たったひとりの戦場
夏之ペンギン
たったひとりの戦場
空はどんよりと曇っていた。もう爆撃は止んだようだ。
「よっこいしょ」
岩陰から身を起こした。肩と膝をやられた。だが動けないほどじゃない。いやラッキーだった。歩哨任務が終わり、ようやくトイレに駆け込んだときにそれは起きた。UGS軍戦闘爆撃機の空襲だった。トイレからあわてて飛び出したら、そのトイレが吹っ飛ばされた。爆風で前哨基地の外に放り出されたのだ。おかげで命拾いしたんだ。
「基地は…ありゃあダメだな…」
五十人ほどがいた小さな基地だが、みな死んだろうな。炎と煙ばかりで、動くものはなかった。
最果ての地アルムス。牛飼いがのんびりと丘を登り、わずかな麦と芋しか採れない荒れ地ばかりの、それでも穏やかなそんな国に、隣国UGSが突如領土を侵犯、戦争になった。そして半年が過ぎ、膠着状態に陥ったこの国境付近が俺たちの戦場だった。
「ええと…」
とりあえずいま身につけているのはヘルメットと防弾ベスト。それに自動小銃、か。ナイフは苦手だから戦闘には役立たないな。歩哨任務が終わって、すぐにトイレに駆け込んだから装備はそのままだが、肝心の銃の弾薬がない。弾薬は掩体壕の弾薬ケースにしまってあるのだ。
こりゃどうにもならないな…。俺はもういちど岩陰に座り直した。
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