幕間 アルカス

 アルカス。それは、植物では珍しく、一年中花を咲かせる木。

 五つの花びらからなるピンク色の花が無数に咲き乱れ、風で花びらが散る様は非常に絵になる美しい木である。

 前述の通り、この木は一年中花を咲かせ続ける。

 加えて、どのような地域にも生息している。暖かい日差しがさすような土地にも、寒さが厳しく、吹雪が止まない土地にも、水が枯れ、砂の荒野と化した土地にも、蔦と葉っぱが生い茂った土地の奥深くにも。

 世界各国に最低でも1つは咲いている木、それがアルカスである。


 動画サイトでこんな解説を見て、私は心底反吐が出そうだった。やっぱり世界は狂ってる。

 あの木の美しさ、それは花だけじゃない。夏には元気な緑の葉を茂らせ、秋には葉が枯れて、微風に吹かれて舞い落ちる。冬には枝のみが残り、寂しさと共に、どこか極寒の冬を耐え忍んでやるという気概を感じる。冬が過ぎると、一個の蕾を作って、人々に春を告げる。そして満開の花で春を祝う。

 この栄枯盛衰、消長遷移、一栄一落を表したこの生き様こそが、この木本来の美しさ。

 それなのに、一年中花が咲く?馬鹿馬鹿しい。

 本当に、世界は狂ってる。


 「ルゥー?近くのコンビニまで出かけるけど一緒に行く?」

 「…(静かにこちらに向かって歩いてくる)」

 「おっけー、じゃあいこっか。」


 私は冷蔵庫に牛乳がないことを思い出して、コンビニまで出かけることにした。ルゥもついてくることになったので、ちょっと遠回りしてお散歩しながら買い物を済ませることにしよう。

 いつもは通らない道を通っていくと、ちょっとした公園のような広場があり、その中央にアルカスとやらが咲いていた。いや、一年中咲いているみたいだから、生えていたの方がしっくりくるかもしれない。

 正直、アルカスの花は綺麗だ。この美しさを全世界の人に知ってもらえたのは嬉しく思う。だけど、これじゃただの花だ。極論だけど、チューリップでも、蒲公英だって綺麗な花だ。そっちを見ればいい。

 アルカスの木の近くに寄ってみる。シワのある幹は、どこか威厳さを持っていた。私はちょっと蹴ってみる。びくともしなかった。

 実感する。私はこの木の別の顔をちゃんと見てもらいたい。力強い、立派な木であることを知ってもらいたい。だからこそ、ルゥと二人でこの目的を達成しなきゃならないんだ。

 ふとルゥの方を見ると、私の方を見上げていた。何も考えてなさそうだったけど、どことなく芯を感じた。多分ルゥも同じ気持ちなんだろう。

 

 「ちゃんと『桜』、取り返そうな、ルゥ。」

 「…うん。」


 私たちは広場を後にした。出るまでに歩幅は一切緩めなかった。

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