ポケットの中

ヘルメットを取って膝の下に入れた。こうすると痛みが和らぐ。肩には何かの破片が刺さっているらしい。どっちも骨は無事なようだが。


傷の手当てをしたかった。出血はそんなでもない。だが心臓の鼓動とともに痛みもズキズキと伝わる。消毒薬と鎮痛剤が欲しかった。


味方の救援が来るまでどのくらいか?歩哨任務が終わって司令部に連絡を入れた。つぎの連絡まで四時間。それまでこの基地の異常はわからないだろう。基地のあのようすじゃ、無線機も破壊されているだろうし、なにより通信アンテナが吹っ飛んでる。こっちから連絡する手段はない。


「まいったなあ…」


弾薬がないんじゃ敵が来たとき戦えない。もっとも、弾薬があったって、たったひとりじゃなんにもできない。降伏するか?いやダメだ。あいつら捕虜をとらない。そこらへんに穴を掘らされ、頭を撃たれて埋められるだけさ。


冷たい風が吹いていた。やつらが落としていった爆弾やミサイルの、炸薬や燃料の燃えた匂いが混じっている。この中にゃあ、俺の小隊のやつらの焼け焦げた匂いも混じってんだろうなあ…。ちょっと吐き気をもよおしちゃった。


「なんか持ってたかな?」


上着のポケットをまさぐると、チョコレートと革の手帳、そしてキュービーという小指ほどの大きさの天使の人形が出てきた。俺の地方じゃお守りとして、もっぱら子供が身につけている。妹が戦場に赴く俺にくれたのだ。


ズボンのポケットも見てみると、幸運なことに返し忘れていた自動小銃の弾倉が一本、あった。なんだかすごくうれしかった。弾倉の中には三十発の弾丸が入っている。たったそれだけだったが、三十発分の命の保証があると思った。あとは破片型手榴弾グレネードが一個か。まあ自爆用だな、こいつは。あいにく医療キットは持っていない。衛生兵のサジルも…死んじゃったろうな。


とにかくたったひとりの戦場で、生き残るための全部がそれだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る