03 盗賊 1
残った盗賊を追い払い、武神さまにバナナのおかわりをねだったあと、夜明けを待たずに歩きだすことにした。こんな物騒なところでは休みたいとも思えないし、先の一幕で眠気も吹き飛んでいたからだ。
日の出の方向に歩けと言われていたので、沈む月を背にして歩く。だいたいこちらの方だろうと思ったのだが、かなり見当外れな向きに歩いちゃっていたことには結局気づけなかったわけで。
道々、武神さまから父と兄はとりあえず無事なこと、それから“わたしに訪れるはずだった運命”について聞かされた。ちょっとショッキングな運命だったので、これは落ち着いてから考え直すことにしよう。
そんなこんなで、多少さびしさも薄まりつつ歩き、途中、もう少し長い棒を杖代わりに拾って“ずんばり丸”を“ずんばり丸二世”へと交代したりもしつつ、空が明るくなりだした頃、川と小屋があることに気づいた。
小屋は無人で、机と椅子と、寝床があるっきりのワンルーム。猟師さんの休憩小屋かしらと思いつつ、寝床を見た瞬間にどっと疲労が押し寄せ、半ば無意識に寝床に潜り込み、就寝!
*
「……ォィ……ォラ、起きねぇか! テメエ!」
目が覚めると、わたしは襟首を掴まれてぶら下げられていた。
掴まれた見知らぬゴツイ女の、野獣のように鮮やかな
「おはようございます。私はヤーンスの町の染糸屋のアイシャです。こちらに来れば川と案内人がいると聞いてやって来たのですが、寝床まで用意してもらっていたので、つい。これはあなたの寝床ですか?」
ぶら下げられたまま眠い目をこすろうとして、左手は無意識に”ずんばり丸二世”を握ったままだったことに気づく。………
何呼吸か遅れて、今が昨夜の続きであることがわかってきた。
「いーぃ度胸だ。アタシは、ヤクタ。泣く子も黙るカディンの森盗賊団の頭目さ。ここは、アタシ専用の休憩所。アンタ、ヤーンスの町って言ったね。昨日襲った避難民の迷子かい。」
日に灼けた黒い肌、癖毛の短い黒髪、黒い粗末な服を着て、一点だけは派手な
「あ、あなた、悪い人ですか。」
*
ぶら下げられた小柄な娘は、一見ぼんやりと、しかし瞬間、致命的な勢いを込めて左手の棒を突き出す。その、攻撃?に、本能で危険を察知した女盗賊は娘を放り投げ、後ろへ大きく飛びすさって棒の攻撃をかわす。
そしてすかさず、後ろに並んでいた男たちへ指示を出す。
「ボサッとしてんじゃないよッ! コイツを捕まえな!」
投げ出されて背中から叩きつけられるかに見えたアイシャは、どういう受け身を取ったものか無音のまま大の字で床に落ち、「ふぎゃっ」と空気の漏れるような声を発しながらもノーダメージで転がって、起き上がる。
そのまま、取り押さえようと覆いかぶさってくる大男の頭を棒で両断!
「ぴぃゃあぁぁぁ!」
盛大に返り血を浴びてしまったアイシャが悲鳴を上げる。盗賊たちはビクッとして、あり得ない異様な状況を受け止められず、血を吹いて倒れた盗賊団No.2の実力者を眺めて立ちすくんだ。
「カイス……」「カイスの旦那ぁ…」
アイシャの方はそちらに構う理由もなく、空に問いかける。
「やっぱり、こういうのはちょっと。悪い人たちだから、そのままにするのも良くないんだろうけど。…ん、
あ、武神さま、あの女の人、技を避けましたよ?弱いんじゃないですか武神流。…素質がある?いや、わたしももう目が覚めましたから、次はちゃんとやりますよ。よぅし!」
盗賊団の7人の男たちは物騒な独り言をつぶやく血まみれの少女を前に
*
一歩下がって見ていた女頭目ヤクタは、自分の目が信じられなかった。
少女は、半身にもならない正面向きで、振り上げた左手はゆるく棒を持ち、右手はプラプラさせている、“構え”とはとても言えないような立ち姿をしていた。
それが、瞬きの間に正面の2人の膝を打ち据え、囲みをすり抜けざまに1人、後ろに回ってもう1人、反射的に顔を振り向いた最後の1人の、無造作に歩いて前に回って、膝を砕く。
左側から襲いかかろうとした2人の男は、敵を見失って足を止めた瞬間、味方の5人がもんどり打って倒れるのを見た。その向こうに、目標の少女がいる。
誇るでも、バカにするでもない、戸惑ったような無表情が、いっそ恐ろしい。逃げられるなら逃げただろうが、立ち位置が変わって出口は少女の後ろにある。
「うおおおおっ!」
少女はビクッとして、「キャッ」とか言って棒を取り落とした。今までやっていたことから見ると信じがたいが、男の大声を怖がったようだ。
男はすこし落ち着きを取り戻して大きく息を吸い、踏み込もうとした瞬間、椅子を押し出すように投げつけられて膝を割られ、気絶した。
時間にして、2分と経っていない。男たちは泡を吹いて気絶。立っているのはアイシャとヤクタの女2人。女頭目は逃げ場を探して周囲を伺うも、そんなとき、外から大勢の男達が集まってくる気配が!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます