08 オーク族 2
未だになんだかわからないけれども、相手の目配せやポジション取りを見ると、その狙いがわかった。ヤクタお姉ちゃん(仮)を狙うつもりだ、あの人たち。
さっきの人は殺したくて死なせたわけじゃない。昨日の盗賊さんなら20人相手でも、その場で100通りの退治しかたがあって、したいように退治できたわけですけれども、あの人は1人なのにああやって死なせるほか止めようが思いつかなかった。
武神流の強さに深刻な疑義が生じたわけですが、だとしても今のわたしには武神流しか生き延びる
敵のひとは7人。みんな、すごく息がそろっているので、対策をねる方も助かります。敵さんの呼吸が“クッ”と詰まったところに合わせて大きく後ろに飛び退く。
飛び退く、なんて動作も昔からできたわけじゃなくて、3日前ならピョンと飛び退けば、おっとっととよろめいてしりもちをつくのがわたしだった。そういうところは武神流、もっと早くおぼえてられたらよかったのに。
敵さんの前の3人と後ろに回る2人がはち合わせて一瞬ワタっとした間に、ヤクタを狙う2人の右肘を斬る。次いで、2人が上げる悲鳴に反応した残り5人の中に飛び込んで、死なさないよう、戦争はできなくなるように手や足を斬る。
「これで終わりっ!」
とはいかず、右手を斬られたものは左手で、片足を斬られたものはもう片足で、さらに襲いかかってくる!
「ええっ、なんで!?」
「それくらいの戦士ってのは、そういうもんだ! しっかり仕留めてやりな、って言っても、アンタにゃツラいか。手伝ってやるから、そいつらの足止め頼むぜ。」
ちゃっかりと、最初に倒れた男が持っていた短剣をせしめていたヤクタが男たちの背後から参戦。
彼女の戦う姿は初めて見るが、武神さまも“素質がある”と言ったくらい、実力があるのを感じる。敵さんの平均の実力を70とすると、ヤクタが78、最初の人が85くらいかな。今の敵さんはみんな大ケガをして更に弱まっているので、危なげなくとどめを刺して回ってくれる。むごいわ。
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やがて、周囲に静寂が訪れた。空気が重い。
夢中で体を動かして、勝つところまでは、まあ気分がいいものだ。自分にこんなところがあったことは今更ながらに驚く。そこまではいいが、その後、たくさんの人がゴロゴロ倒れているのを見ると、やっぱりこれは「ないな」と思う。
ヤクタは嬉しそうに口笛をひとつ吹いて、慣れた手付きで敵さんたちの懐を探っている。あんな大人にもなりたくない。でも、ああやって生計を立てることもアリなのかな? どんぐり拾いのネズミ婆になるのとどっちがマシだろう?
好きなように生きるって、けっこう難しいことじゃない?
「やぁ、コイツら、思ってたより大物だったぞ。ただの斥候じゃなかったっぽい。」
ウッキウキの笑顔で戦利品を並べるヤクタ。
最初に倒した人が隊長だったらしく、一番いい剣は折れちゃってるけれど、短剣は蛇の細工もかなり上等の、
「この量、どう持って帰ってどう売りさばくかは悩むが、上手く売れたら王都に家を建てられるぜ。」
「マジですか!! 絹のドレスも買える!?」
「ああ、買える。いきなり現金なヤツだな。でも好きだぜ、そういうの。
…これはロープで
「そんなぁ。
……ちょっと待って、誰か来るよ。馬に乗ってる、人。この荷物運んでくれないかなぁ。」
霧は戦っている間から急に晴れてきて、今ではもう青空が見えてきた。ポカポカとした日差しが降りそそぐと、現状の異様さが際立ってくる。
面倒事になる前に隠れたほうがいいだろうか? とも思うけれども、ヤクタは戦利品を死守したい目をしている。わたしだって、値打ちを聞いたら捨てる気にはなれない。絹じゃなくてもいいから、憧れのイルビースのドレス、化粧品……
「あ、近づいてくるひとが馬に乗った盗賊だったらいいのに。馬も手に入ったらいい事ずくめだよね!」
「アタシが言えた義理じゃないが、そういう発想は、ちょっとアイシャにはどうだ、っていうか、あの、だな…」
勝手なものだ。とはいえ、ヤクタのどん引き顔をみて冷静になる。とりあえず、どんな人が来るのか確かめるまで、保留にしよう。
「……ところでヤクタ、この剣、もらってもいいかな。」
「気に入ったのか? いいぜ、アタシはこいつらの剣をもらうから、やるよ。」
「わぁい、ありがとう。四世ずんばり丸! いや、ちがう名前にしようかな。突き刺して斬る感じだから、つらぬき丸! っていうのはどうだろう。」
「その名前は
「いやだなぁ、鉄は燃えないから薪にはならないよ。わたしのことバカだと思ってるでしょ。」
「……賢くはないだろ?」
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