ドローン
空はあいかわらず黒い雲に覆われていた。故郷の村は日照りが続き、おテントウさまなんてうんざりしたもんだ。いまはそいつが懐かしい。暖かい陽の下で死にてえな。
「腹へったなあ」
食事をしていない。あんなクソまずい
「うまいじゃん」
歯が折れそうなほど硬いそれを口の中でゆっくりととかす。じんわりと苦味が舌の上に広がり、申し訳程度に甘さを感じる。それが何とも五感を痺れさせるように刺激する。ちょっとのあいだ、傷の痛みを忘れた。
チョコレートを味わっていたら、遠くからブーンというおかしな音が聞こえた。あわててヘルメットをかぶった。あの音はドローンだ。音の大きさから言って偵察用だと思った。岩陰から覗くと案の定、そいつは偵察用のドローンだった。ミサイルや爆弾はくっついてはいないが、それでも見つかるのはよろしくない。見つかりゃあロケット誘導弾が飛んでくる。
機体の先端にドーム状の突起がある。厄介な監視カメラのレンズだ。望遠、標準、そして困るのが広角レンズだ。赤外線も感知するそれは、生き物で体温さえあれば感知する。まあ火のそばにいれば見つからないだろうが、あいにくここにはそんなのはない。
「基地に戻るか?」
いやこの傷じゃ速く走れない。基地にたどり着く前にロケットが飛んでくるだろう。なら選択肢はひとつだ。俺は自動小銃に弾倉を叩き込み、弾薬を装填した。フルオートで撃つと弾薬はすぐになくなるから、ここは難しくても一発ずつだ。
パン パン
乾いた音が荒れ地に響く。十発目でドローンは煙を吐いて墜ちた。あのようすじゃこっちの位置はバレていないだろう。しかし弾を十発も使ってしまった。まあしかたない。
俺は残りのチョコレートを口の中に放り込んだ。と、同時に近くに何かいると感じてとっさに身を伏せた。しばらくあたりをうかがっていると、キュルキュルと耳障りな金属音が聞こえてきた。戦車?にしては小さい音だし、エンジン音もしない。モーターの音だとわかるのにしばらく時間がかかった。
「あれは地上偵察用ドローンか」
やつらはさまざまなドローンをこの戦場に送り出している。もはや人間が戦っているのか機械が戦っているのかわからないほどだ。いっそのことぜんぶ機械がやってくれたら、俺は家でテレビを見ながらビールを飲んでいられるのにな。
やがてそいつはだんだん俺の方に近づいてくる…。
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