5話
多元宇宙。またはマルチバースとも呼ばれるそれは、複数の宇宙の集合だ。私はその一つの中の、地球によく似た星の小さな島国で生まれ落ちた。
地球を統べる人間のように、その星を支配している私たちは、姿形が人間にとてもよく似ていた。育まれた文化や倫理観などに差異はあるものの、人間と私たちの生命としてのスタートラインは歴史を振り返ればよく似ている。時間の概念だって同じであるし、地球は私たちの星の双子のような存在なのではないか、という説が教科書に載る程には、私たちの星と地球は鏡合わせのようだった。
しかし人間は、神様という絶対的な何かと、甘い倫理観、そして自由を愛したせいで、二の足を踏み、私たちの進歩からは大きく遅れをとっているようだった。隣の宇宙からステルス機能を持った宇宙船が定期的にやってきて、その様子を観察していることにも気づけないほど彼らは呑気だ。
彼らと違って、私たちが信じ愛したのは時間だった。時間は規則的に流れてゆくので、それに合わせて動けるように、私たちの生活は何もかもが規則正しかった。国によって多少の差があるが、私の住む国はこの星の中では平均と呼べるようなルールの上で成り立っていた。
国が決めた、分単位のスケジュールの上を生き、食事は毎日国が支給する完全栄養食のみを口にする。地球で言うところの娯楽なんてまるで無い、完璧な星だった。そんな完璧さに着いていけなかった者たちは、地球のリタイアと同じ意味の言葉で呼ばれる施設に収容されるのだ。施設の中のことは、一般市民でしかない私には知る由もない。
しかし、それが完璧な生活だと分かっていても、息は詰まってしまう。だから私たちは、自由を求めて研究職を目指す者が多かった。生物学者や心理学者、とにかく何だっていいのだ。小学生の年齢である間に、全国規模で測定される学力の上位に立つことができれば、選べる職業の選択肢の中に、研究職が現れる。
研究者たちは憧れの的だった。自分の興味に突き動かされて生きている彼らは、この国で唯一時間というものを無視して良いと定められている。時間と規則に縛られた私たちにとって、彼らはこの星で最も自由な存在であることに間違いなかった。そうやってこの星は進歩してきたのだ。
私も例に漏れず研究者に憧れた。目指したのは生物学者だ。両親がそうであり、両親が他の家庭の親たちと違って時計を気にせずコーヒーを飲む姿が好きだった。生物が好きだったというよりは、私のスケジュールのわずかな空き時間を見つけては、生物の話を楽しそうに聞かせてくれる両親が大好きだったのだ。
私が特に気に入っていたのは人間の話である。人間は私たちと良く似た生物であり、両親がこっそりくれた望遠鏡を使えば、隣の宇宙の星もよく見えた。だから私は、決められた就寝時間を破って、毎晩一時間だけ地球を眺めていた。地球の狼によく似た生物を模したカメラで私たちは監視されていたが、それらはその地区の住人から選ばれた管理者の目と連動しており、私の住んでいた地区の管理者は子供を愛するご老人であったために見逃してもらえていたのだ。彼も昔は研究職であったと聞いている。私はそうやって自由な大人たちの密やかな愛に包まれながら、地球に住まう人間たちの行動を見て、一体何を喋っているのだろうかと思いを馳せていた。つくづく、恵まれていたと思う。
地球によく似た私たちの星には、価値観の違いの他に、性質として大きく異なる点がある。それは地球にはない鉱物が存在したことだ。それの名前は地球の言葉では表現することが難しいため、便宜上「鉱物A」と名付ける。鉱物Aは、時間を閉じ込めた鉱石の中に生み出された、いわば時間の塊であった。
鉱物Aは割っても0時を回ると元の形に戻ろうとする性質があり、それはただ時を巻き戻すだけではなくて、欠けた部分や消滅した箇所も補い、元の状態を維持しようとする働きを持っていた。質量保存の法則をまるで無視して、元の姿に戻るためなら、無から有を生み出せるのだ。
鉱物Aを発見したのは生物学者である私の父親だった。彼は地中深くの石の中に住まう生物の研究を進める最中にそれを見つけたのだ。優しく穏やかだった父は大発見に豹変し、鉱物Aの研究に明け暮れ、彼はその欠けを補完し修復する特異な性質を、空間に適応させる術を編み出した。それをここでは、空間Aと名づけよう。
空間Aの中であれば、記憶を考慮しなければ生き物は老いず死なず、壊れたものは元の姿に戻り、食糧だって減ることはない。そんな夢のような空間を手軽に生み出す装置を、父は作ったのだ。当然、父は国をあげて持て囃され、英雄のような扱いを受けた。時間を信じていた世界に突然時間を無視できる物体が現れたのだ、私の住む国だけでなく、星全体の価値観が揺らぐような出来事だった。……その研究のせいで、母がリタイアに送られようとも、私の将来に過剰な期待が寄せられようとも、当時十歳だった私は誇らしく鼻が高かった。
