昼想い、夜夢む。そしてひとり。

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昼想い、夜夢む。そしてひとり。

 祝福と喜びに満ちた式場で、私はゆったりと壁にもたれる。

 未婚女性達が一心に見つめる中、新婦がブーケを高々と投げた。


 歓声とともに伸ばした女性達の手を掠め、少し離れた位置で興味なさげに立っている、私の手元にポフリと落ちる。


「……ん?」


 初めから狙っていたのだろう。

 見事ブーケを私の手へ着地させた新婦が、「やったぁ!」と叫ぶ声が耳へと届く。


 羨望の視線を浴びながら、ちっとも嬉しくない気持ちでペコリと頭を下げると、それを合図に披露宴の時間まで一次散会となった。


 外の空気を肺いっぱいに吸いたくて、ブーケ片手に気が向くまま式場を後にする。


 新郎は腐れ縁の幼馴染。

 そして新婦は、女子校時代からの大親友。

 偶然出会った二人は恋におち、今日という幸せな日を迎えた。


「幸せそうだったな……」


 先程新婦から向けられた満面の笑みを思い出し、私はひとり、溜息を吐く。


 花の栞をプレゼントした時も、それ以外の時も。

 いつもこちらが嬉しくなるほど、満面の笑みを浮かべて喜んでくれる。


「わー! 可愛い!!」


 栞を手にし、嬉しそうに微笑む彼女の姿を思い出す。


「なにこれ、金魚草?」

「あーはいはい、そうだね。……金魚草だよ」


 プレゼントした押し花の栞を陽に透かすと、ピンクの花びらが彼女の頬にほんのりと影を差す。


 ……花の大きさからして違うのだが、説明するのも面倒臭いのでそのままにしておいた。


「金魚草の花言葉は、『おしゃべり』とか『おせっかい』だよ」

「まさかの花言葉ッ!? 親友の毒が私に刺さる」


 傷ついたと笑い転げる彼女は、清楚な見た目にそぐわずズボラで強気……でも涙もろくて誰よりも優しい、大事な大事な大親友。


 ――そして。

 ずっと、好きだった人。


 金魚草だと勘違いしておけばいい。

 押し花にした『リナリア』の花言葉は、『この恋に気付いて』。


 想いを誰にも告げる事なく、ひっそりと隠れるように彼女の手に収まったその栞を未だ大事に持ち歩いていると、昨年結婚の報告とともに告げられた。


 ビルの隙間から差し込む光が、瞳に滲む。

 きゅ、と固く結んだ唇が微かに震え、思わず隠すように手に持ったブーケへと顔を埋める。


 ザァッと音を立てて後ろ背に風が迫ると、腰まである髪がなびき、青空に溶けてしまいそうな淡い水色のフレアドレスに、ふわりとまとわりついた。


「ブーケなんて、いらないのに」


 風に乗って金木犀が柔らかに香り、ブーケに埋めた顔を空に向かって上向ける。

 美味しそうな色をしていると彼女に揶揄われた、髪と同じ飴色の瞳が小さく揺れ、とろりと潤みを帯びていく。


 風に逆らうようにして髪を耳にかけると、見慣れない花が混じっているのに気が付いた。


「アングレカム?」


 わざわざ混ぜたのだろうか。

 妙な存在感を以て数本にわたりブーケを彩るその花言葉は、『いつまでもあなたと一緒』。


 純白のドレスに身を包み、「やったぁ!」と叫んだ彼女の姿を思い出す。


「……あぁもう、参ったな」


 彼女のことだ。

 最初から私に渡すつもりで、一生懸命花言葉を調べたのだろう。


 それなのに『リナリア』を金魚草だと勘違いし続ける、ズボラな彼女。


 優しいけれど残酷な……でも堪らなく愛おしい。

 そんな彼女の幸せを、私はこれからも願い続けるのだ。




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