第17話 レース開始

 いよいよレース本番となった。俺はジョーカーのことはひとまず忘れ、レースに集中することにした。フラッグが振られ、数十台のホバーバイクが走り始めた。コースは爆音と砂煙に包まれた。


「行け! 行け!」


 叫んでいるおやっさんの声が聞こえる。かなりはしゃいでいるようだ。


 俺は落ち着いて、いつも通りの走りをしていく。アキバスペシャルと俺のレーサーとしての腕があれば無敵だ。すぐにほとんどのホバーバイクを引き離した。だがゴウだけは別だ。彼は俺に食らいついてくる。さすが俺のライバルだけはある。こうでなければ見せ場は作れない。


 1周目は抜きつ抜かれつのデッドヒートを繰り広げた。ゴウもなかなかやる。おやっさんが大きく手を回してスピードアップを指示してきた。それで俺はさらにスピードを上げた。すると少しずつゴウからリードを奪い始めた。


(これで優勝はもらった!)


 2周目が終わり、3周目に入った。ゴウは完全に俺から遅れている。多分、後ろで悔しがっているだろう。おやっさんは、


「行け! そのまま行け!」


 と大きな声で叫んでいた。年甲斐もなくかなり興奮している。俺は余裕を見せて右手でサムズアップをして見せた。するとおやっさんは「ええっ!」と目玉が飛び出るほどびっくりしていた。


(何を驚いているんだ。まずいことでもしたか・・・)


 俺はそう思った。後で聞いたところ、この異世界でサムズアップは「天国に行く」とか「死ぬかもしれない」という意味だそうだ。それでおやっさんは驚いて非常に心配したそうだ。


 そんなことは知らずに俺は走り続けた。森の中に俺のホバーバイクの轟音が響き渡る。ぶっちぎりの独走だ。だが走っているうちに違和感を覚えた。他のホバーバイクの音が聞こえなくなっていた。しかもコースが妙におかしい。


(こんなところ、走った覚えはない・・・)


 俺は違うところに誘導されてしまったようだ。そして案の定、行き止まりになった。


(標識通りに走ったはず。コースをそれるはずはない。こんな真似をするのは・・・)


 俺は敵の罠にかかったことを自覚した。するとレースに出ていたホバーバイクが1台接近してきた。そいつが俺をここにおびき寄せた奴だろう。ヒーロー物のストーリーを熟知している俺にはそれがわかった。そしてそいつは俺のライバルであるはずだ。ライバルの俺に勝つために改造手術を受けたという筋だ。


「お前はジョーカーだな!」


 俺はヘルメットを投げ捨てて身構えた。するとそいつはホバーバイクからゆっくり降りてヘルメットを取った。そこには・・・。

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