しかし幸か不幸か、父は空間Aを生み出す装置の製作者として名を馳せすぎてしまった。元来持っていた生物学者としての研究は次第に蔑ろにされていき、鉱物Aの研究のみを進めるようにと国に縛り付けられてしまったのだ。父はそれを承諾したが、鉱物Aへの興味関心と、以前まで持っていた生物学者としての志とに挟まれ苦しんでいる様子を、私は家でしばしば目撃していた。だから私は父が逸れてしまった生物学者としての夢を引き継ごうと思ったのだ。私は死に物狂いで勉学に励み、学力測定では三位に入って、将来に頭を悩ませる友人たちを尻目に迷いなく生物学者の道を選んだのだ。
次第に、私の国はきな臭くなっていった。鉱物Aが生み出したのは、新しい価値観と恩恵だけではなかった。生物は、食糧に困らず健康な状態を保てるのであれば増える一方である。となると当然私たちは増え続け、そして死なず、私が十三の頃には土地が足りなくなり、私たちの国は隣国を侵略し始めたのだ。
兵士が怪我をしても兵器を壊されても、空間Aの中であれば再生される。建物だって0時を回れば元どおりだ。その頃には父の研究はさらに進み、空間内の全てを再生するのではなく、敵国のものは再生しない、などといった細かな設定まで可能にする制御装置を生み出していた。父は、争いの火種と武器の両方を生み出してしまったのだ。その頃から同僚たちの私への目線はひどく冷たく、毎日を凍えるような心地で生きていた。
そのまま争いは激しくなる一方で、私が十四になった頃、生物学者には生物兵器の作成依頼を言い渡された。父の夢のために必死で生物と向き合っていた私は成績優秀であったため、国が用意した地下の研究室に入れられるメンバーの一員になることが決まった。
暗くて、冷たい研究室だった。自室として与えられた狭く外の空気の入らない牢屋のような部屋で、毎晩研究室の夢を見た。幼い頃、父が一度だけ連れて行ってくれた両親の研究室の夢だ。社会科見学という名目で私に研究対象の生き物を見せるため、連れて行ってくれたのだ。明るくて、暖かくて、にぎやかな生き物に囲まれた大きなガーデンルームのような、私にとっての楽園だった。
そこで、父は私に夢を語ってくれた。さまざまな生物の優れたところだけをかき集めた、完璧な生命を作りたいと。そうしてそれを地球で言うところの神として、神を信じる人間のように、絶対的な何かを愛するという心の支えを全ての同胞たちに与え、あらゆる悩みや苦しみから救いたいと。もう、きっと叶えることのできない夢だ。
夢から覚めれば飛び込んでくるのは冷たい現実だ。さまざまな宇宙と星から集めた選りすぐりの凶悪な宇宙生物たちに、筆舌し難い残虐な細工を施して、より命を奪える生物を生み出していく。そして国に指定された時間通りに地上に送り出した。楽しいはずがなかったが、仕方がないとも感じていた。私は罪人の子であるのだ。仲間であるはずの研究員たちにどれだけ罵られようと、それだけのことを父はしてしまったのだ。そんなことを考えながら、死んだように生きる毎日であった。
そんな憂鬱な研究室で、私が何よりも頭を悩ませていたのは、生み出した化け物たちの知能の低さである。彼らには国の違いなんて見分けがつかないから、敵味方関係なく襲ってしまうというのが課題であった。戦地を覆う空間Aにいる限りは食い荒らされようと零時を回れば復活するのだし、復活した後の彼らには記憶がないのだから何度食い荒らしたって構わないと、そんな無茶苦茶なことを言われながら私たちは化け物を作り続け、味方もろともその餌食にしてきたが、無駄を省けるなら省きたい。
私の仲間たちはとっくに心を壊していたため、その命令に歯向かう素振りすらなかったが、私には死にかけの良心が残っていた。どうにかなってしまいそうで、独断で国に訴えかけたのだ。もっと知能の高い生物から脳を取って、それを使用した化け物を作り、敵味方を判断できるように調教してから地上に送り出したいと。そのためには知能の高い生物を探す必要があり、時間が必要であると。今思えば、なんて呑気な申し出だったのだろうと思う。しかしあの時の私はそれしかないと本気で思っていたのだ。
返答は、同胞の脳を使えばいい、と、そのたった一文だけだった。私は呆然とした。手に入る敵の遺体はどれもこれも食い荒らされて使い物にはならないし、生きたまま誘拐して来ても、とてもではないが私にその頭を割ることはできない。研究室の仲間たちにも協力は見込めなかったし、私は生まれて初めて「何もできない時間」というのを経験してしまった。
私はいよいよおかしくなってしまいそうだったが、ふと、思い出したのだ。隣の宇宙の地球という星に住まう生物のことを。あれは、私たちとはまるで違う生き物だ。彼らなら、私は手にかけることができるのではないか。そんなことを思ってしまった。
私はその浮かんでしまったアイデアを再び国に送りつけ、人間を調査し、最終的には生物兵器に組み込むことの許可を勝ち取った。圧縮し冷凍した大量の化け物たちと研究道具。それから空間Aを詰め込んだ宇宙船に一人で乗り込み、決死の覚悟で私は宇宙へと飛び出した。
行き先を海窓にしたのは、ちゃんとした理由がある。宇宙船を隠しやすい海が近くにあり、それから、……ええと。とにかく、たまたま望遠鏡の先にいた、平穏な海に目もくれず堤防の上で大あくびをしていた白猫を撫でてみたかったなんて、呑気な理由では断じてないのだ。
1
