04 盗賊 2

 じっと、外の気配を感じ取る。きっかり20人。けっこう大所帯の盗賊団だったのだなと思うと、そんなのを放置していた領主様へのいきどおりと、狙われた不運を嘆く気持ちが湧いてきて、腹が立つやら情けないやら。とりあえず目の前の頭目さんは後回しにして、八つ当たり的に新手の盗賊を退治することにします。

 


「20人、退治してきましたよ、頭目さん。昨日2人と今朝の最初の1人死なせちゃって、今日の7人と20人で、えーと、30人ですね。あと盗賊さんは何人ですか。」


もはや語るまでもなく、正面から歩いて行って1人ずつペキン、ペキンと20人。よく見ると昨夜追い払った2人も混ざっていたけど、今日は容赦なしで。



「なん…だと……。…はぁ、それで全部だよ。うちは全滅。降参だ。あのクソ野郎ども、膝を潰されやがって、まぁ、これからどうするね。むごいことしやがる。そもそも、お前さんは何者だ。うちのバカどもが古塚を壊してしまったから化けて出てきた妖怪か何かかい。」


「悪いのは盗賊さんでしょう。奪った金品とか、さらった人とか、あったら返してもらいますよ。わたしは、塚に住んでた武神さま?からよくわからない力をもらった町娘です。」


「わからん。わからんが、アタシも焼きが回ったもんだ。…さらった女子供と、しけた金品は川向かいの小屋に仕舞ってあるよ。」


 ため息混じりに頭目さんは両手を天に向けて、嘆くようでもなく負けを宣言。妙にサバサバとした表情をしているのが謎です。



「わかりました、川向かいの……あ、だめ、無理! わたしがえぐいひとごろしをやっちゃったことはお父ちゃんに知られたくない! どうしよう!どうしよう!……目撃者を消す?」

 

「待て! まあ、待て。短気を起こすな。…そういうことなら、アタシが解放してきてやる。だから、殺すなよ? 殺さなくてもなんとかなるからな?」


 今まで非常事態に流されていたけれど、もしこれを友人知人、親にまでも知られるかもしれないと気づいたら、かなりとんでもないことをしていたようだ。ないわ、これ。ないわぁ。

 ということで、ありがたく申し出に乗ることにしましたが……。


 *


 あらためてヤクタと名乗った盗賊の女頭目さんに、さらわれた人たちの解放をまかせている間、わたしは頭から被った返り血をなんとかして落とそうと、川で水浴び中。

 周りに悪い人たちがいて、何やかんややっていた間は気にならなかったけれど、落ち着いてしまうと臭いやら粘つきやら、気になって、気になって。やはり、顔も全体的にも汚い汚い男の血だからこんなに汚くて嫌なのだろうか。うるわしの王子様の血ならサラサラだろうか。そういえば貴族の人は血が青くて高貴だというから、きっと花の匂いがするんだろう。


[そんなワケがあるか。誰でも同じだ。それから、血の臭いは落ちにくいから、洗えるだけ洗ったあとは気にするな。慣れろ。]


「武神さま!? 乙女の水浴びですよ、配慮しなさい! …ところで、ずっとついて来られるんですか?」

 


[ふむ。お前の人生を見ると言ったろう。なにせ、こちらは神だからな、気にすることはない。これからは何か聞かれたらこうやって出てくることにしよう。

これは聞き流してもらっていいが……。俺はあの塚にずっと居着いていたのだが、ああいう塚というのは存在を縛る意味合いがあるものでな。アレがあったから800年この世に居れたわけだが代償として、そこにしか居ることができなかった。

 塚が壊れたおかげで、自由に動けるようになって、代わりにそのうち、もう何百年かでこの世には居れなくなることになった、ということだ。

 今、この森のなかではわりと自由だが、ここを離れたら、こうやって話せるのはひと月に一度、数分話せる程度になるだろう。]


 川の水は冷たかったが、主目的の他にも数日ぶりに体を洗う気持ちよさのあまり、最後の方は聞いていなかった。聞き流していいという言葉に甘えよう。


「わかりましたけど、水浴びのときは後ろ向いててくださいよ、体は顔ほど自信ないんですから。お願いしますね……そんなことより、貴族様の血も盗賊のおじさんの血も、わたしの血も同じって本当ですか、納得いきません!」


[納得、できなきゃ、どうするっていうんだ?]

「…えー?」

[出来ることはいろいろあるぜ。]

「…保留、します。血を見るのはイヤなものですネ。」


 *


 そうしているうち、ヤクタが戻ってきた。そのまま逃げ去るかとも思っていたが、なかなか律儀な人だ。そんなヤクタは呆れ顔で、

「ずぶ濡れじゃないか。水浴びしてた? 聞いてくれれば、手ぬぐいと石鹸くらい貸してやったのに。」

「ホントに!?」

「盗品だけどな。」

「うぅ……じゃあ…いいです…」


 どうにも最近、耳にする言葉が物騒で困る。やりたいようにやれと言われたが、盗賊になるのは、やりたいことではない。却下だ!

 まあ、自分が良い子かどうかは、ちょっと自信に欠けるところはありますのだけれども。


「お前のお仲間は解放してきてやったぜ。自分で確かめなくて本当にいいのかい。」


「今回の避難民の中には親しい人はいなかったので。ウチの家族、街の中でもちょっと浮いていたんですよね。」


「それならそれで、恩を売ってやればよかったのに。

 まあ、恩を感じるようなタイプの人は恩がなくても親切だし、恩を感じない奴には何をやってやっても損しかないからな。割り切るのもアリだな。」



 ちょっと切ない話だが、この辺の事情もさまざまの問題があるのだ。

 それはさておき、


「それでですね。わたしとしてはその人たちよりも先回りして道案内をお願いしたいんですよ。お父ちゃんはわたしを探してるだろうから。どうでしょう?」


「いいよ。

 これはこっちの都合だがね、ワケあって盗賊団の頭目なんか引き受けてたんだが、そろそろ限界を感じててね。特にカイスの野郎のエロ目線がキツかった。アンタがあいつら潰してくれたのは実は好都合だったんだ。アタシもここから出ていくから、案内くらいはしてやるよ。」


「なるほど、親切な人のタイプだったんですね、じゃあ、よろしく、ヤクタさん!」


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