第19話 サソリ怪人の毒

 確かに毒のせいで俺は自由に動けない。立って歩くのがやっとだ。そこをサソリ怪人がなぶるようにパンチやキックを食らわせてくる。


「すぐには殺さない。じっくり痛めつけてやろう」


 こいつはSだった。しかしその方が都合がいい。苦しんでこその勝利なのだ。俺は奴の攻撃を受けて、


「ううっ! ううっ!」


 と苦しげな声を上げた。それを聞いて奴はうれしそうに笑っていた。

 しかしいつまでもやられるラインマスクではない。ここで一発逆転するのが変身ヒーローのお決まりだ。


(もうそろそろいいだろう)


 頃合いを見て俺はラインベルトに両手を当てた。するとベルトのファンが回り始めた。そこから奴の毒が紫色の煙になって排出されていく。


「パワー浄化!」


 これはラインマスクの技の一つだ。体から毒を抜いてリフレッシュする。様々な怪人の猛毒にやられてピンチに陥っても、これで一発OK・・・ということになっている。俺がそう思っている以上、体に埋め込まれた魔法増幅装置はそのように発動する。


「さあ、毒は抜けた。これで負けないぞ!」


 俺はそう宣言した。これで俺は元の元気な状態に戻ったと奴に教えてやっているのだ。


「そんな馬鹿な! 俺様の毒がそんな簡単に消えるはずがない!」


 サソリ怪人の方は「こんなことはあり得ない!」という風に驚いている。


(こんなことがあるのが異世界なのだろう)


 俺はそうツッコミを入れながら、サソリ怪人に向かっていった。もうこちらのペースだ。パンチやキックを立て続けに食らわせた。


「ぐぐぐ・・・」


 サソリ怪人が苦しげな声を上げた。もうふらふらとなっている。いよいよクライマックスだ。


「今だ! トゥーッ!」


 俺はそう叫ぶと大きくジャンプした。そして空中で大きく回転して、


「ラインキック!」


 を放った。サソリ怪人はその大きな衝撃にふっと飛ばされていった。俺の方は空中を舞って軽やかに着地した。その直後に背後で爆発が起こり、爆風が砂煙を巻き上げた。


(決まった・・・)


 この瞬間は何にでも代えがたい。残念なのは他に人がいなかったことだ。せっかくの瞬間を誰にも見せられないとは・・・。まあ、いい。次もあるさ・・・とほっと息を吐いた。


 俺はホバーバイクに再びまたがり、元来た道を戻り始めた。辺りを注意して走ればコースに戻れるだろう。

 怪人は倒したが、気がかりなことがあった。それはレースの行方だ。こんなところで時間をつぶしてしまったから、ダントツにビリが決定だ。期待してくれているおやっさんや仲間たちに何と言おう・・・そう思うとホバーバイクのエンジン音が重く感じられた。

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