私の星ではまずあり得ない曲がりくねった道、鮮やかすぎる色の建造物、整頓されていない樹木、味が濃くて栄養を取るためにしては無駄なものが入りすぎている食糧たち、エトセトラ。遠くから見ていた時から知ってはいたものの、やはり間近で見てみると、地球は何とも非効率的で整っていない。スケジュールを常に気にしているのなんて会社勤めの人間の中でもほんの一握りで、大体の人間が気兼ねなく笑い、それぞれに幼い頃から没頭できる娯楽や趣味も持っていた。
遠い宇宙で、今もなお私の同胞が大勢死んでは何も知らないままに起き上がっていることなんて考えられないような、平穏でお気楽な世界に眩暈がする。地下の研究室にいた時の癖でつい時計を見るけれど、町の所々においてあるそれはずっと前から故障したまま動かないでいるなんてことも珍しくなくて、この星で生まれていたなら、父があそこまで鉱石Aにのめり込むこともなかっただろうかなんて夢想した。
馴染めない空気に大きくため息をつくが、血の臭いに囲まれたあの研究所に居続けるよりは断然マシだった。しかし目的はバカンスではない。私はこれより、実験台にする人間を見繕って、試作をいくつか作り、ゆくゆくは高い知能を持った生物兵器として母星に送り出さなければならないのだ。そうと決まれば、まずは自分の居場所作りである。
「同前正太郎と言います。よろしくお願いします」
桜という植物の花が窓から入り込んでいるのに、誰も窓を閉めようとしないのは何故だろう。掃除は自分達でやると聞いたのに。そんなことを思いつつ、高校一年生になるタイミングで遠くから引っ越してきた少年、同前正太郎として、回って来た順番の通りに席を立ち、私は短く自己紹介をした。
滞りなく自己紹介ができたはずだと座ろうとして、他の生徒たちの自己紹介の終わりに必ず教師が言っていた「はい、よろしく」という相槌のようなものがないことに気づく。それを合図に座ろうと考えていた私は困惑するが、教師は私を黙ったまま見据え続けている。
好奇の目が集中している。見た目は人間とほとんど変わらないし、苗字も名前も、適当に見ていた地球のニュース番組に登場していた人物から拝借したものだ。言葉遣いは学園ドラマと呼ばれる番組で見た自分と同じ年齢の少年を真似ているため、発音におかしいところはなかったはずだし、制服だって今日のために揃えておいた。戸籍だってこの町の老夫婦の養子として様々に細工はしたものの違和感なく受け取られている。まさか彼らに私が別の宇宙から来た存在であるとは見破れないはずだ。……どうしようもなくなったら今は海底に沈めて隠している宇宙船を呼び出して、数人連れ去って帰ろう。もちろん彼らの歴史を壊したいわけでは無いから、これらは最終手段ではあるが。
私に突き刺さる視線の理由を聞くこともできず、ただ立ち尽くしながらそんなことを考えていると、教師はハッとしたように気を取り直し、声を荒げた。
「猫俣さん、入学初日から何をしているんですか!座りなさい!」
そこで私はようやく気がつく。視線は私に刺さっているのではなくて、私の背後に刺さっているのだと。振り返り、私はギョッとする。そこには足しかなかったからだ。
ゆっくりと見上げ、私はさらにギョッとした。机の上に立ち、学校指定ではない赤いジャージに身を包み、赤いアンドロイドの頭のようなお面を被ったその人間─おそらく少女は、よく分からないがキレのあるポーズをとって、「ワハハ!」と高らかに声を上げた。
「僕の名前は猫俣創成!人助けが趣味だ!困ったことがあったら僕に手伝わせてくれ!よろしく!」
教室に響き渡るその声はやけに明るく爽やかで、私は呆気に取られながら彼女を見上げた。彼女は私の視線に気がついて、軽やかに地面に着地する。その存在感は大きかったが、こうして同じ床に立ってみると彼女は私より十センチほど下の位置につむじがあった。身長は百六十センチほどだろうか。くたびれた赤いスニーカーを履きながら、彼女は私の顔を見上げていた。
「君、ここら辺では見かけない顔だな。……ああ、最近引っ越して来た子って君のことか!よろしく、同前」
言いながら、彼女は握手を求めてきた。差し出された手を拒否する理由もないためその手を取ると、細く頼りない手は冷たく、傷跡と絆創膏でゴワゴワとしていた。これが私と、猫俣創成の出会いだった。
自己紹介が終わり、明日から始まる授業の確認も終わると、昼前に高校初日の日程は終了した。居場所を確保したところで、私はこれから本来の目的である実験台の調達に移らなければならない。しかし席を立とうとした私をクラスメイトが取り囲んだ。「どうして海窓に?」「どこから来たの?」「恋人いないの?」「何が好き?」「趣味ある?」と四方から問いが投げつけられていくが、あいにくはっきりとした解答もできなければ、日本語をうまく使える自信も、会話の中でボロを出さない自信もないため返答に困ってしまう。黙ったままでいると更に問いは増えていき目が回っていく。田舎と呼ばれるような場所を拠点にしたのは失敗だったかもしれない。そう自分の判断を恨み始めた時、よく通る声が私の名前を呼んだ。
「同前、先生が呼んでる。職員室分かるか?案内するから、荷物まとめて僕に着いて来てくれ」
教室前方の扉から顔を出し、こちらを手招いているのは赤いお面だった。私は「悪い、通らせてくれ」とクラスメイトの間を抜けて、背を向けて先へと行ってしまう鮮やかな赤色の後ろ姿を追いかけた。
