第28話 この身を盾として
「ぐぉおおおおおおおお……」
黒澤のうめき声が通路に木霊する。
固く鋭い鱗の弾幕は床に、壁に、天井に、そして黒澤の腕に身体に突き刺さっていた
「鰐ぃいいいい……!! お嬢は無事か……!?」
腕に刺さった鱗を引き抜きながら黒澤が叫ぶ。
「無事です……それより兄貴が……!!」
さくらを抱きかかえ、新たな
闇医者の源によって組み込まれた、鰐淵の新たな力。
右手に仕込まれた変幻自在の
鰐淵が望んだその力は、大砲でも槍でもない、実に鰐淵らしいものだった。
⚔
「なんやここ……? ワシ死んだんか……?」
「死んどらんよ」
見知らぬ声に鰐淵は飛び起きようとしたが身体が動かない。
「安心せい死にぞこない。わしゃ闇医者の源。ついでに言うとお前さんの兄貴分もちゃーんと生きとる!」
目だけを動かし、源が顎で差した方を見やると、足首から先に大量のチューブを繋いで眠る兄貴分の姿があった。
「兄貴……足、
愕然とつぶやく鰐淵に源が言う。
「いんや。その漢は自分で進んでそうなった。もう自分の無力で手が届かんのは嫌だとよ」
鰐淵は唇を噛んで天井を睨みながら涙を流した。
「源のおやっさん……」
震える声で鰐淵は言う。
「なんじゃ?」
「ワシの新しい手は強いでっか……?」
「お前さんの元の手よりはな」
電子タバコの妖しい緑の煙を吹かしながら源は答えた。
「その程度ではアカンのです……ワシはもう兄貴に心配かけんぐらい……ビクともせんくらい強ならんとアカンのです……」
「ほう……それで? お前さんは何になる? お前さんの言う強さってのは何だ?」
鼻水と涙を垂らしながら、鰐淵は黒澤を見た。
カマキリの攻撃から庇った時の黒澤の顔が、この世の終わりのような顔が、隣で眠る黒澤の顔に重なって見える。
「盾ですわ……何喰らってもビクともせん、兄貴が安心できる盾がええ……!!」
鰐淵の言葉に、源は立ち上がった。
液状のナノメタルが入ったタンクの脇に立ち、そこに肘をかけた源が、サングラスをずらして鰐淵に目配せする。
「実はまだお前さんの手は完成しとらん。
⚔
「馬鹿野郎……!! 俺のこたあいいんだよ!! お前はそこでお嬢を守ってろ……!! お前の役目を忘れたのか!?」
「でも……ワシは……」
鱗を抜いた傷口からどぼどぼと血を流す兄貴分を目にして鰐淵は狼狽した声を出す。
そんな二人を嘲笑うかのように、獣は鱗と化した毛を逆立て、第二撃を放つ体勢に入った。
「行って!! あたしは大丈夫だから……!!」
さくらが鰐淵の身体を揺すって叫ぶ。
「来るな鰐……!! お嬢……!! あっしらはお嬢を守って死ぬ覚悟です!!」
「ハゲちゃん行って!! ここで黒ちゃんを見捨てるのは武士道じゃない……行けぇぇええええ……!!」
その言葉で鰐淵は目を見開く。
その目から怯えが消え去り、強い光りが宿った。
「うおぉおおおおおおおおおおお……!!」
鰐淵の慟哭が響き渡る。
麒麟は非情にも爪を地面に食い込ませ発射体制を整えた。
体中に鱗が刺さり、血まみれになった黒澤は、刀を手に、玉砕覚悟で麒麟の方に向き直る。
刹那、鰐淵はさくらを地面に降ろして機械の尾で強く地面を打った。
「うおらぁぁあああああああ……!!」
盾を前方に構えた鰐淵が黒澤の脇を猛スピードで飛び出していく。
麒麟の第二撃より速く、今までのどのぶちかましより速く、漢は飛び出していく。
「ワシはもう鉄砲玉やあらへん!! ワシの役目は……兄貴とお嬢の最強の盾になることじゃあああああああああああ……!!」
距離を潰された鱗の
途轍もない威力が鰐淵の右手に集約した。
しかし加速した巨体と、源謹製の
威力を柔軟に殺しつつ、構造的な硬さを保持した右腕。
それを覆う最強高度の黒鉄ナノメタルがあらゆる攻撃を弾く鉄壁の盾。
鰐淵は再び地面を強く蹴り、盾を構えたまま麒麟に突撃する。
爪で身体を地面に固定していた獣は威力を逃がすことが出来ず、もろにその衝撃を食らい吹き飛ばされた。
激しく背中から壁に激突し、剥き出しになった麒麟の腹に、鰐淵は盾の縁で追撃を入れる。
壁と盾に挟まれた麒麟の胴がギロチンにかけられた罪人の様に真っ二つになった。
壮絶な光景を背に、鰐淵は振り返る。
「兄貴……生意気言ってすんません……ほなけど、ワシは、みんなの盾になるって決めたんですわ……!!」
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