第二幕 序章 ニンジャ・マジック開幕!
イギリスのとある橋にて、金髪の少女が鼻歌を歌いながら何かを準備している。
取り出したのはトランプやステッキ。黒いシルクハットにオーバーオールの服装からも、彼女のやることは簡単に予想できるだろう。
「さぁさぁ、見てって見てって!マジックショーが始まるよー!」
大きくハキハキとした声で少女は通る人々に呼びかける。数人ほど立ち止まってくれたので、少女はニカっと笑ってマジックを始める。
「足を止めていただきありがとうございます!どうかこの瞬間だけは、現実を忘れて魔法にかかっていってくださいね!」
彼女はシルクハットを外し、観客に中身に何も入っていないことを示すと、いち、に、さんと数えて、持っていたステッキで帽子を叩いた。すると中から白い鳩が現れる。定番のマジックだ。
その後も、トランプでのマジックや観客参加型のマジックなど、さまざまなマジックを少女は披露した。
観客も驚きはするが、少女のマジックは良く言えば王道、悪く言えばベタすぎる内容で、観客の心を掴み切るには至らない様子。
しかし、少女の顔は自信に満ち溢れたままだった。
「今までのはウォーミングアップ!楽しんでもらえましたか?」
「さて、閑話休題、昨今のマジックは、どれもこれも、似たようなものだったり、SNSでタネが拡散されたりと酷い有様。私から見ても、正直ガッカリなクオリティでございます。」
「しかし、今からお見せするマジックは、世界初披露!世界各国どこを探しても、先駆者は私以外いないと、自信を持って宣言できます!」
少女のよほどの自信に、観客から感嘆の声が上がる。
少女は観客の期待が高まるのを感じていた。少女はポケットをまさぐり、あるものを握りしめる。小さな『桜の枝』は、彼女にとってはお守りのような物らしく、握りしめた後はより一層、少女の笑顔が輝いていた。
「それでは、空前絶後の大魔術、ご覧にいれましょう!」
少女は懐からテーブルクロスを取り出し、広げる。四隅をそれぞれ両手両足に固定して、橋の外側を向く。すると突然、何を思ったのか橋から飛び降りた。
観客はどよめく。そのうちの1人の男性が彼女が飛び降りた地点に駆け寄り、橋の下を見下ろした。
刹那、男のすぐ前を何かが浮上しながら通り過ぎる。観客から驚嘆の声が上がる。男は後ろを振り返ると、観客の目線が男の頭上を向いていることに気づく。男も同じようにその方向を向くと、目を疑った。
少女が、空を飛んでいた。
テーブルクロスを巧みに使い、気流に乗っているのだろうか。不可解だ。兎にも角にも、人体が宙に浮いているのだ。その光景に観客の誰もが釘付けになった。
「お楽しみは、これからです!」
少女は観客に背を向け、まるで鳥のように自由自在に空を飛び回る。一回転、きりもみ回転、水上スレスレの飛行。
観客も始めは気流に乗っているだけ、滑空しているだけだと疑り深く観ていたようだが、目の前の少女のそれは滑空ではこなせないようなものばかり。次第にその目は純粋にショーを楽しむようになっていった。
始めは数人だった観客も、今では橋に乗り切らない人が彼女のショーに刮目している。
「さぁクライマックスです!瞬き厳禁ですよ!」
少女はそういうと、急降下し、またもや水上スレスレを勢いよく飛行する。向かう先は、橋の下。
そして少女は、橋をくぐり、円を描くように観客の頭上を通って、滑らかな動作で橋の手すりに着地した
刹那の沈黙。少女はテーブルクロスをたたみ、お辞儀する。
瞬間、町中を包み込むような大歓声が響き渡る。少女はシルクハットで観客からの投げ銭を笑顔で受け止めていた。
「どうもありがとうございました〜!」
この日、1人の大魔術師が誕生した。このニュースは、地方、全国問わず翌日のすべての新聞の第一面を飾り、瞬く間に世界中に広がっていったのだった。
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