部活の勧誘で賑わう廊下を抜けて、彼女は階段を登っていく。
「やっほー創成ちゃん。明日バレー部の部室整理手伝ってくんない?人手足んなくてさあ」
「ああ良いぞ。でも十五時に近所の小学生と遊ぶ約束があるから、一時間程度しか居れないがそれでも良いか?」
「助かる〜ありがと」
「お、創成。近い内にばあちゃんの八百屋に寄ってくれよ、この間のお礼がしたいってさ」
「分かった。今日帰る途中に寄らせてもらう」
すれ違う生徒たちだけでなく、教員にも話しかけられては、彼女は嬉しそうに返事をしている。余所者の私が分かるほど彼女はこの学校で目立っているし、校則なんて破り放題の格好をしているが、人望があることは最上階に着くまでに思い知らされた。
私はこの学校の間取りを頭に入れている。彼女はあの質問の渦から私を救い出すために声をかけてきたのであり、職員室に向かっていないことは気がついていたが、黙ってその後を追い続けた。何となく、彼女が私をどこに連れて行こうとしているのかが気になったのだ。
彼女が歩みを止めたのは、立ち入り禁止の札が下がった、明らかに生徒だけでは入れない扉だった。
「……立ち入り禁止、って書いてるぞ」
一応読み上げてみるが、お面の向こうからこちらを見つめる彼女の表情はわからない。しばらく見つめ合った後で、彼女が突然「ふふん」と得意げに鼻を鳴らした。一体何だというのだ。
「ここの鍵、壊れてるんだ。こう、ちょっとドアノブを持ち上げながら押すとな……」
彼女が言葉の通り少しガタついているドアノブを持ち上げながら体重をかけると、その扉はすんなりと開いた。彼女が立ち入り禁止の看板には目もくれずに屋上へと出ていくから、私は動揺しながらもその背を追いかける。規則や規律を美徳としていた私の星ではあり得ないその奔放さに、心が躍っていなかったといえば嘘になる。
扉を越えたそこには、美しい青色が広がっていた。
私の星にも青空はあった。しかしこんな風に、空を見上げたことはほとんどなかったように思う。空を見たって空であるということしか私には感じ取れないまま、いつの間にか故郷の空は黒と赤に埋め尽くされてしまった。それを悲観したことはないし、空に特に思い入れも持っていない。しかし今、私は確かに青空に「綺麗だ」と感じて、そのまま言葉に出していた。
目を見張る私に、猫俣創成は満足そうに「そうだろ?」と頷いた。
「まだ教員の誰も気づいてないし、他の生徒たちも知ってる人は多分居ないから、昼休みとか時間を潰したい時にはここを使うと良いぞ。夏でも結構風通しが良いから、冬以外は入り浸れると思う」
「どうして知っているんだ?まだ入学初日だろ」
「僕は結構知り合いが多いんだ。この屋上がお気に入りだった去年の卒業生にここのことを聞いてな、次はあなたの居場所にしてほしいって言われて」
私がクラスに馴染めないことを今日だけで見抜いたのだろうか。空気がまるで読めないように見えて存外鋭いらしい。正体を明かせない私にとっては脅威でしかないかもしれないが、今はその気遣いが素直に嬉しかった。冷たい研究室で毎日のように浴びていた刃物のような視線を思い出し、私はそれを追い出すように首を振る。
「僕はこの町が好きなんだ。だから、ぜひ君にも好きになってほしいと思って。良い景色だろ?」
風になびく前開きの赤いジャージは、翼のように見えた。父が昔教えてくれた、地球の神話に出てくる天使を思い出す。
「……ここは、あんたの居場所にしろと言われたんだろう」
「うん。でも、一人になりたい時なんてそうそう無いからな。……あと、あんたじゃなくて、創成って呼んでくれ。かっこいいだろ?気に入ってるんだ、この名前」
私には私の星では番号でしかない名前に愛着を持つという発想が無かったため、その言葉にもひどく驚いた。人間という生物について自分は星の中でも一、二を争う知見を持っていると自負していたのだが、思っていたより人間には深い思考能力があるようだった。
明るく爽やかでいて、どこか淡々としたトーンを崩さない創成にジロジロとしか形容のしようがない視線を向けていると、ピピピ、と電子音が鳴った。彼女はその音を聞いてチャックのついたポケットから赤い携帯電話を取り出すと、通話ボタンを押して耳にそれを当てた。私の星にも似たようなものが存在するが、白くて何のお面白みもない板だ。ボタンが沢山あり色も鮮やかなそれに少し憧れてしまう。
「もしもし。……分かった。すぐ行く」
短い通話を終え、創成は携帯電話をポケットに仕舞う。
「用事ができた。僕は行くけど、同前はここに残るか?帰る時は教員に見つからないようにな」
「いや、俺も出る。……さっきの電話は、お前の趣味に関することか?」
「覚えててくれたのか」
創成はそう言って深く頷き肯定した。そして靴紐を固く結び直し、ジャージのジッパーもいちばん上まで上げて、今にもここから走り去って行きそうな体勢を整えるので、私はたまらずそのジャージの首根っこを掴んだ。彼女の苦しそうな声で我にかえり、「悪い」と謝罪しながら手を離すと、創成は咳き込みながら「どうしたんだ」と怒りもせず理由を求めた。
「人助けをして、何になるんだ?」
