第11話 医者と患者とオカマと少女
さくらが金ちゃんの後ろから覗き込むと、地下の診察室には最新鋭の医療機器が立ち並んでいた。
それだけにはとどまらず、壁には多種多様な
すでに手術台に乗せられたスキンヘッドの身体にはたくさんのチューブが繋がれ、
ピッ……ピッ……ピッ……
シュコー……シュコー……
人工呼吸機と心電図が規則的な音を立てる中、闇医者の源はマスク越しに鼻歌を歌ってメスを走らせている。
「眼鏡のあんちゃん! デカいのの腕は諦めろよ? 無理に繋ごうとすれば合併症の危険が高いから置いてきた。代わりにもっとイイのを付けてやるから心配すんな!」
人間とは思えない正確さで源はスキンヘッドの肩にある主要な血管を縫合していく。
さくらはその時、時折サングラスの奥で青い光が瞬くことに気が付いた。
「もしかして……このお爺さんも
「あら!? よく分かったわね! それも自分で手術したらしいわよ? 嘘かホントか知んないけど」
「ホントじゃよ。昔軍医しとった時にドローンの爆撃に巻き込まれてな。手元にあった局所麻酔、自分にぶち込んで、兵士の死体からパーツ集めて改造手術じゃ!!」
カラカラと笑う老人の姿に、ほんの少し青褪めながらもさくら引きつった愛想笑いを浮かべる。
あっという間に血管を塞ぐと、源はスキンヘッドの傷から神経を引っ張り出し始めた。
源の指は真ん中で二つに別れて、いつの間にか二十本に増えている。
それぞれの指にどうやら異なる機能があるらしく、それが目まぐるしくスキンヘッドの神経を
「武志の腕に感謝するんだな……並の男の技ではこうも見事に切断は叶わんよ……ほとんど神経に損傷がない……」
源は誰に言うともなく呟くと、足元のペダルを踏んだ。
すると奥から新たな手術台が音もなくやってくる。
「眼鏡のあんちゃんをそこに寝かせてくれ」
金ちゃんは何も言わずに眼鏡を台の上に寝かせた。
すると台はスルスルと源の方へと滑っていく。
「お嬢ちゃん。そこに冷蔵庫あるだろ? 中から輸血用のパック一個取っておくれ」
さくらが冷蔵庫を開けると血の入った袋が整然と並んでいた。そのうちの一つを手に取り、さくらは源の方を向き直る。
「これでいいの? でも血液型は?」
すると源の指の一つがカチカチと音を立てて伸びてきた。
指先のアームが輸血パックを掴んだのでさくらはそっと手を放す。
「心配いらんよ……うちはナノマシン配合の万能血液使ってるからね」
ふーん……とさくらは頷きながらなんとなく金ちゃんに目をやった。
破れた着物の背中から痛々しい刺し傷が見え隠れする。
周りに目をやるとガーゼや包帯が目に止まった。
少し悩んでから、さくらは意を決して金ちゃんに言う。
「ここ座って……」
「は? 何? どうしたわけ!?」
「いいから……!!」
そう言って金ちゃんを無理やり椅子に座らせると、さくらは金ちゃんの着物をはだけさせた。
「やーん……!! ケダモノー!?」
案の定そう言って胸を隠す金ちゃんを無視して、さくらはガーゼを手に取り傷口に当てようとする。
「待ちなお嬢ちゃん」
すると源の指が軟膏の入った瓶を摘んでさくらのもとに伸びてきた。
「コイツを塗ってからガーゼ。そのあと包帯。OK?」
そう言って源はサングラスをずらすと、機械の瞳でウインクした。
「わかった……」
さくらは瓶の蓋を開けると軟膏を手に取り金ちゃんの傷口に塗りたくる。
「ふぅぅぅぅぅぅうんんんん……!?」
金ちゃんは目を見開き強烈な鼻息を吹き出した。
「……痛いの?」
さくらが尋ねると金ちゃんは変な顔のまま振り返って言う。
「愚問ね……武士とオカマに痛いなんて言葉はないわよ……ふがあああああああッ!?」
どうやら相当痛いらしい。
いい気味だ……
ちょっとさくらはそう思いながら、他の傷にも必要以上に軟膏を塗り、ガーゼを当てて包帯を巻くのだった。
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