誘導
ドローンの仕草が突飛だったのと、しばらくしてもロケット弾が飛んでこなかったせいで、俺はこのドローンに興味を持った。故障か?いや何か意思のあるような動き方だと思った。
「なにがしたいの?おまえ」
やっぱりそれにドローンは答えず、やがてゆっくりと走り出した。ちょっと走ると、止まる。カメラを俺に向けたあと、また走りだす。なんなの?ああ、ついて来いって言ってるのかな?俺はもうあきらめていた。きっとロケットの着弾が最適な場所に連れて行こうとしてるんだ。いまの場所は岩が多すぎて、きっと俺を殺すのに何発もロケット弾を使ってしまうからだ。
「たったひとりの俺に、まったくご苦労さまだな」
ほっといたってどうせ死ぬ。四時間あれば充分ここを占領できるだろうに。それから穴を俺に掘らせて、そして頭に一発ぶち込めばいいだけなのになあ…。だがドローンは、かいがいしく俺がついていくまで立ち止まっているように見える。なんか犬みたいだな。
「ちょっと待ってくれ。俺、負傷してんだ。早く歩けん。なあ、つかまらせてくれないか?」
返事はなかったが俺はドローンの装甲板につかまった。おかげで片足が不自由だったが、何とか歩けた。
しばらくいっしょに歩いて行くと、だだっ広い草原にでた。なるほど、ロケットの着弾にはもってこいの場所だ。給料が十万ディナール(七万円)の俺に、二千万ディナール以上する高価なロケット弾か。いや太っ腹だなあ…。
そこでドローンは停止した。俺もドローンの横に座り、空を眺めた。あいかわらず空は厚い雲で覆われていて、でもかすかに光がさしているのが見える。きっと夕方には晴れて、綺麗な夕日が見れるだろう。だがそのころには俺はここで、粉々になってるんだろうな。
「おまえ、こんなところにいると巻き添えになるんじゃないか?」
俺はそうドローンに言ってやった。ドローンは不思議そうにそのカメラで俺の顔を見ていた。やがて遠くからヘリの音がしてきた。ああちくしょう、そうきたか。そりゃ俺ひとりにロケット弾なんてもったいなくて使えないよな。なら武装ヘリで充分だ。いやあ、まいったなあ。
ヘリはだんだん近づいてきた。ああもうすぐこの世とさよならなんだなあ…。俺はドローンを見ていた。なんだかとても愛おしい、そんな気がした。
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