私の星では、皆がレールの上で生きていた。よそ見をする暇などなく、転けたら最後、そのままリタイア送りだ。それを助けようとして手を伸ばし、自分も転けたらたまったものではない。誰も助けないし助けられもしない、それが理想とされる星だったのだ。だから、創成のやっていることは私には理解し難いものだった。
「ヒーローになりたいんだ」
「ヒーロー?」
「そう。ヒーロー。え?ヒーローが何か知らないのか?」
ヒーローとは、物語における主人公を指す言葉だったと記憶している。主人公になりたいとは一体どういうことなのだろうと首を傾げると、彼女は「見たことないのか?い、一作品も?!」と驚愕しっぱなしである。
「こういう決めポーズをしてたり……、このお面の姿に変身したり……。ええ?!本当に見たことないのか?!」
さっきまで何処となく達観したような印象があった創成が子供らしく慌てふためきながら珍妙なポーズを連発しているが、生まれた国どころか星まで違うため当たり前に見覚えがない。人類史の中にそんな生物がいたという資料もなかったはずだ。
「見たことないな。一般常識なのか?」
これは迂闊なことを口走ってしまったと青ざめるが、創成は「いや、そんなことはないと思う。ただ、僕にとってはとても大切なものだから、ちょっとびっくりしただけなんだ」と珍妙なポーズのまま真剣な口調で言った。創成は少し考えてから、私の手を取る。
「今から時間あるか?僕と一緒に来てほしい」
これから電車を乗り継いで居なくなっても大騒ぎにならないような人間を探してあわよくば捕まえようと思っていたのだが、それは明日からでも遅くはないだろう。そう判断した私は創成の提案に頷き、創成と共に校舎を出た。思えば、私が私の興味のためだけに動いたのは、これが初めての出来事であった。
創成が駆けつけた先の公園で待っていたのは、海窓高校の制服を着た少女だった。目を充血させて、鼻の先まで真っ赤な彼女は、今の今まで泣いていたことが窺える顔をしていた。
「加藤、ごめん、遅くなった」
「本当だよ!遅すぎ、もっと早く来てよ……ってあれ?同前くんじゃん。何?仲良くなったの?さすが創成だねえ。でも創成、この場に男の子を連れてくるのは無粋なんじゃないの」
ジロ、と私を睨む彼女は、どうやら私のクラスメイトらしい。創成のインパクトのせいで他の生徒が霞んでしまい全く顔を覚えていなかったが、彼女は私を覚えているようだ。
「ああ、うん。同前には少し待っててもらう。ごめん同前、彼女から恋の相談を受けているんだ。しばらく待っていてくれるか」
先に言ってくれ、と思ったが私は飲み込んで頷いた。人間特有の恋というあやふやな概念に興味があったため聞き耳を立てたかったが、私を花壇に座らせて、二人は公園のトイレ裏へと消えていった。恋の相談を受けるということは、創成にも恋をした経験があるのだろうか。恋愛なんて私の星では不要な感情の最たる例であり、こんなに気軽に他人に話せるような内容ではないため今トイレの裏でどんな会話が繰り広げられているのか気になって仕方がない。バレなければ良いだろうか、と花壇から腰を上げたところで、二人がトイレ裏から出てきた。加藤はさっきの泣き顔が嘘のように晴れ渡った顔をしている。
「あ〜、やっぱ創成に抱きしめられながら思う存分泣いたら気分がさっぱりするわ!創成ってすごいね」
「先輩が他の子と話しているのを見かけただけでそんなに毎回泣いてたら、いずれ干からびないか心配になるぞ。側から見て完全に両思いなんだから早く付き合ったらどうだ?」
「こういうのは駆け引きが楽しいんでしょ!」
泣いていたのが嘘のようにスキップで跳ね回る加藤とは公園で別れて、次は商店街の八百屋に顔を出した。二つの場所の位置関係は高校を挟んで真逆にあり、運動不足の私の足はすでに限界を迎えそうだったが、軽やかな足取りの創成の歩みを邪魔したくなくて、息が弾んでいるのを必死で隠して追いかけた。
八百屋に入っていったかと思えばすぐに出てきた創成の両腕には、中身の詰まったビニール袋が下げられている。店の奥からは「本当に助かったよ、ありがとうね」と優しい声が飛んできて、創成は元気よく「また困ったことがあれば、いつでも呼んでください、駆けつけますので」と返事していた。足の悪い店主が倒れているのを見つけ、救急車を呼んだお礼を受け取ったらしい。「お礼はいらないって言ってるんだけど、でも受け取れませんって言った時の悲しそうな顔を見たらな……」と困ったように、でも嬉しそうに言う創成がとても眩しかった。
来た道を再び戻って、海窓高校のすぐそばのアパートに創成が入っていく。私はその後を追って「猫俣」と表札のついた部屋の扉をくぐった。
「ここ、創成の家か」
「うん。親は遅くに帰ってくるから適当にくつろいでくれ」
冷蔵庫に野菜を入れ終えた創成は「座ってくれ」と私をテレビ前のソファに誘導する。私は大人しくそれに従うと、創成はテレビ下の引き出しから何か板を取り出した。
「なんだそれ」
「特撮ヒーローのDVD。百聞は一見にしかずって言うだろ、一話だけで良いから、是非見て欲しくて」
DVDが何か私は分からなかったが、とりあえず創成が見せようとしているものに集中しようと明るい音楽が流れ始めた画面を見た。
