の毒針が武器だと俺にはわかった。それを振り回してくる。あれに当たったらダメージが来るだろう・・・そう思うと俺はまた悪い癖が出た。


(このまま奴に見せ場を作らずに倒したらこの戦いの価値が下がる。ヒーローはぎりぎりで勝つのが美しい!)


 俺はわざと隙を作った。するとサソリ怪人の毒針を胸に受けた。強烈な痛みとしびれが体中を駆け巡る。


「ふふふ。俺様の毒針を受けたら最期だ。もう満足に動けまい」


 サソリ怪人は勝ち誇ったように言った。

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