見た感想としては、訳がわからない、だった。この星には映像作品という娯楽が存在しているのを知っている。私が言葉の参考にした学園ドラマもその一種である。あれは学校内で起こる事件を主人公が解決していくというものだったが、この特撮ヒーローという番組はそれとは全く違っていた。ジオラマやCGを駆使して、主人公が人型の化け物に近い形に変身し、ヒーローを名乗り化け物と戦うという野蛮な番組だった。派手なエフェクトに、突飛な設定。所々に出て来る台詞の優しさとグロテスクなシーンがいくらかコメディっぽく作られていることから察するに、おそらく子供を対象に作られた番組なのだろう。主人公の被っているメットに見覚えがあり、創成の顔を覆うそれと同じデザインであることに気がついた。この番組が好きな人間向けに作られた商品らしかった。
「……創成は、これが好きなのか?」
訝しんでいるのが声のトーンでバレてしまっただろうが、創成は気にする様子もなく頷いた。
「かっこいいだろ、凄く。……はは、面白い顔してるぞ、同前」
「どんな?」
「これのどこが面白いんだろう、みたいな顔」
図星であるが、見たくないとは思っていない。お面白さは理解できないが、創成がこうも入れ込んでいる番組に興味があった。DVDを取り出そうとする創成の手を掴んで止めた。創成は驚いて私を見上げたが、「二話も見るか?」と言うので、私は「最後まで見たい」と答えた。
「僕としては嬉しい申し出だけど、五十話あるぞ。今日中に全部見るのは無理だと思う」
「明日も来て良いか?」
「もちろん。門限は?」
私は戸籍というものが必要であったため、この町の老夫婦の頭を少し弄り、娘の隠し子であるという設定でやってきた私を養子として迎え入れてもらった。そのまま金銭面等で面倒を見てもらっているが、私が弄った頭では私の行動を制限する気は起きないはずだ。連絡を入れなくとも、連日外に出たって何も言わないだろう。
「無いな」
「じゃあ今日は親が帰って来るギリギリまで見ようか」
私と創成はソファに並んで、無言のまま、音量を下げても騒がしくカラフルすぎる世界を眺めた。時折創成の携帯電話が震えたが、創成はその一切を無視して画面の向こうの世界にのめり込んでいる。
「確認しなくて良いのか」
六話のエンディングが流れ始める間に聞いてみると、創成は「ああごめん、うるさかったよな」と携帯電話の電源を落とす。「良いのか?」と聞くと、創成はあっさりと頷いた。
「先着順って決めてるし、町のみんなも、それを分かってくれてる。電話番号を渡すときにいつも言ってるんだ。先着順だから、駆けつけられないこともあるって」
創成はいつから人助けを始めたのだろう。興味は膨らむ一方で、私はこの少女のことをもっと知りたいと思った。
「同前、休憩挟まなくても良いのか?しんどくなってきたら言ってくれ」
「いや、いい。興味があるんだ」
「気に入ってくれたのか?嬉しいな。……こんな風に、誰かとヒーロー番組を見たのは初めてだよ」
画面の向こう、主人公とヒロインが手をとって、目まぐるしく襲いかかるピンチを乗り越えている。隣で、仮面の奥の表情は見えないが、創成はそれを熱心に見つめている。
穏やかな時間が流れていた。遠くの星ではまだ同胞が毎日のように死んでいるのに、なんて私は呑気なのだろう。でも、私はこの時ようやく自分が疲れていたことに気がついた。穏やかに座って、自分が何かを作るわけでもなく、ただ誰かの創作物を垂れ流す時間というのを、私は持ったことがなかったから。
今思えば、あの時私は創成に救われたのだろう。創成に自覚はなかったのだろうが、私はあの時、初めて深呼吸をできた気がするのだ。
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高校一年、六月。学校にも町にもなんとか慣れてきて、休日には遠出して、やっと一人海に突き落としてその下に待機させていた宇宙船で回収し、宇宙船内の簡易的な研究室に閉じ込めることができた。様々に解析し、改造を施し、その結果を故郷に送る余裕が出てきた。言葉が通じる上に私たちとよく似ている人間を使うのはやはり心が痛んだが、毎日慌ただしくしている創成の側にいればそんな感情を忘れることができた。創成と出会ったのは本当に運が良かった。まさに順風満帆と言ったところだろう。
しかし当たり前といえばそうなのだが、私は文系科目と呼ばれる教科が苦手だった。だからと言って疎かにすると小テストの点に響き放課後に居残りをする羽目になる。そのため、私は休み時間になると、話しかけてくるクラスメイトたちを無視して小中学生で学ぶ範囲の本を睨みつけていた。それに気づいた創成は「人殺しそうなくらい睨んでるが、大丈夫か?」と声をかけてきた。それがきっかけとなり、私は創成に放課後の一時間だけ勉強に付き合ってもらっていた。私たち以外のクラスメイトはすでに部活動に行ったり帰宅したりで一人も残っておらず、静かな教室には私たち二人のみだ。机を繋げて、教科書を開き、二人で課題を進めながら今日の授業の要点を確認し合う。
ヒーローのお面は相変わらず創成の顔を覆い隠していて、視界が悪いのかよく物を落としていた。
「頼んでおいてなんだが、本当に毎日一時間もらっていて良いのか?」
「気にしないでくれ。部活には入っていないし、助けを求めてくれる人たちが毎日いるわけじゃない。それに、これも立派な人助けだろ?僕は満足してる」
「ほとんど毎日、お前の親が帰ってくるまでDVDを見させてもらっているし……俺に時間を割きすぎじゃないのか」
「それも頼み事を終わらせた後に、だろう?なんの問題もないさ。DVDを見てもらいたいって最初に頼んだのは僕だしな」
創成の人助けは、基本的には放課後に行われる。内容は様々で、こうして勉強を教えてほしいというものや、電球の取り替えなどの雑用、対人関係への悩みなどまちまちだ。私はそれらに奔走する創成の後を追い、創成が全て片づけた後で、平日は毎日創成の家に上がり込み、創成の親が帰ってくる十九時までヒーローのDVDを見せてもらっていた。もちろん十九時までに人助けが終わらないこともあったが、私はそれでも創成の人助けを時折手伝いながら、人間の知能ゆえの様々な悩みと、それを解決しようと身を粉にする創成を見学していた。
入学した日から続くこの奇妙な関係は、周りからは時折恋人のようだと囃し立てられることもあった。私は恋人の定義が何かわからないため、そうなのだろうかと首を傾げるばかりだったが、それを隣で聞いていた創成が珍しく怒気を滲ませた声で否定したため、それから私は創成との仲を疑われた時は否定することにしている。
私の解いたプリントと、創成のプリントを交換して赤ペンで採点をする。リズムよくペンを滑らせる音が心地良い。採点をしながら耳を傾けていると、創成が「ん?」と気の抜けた声を出した。創成のおかげもあって私が課題で出されたプリントを間違えることはないはずだが、何かミスをしただろうかと、お面に阻まれて分かりにくい創成の視線を辿ると、そこには私の描いた落書きがあった。創成がプリントを終わらせるより早く解答し終えて手持ち無沙汰となり、創成が被っているお面を軽く模写したものだったが、消すのを忘れてしまっていた。
「へえ、絵が上手いんだな」
研究室で様々な生き物のスケッチをしていたため多少は上手いと思うが、ここまで感心されると照れくさくなってしまう。私は答え合わせが終わったプリントを突き返すと、創成も慌てて赤丸をつけて私に返してきた。お互いに満点だった。
「絵を描くのは好きなのか?芸術選択科目、同前は美術を選んでたよな」
「絵を描くのが好きなわけじゃないが、書道と音楽に自信がなかったから美術を選択してる。創成は?」
「僕は音楽。どれも得意なわけじゃないから、中学の時いちばん成績が良かったやつを選んだ。……いいな、絵が上手いのって憧れる」
そうか?と聞くと、そうだ。と返される。
「今は都会にいるけど、姉が居るんだ。あの人は巨匠の美術館展示から公民館で行われてたりする小学生の展示まで、とにかく絵画を見るのが好きだった。絵を描ける人は、僕の姉の視線を奪える人ってことだ。小さい頃、姉にいろんな美術館に連れて行ってもらってそう思ったんだ。まあ、絵の良し悪しなんてわからないから、絵を見て感心した顔をする姉の方ばっかり見てたけど……」
時計が十七時を回っている。「そろそろ人助けに行く時間じゃないか」と聞くが、創成は首を振った。珍しく、今日は一件も助けを求めるメッセージが来なかったらしい。良いことではあるが、創成のイキイキとした姿が今日は見られないのかと少し残念な気分になる。しかしそれは、半分くらいは私のせいでもあるのだ。創成はメールや電話以外に廊下で頼み事をされることが多かったが、私が隣に着いて回るようになってからそれが減ったのは私の気のせいではないだろう。創成も気づいているだろうが、それを責めることもなくこの関係を続けてくれている。
「じゃあこれからすぐ創成の家に行ってもいいか?」
「そうしよう」
私たちは教室を出る。空に黒煙の一つもない、当たり前に穏やかな日だった。
四月に一作品を見終えた後、創成の提案で他の作品も見ることになった。かなりの長寿シリーズで、全ての作品を見るのには時間がかかりそうだが、それを望んだのは私だった。
創成に「そんな寂しそうな顔できるんだな」と笑われて、一作品を見終えた後、もうこの時間が無くなってしまうのかと内心とても落ち込んでいたのが顔に出てしまっていたようでとても恥ずかしかったが、提案に素直に頷いて良かったと思う。やはりなりたいと思う程のヒーローの良さというものは完全には理解できないままでいるが、それでもヒーローが希望や勇敢さの象徴のような存在であること、そしてそこに惹かれる心理はなんとなくわかるようになった。
今日もいつものようにDVDをセットして、創成が再生ボタンに手をかける。しかしその指がいつまで経ってもボタンを押さず、私が「どうした?」と聞くと、創成は突然立ち上がり、自室へと消えていった。洗面所とリビングにしか入ったことがなく、人の家で動き回るのは失礼にあたると知っている私はそれを追いかけることはできなかったが、創成はすぐにリビングに戻ってきた。その腕には、スケッチブックと色鉛筆のセットが抱えられている。
「同前、お願いがあるんだ」
創成は私にスケッチブックを差し出す。手にとってぱらぱらとめくってみるが、最初の数枚に奇妙な人の形が描かれているだけで、他のページはまっさらなものだった。
「そこに、ヒーローを描いてほしい」
何を言われるのかと身構えていたが、拍子抜けするお願いだった。現状私は創成に助けられてばかりでいる。そんな私にできる頼みならばいくらでも聞こうと腕まくりをしながら、テレビの下に並ぶカラフルなパッケージを指差す。
「どれだ?」
創成は「あー……」「ええと……」と意味のない言葉をいくつも並べた後で俯く。
「僕、ずっと理想のヒーロー像を持ってるんだ。でも絵がすごく下手で、実際に見れる形にできないんだ。だから、同前に描いてほしいんだ……」
消え入りそうな声の後で「や、やっぱりいい。ごめん、変なこと言って」と私に渡したスケッチブックを取り上げようとするので、私はそれを避けて逆に色鉛筆のセットを取り上げた。
「何色が好きなんだ?」
「……え?」
「何色が好きで、どんな性格で、どんなポーズを取るんだ?言ってくれ、創成の理想のヒーローを作ろう」
テレビの電源を消して、私はリビングのテーブルにスケッチブックを広げる。創成は私の正面の席に座って、聞く姿勢を作った私に、少しずつ、元から持っていたらしい希望をなぞる様に理想のヒーロー像を語っていく。私はそれを書き出しながら、頭の中でイメージを膨らませていった。
─全体的には白くて、赤いラインが入ってたらかっこいいと思うんだ。
分かった。色はそうしよう。
─銃は腰に、短刀は足につけて、場面に応じて使い分けられたら良いな。
ふうん、武器はそれほど大きくない、小回りが効くやつなんだな。
─うん。動きやすい方がきっと良いから。他には……、優しくて、明るい性格だといいな。あ、性格は絵には関係ないか。
いや、情報は多い方が良い。何でも話してくれ。
─じゃあ、性別は男がいいな。
そうか。じゃあ男性の体つきで描こう。
─決めポーズは、こう、片方は腰に当てて、もう片方は突き上げるような……こんな感じ。
ちょっとそのまま動かないでくれ。……うん、描けた。もういいぞ。
─ああそうだ、スカーフは巻いててほしいな。風に靡くスカーフは、ヒーローっぽさの象徴でもあると思うんだ。
そうなのか?今日見ようとしてたやつ、巻いてなかっただろ。
─シリーズの最初の方のヒーローはしてたんだよ。だから、スカーフもつけてほしい。
了解、他には?
─傷の治りが早い、とか。痛覚はあってほしいな、痛みを知っている人の方がきっと優しくなれる。
そういうもんなのか?
─分からないけど。「助けて、ヒーロー」って呼ばれたら、どこにいても駆けつけてくれるような、そんな耳があればいいな。
耳が良すぎても生活が辛いだろうから、「助けて、ヒーロー」だけ届く耳はどうだ?
─いいな、それ。そうしよう。……あとは、猫と仲良し。
良いな。猫と仲がいいのは、とても良いことだ。となると、そうだな、猫の耳でもつけようか。
そんな会話をしながら記念すべき一枚目が出来上がったのは、描き始めてから一時間ほど経った後だった。落書きと大差ないラフスケッチの様なそれを、「こんな感じでいいか」と差し出すと、創成は椅子から飛び上がった。
「か、かっこいい!かっこいいよ、これ、凄くいい!うわあ、僕これ貰ってもいいのか?」
「ああ……いや、待ってくれ。このスケッチブック、預かってもいいか?そんなに喜ぶなら、こんな落書きじゃなくてさ、ちゃんと描きたい」
創成が何度も何度も頷く様子がなんだか壊れたロボットみたいで、どうにも可笑しくて私は笑った。創成が「同前はそんな風に笑うんだな」と感心した様に言ったが、それを受けて、私は創成の笑顔を見たことがないことに気づき少しだけ寂しくなる。いつかそのお面の下を見せてくれと言ったら創成は嫌がるだろう。そんなことを思いながらも、与えられることしかできなかった私が創成を喜ばせることができたことに、誇らしさを感じていた。それはもう、生きている意味と位置付けて良いような、強烈な喜びだった。
週末は、相変わらず血で手を汚している。海底に沈んだ宇宙船の研究室、適当に選んで連れてきた人間は、這いつくばって私を見上げて怯えている。投与した薬剤の効果が現れるのを待つ間、私は手袋を外して汚れひとつない白い机にスケッチブックを広げた。
創成とヒーローの姿を作った日から、私はこうして、実験の合間に創成のヒーローの絵を描くことにした。平日は創成の隣で人助けを見学し、時折手伝い、創成とセットで「ヒーローの二人」なんて呼ばれることも多くなってきた。
私は創成の見返りを求めない献身を好ましく思っていた。踏切で転けて頭を打ち、動けなくなっている海窓高校の後輩を間一髪のところで助けるなんて、以前の私なら考えられないようなこともできてしまうくらい、私は創成に憧れや尊敬に近い念を向けていた。
そんな中で、休日になると本来の目的である知能の高い化け物を生み出す為の研究をするというのは、思っていた以上に苦しいことだった。人間に対して愛着は無いが、創成を騙しているような気分になることだけは耐え難い苦痛だった。そんな中でこのスケッチブックにヒーローを描くと、私の胸の軋みは治るのだ。これを月曜日に見せたら創成は飛び上がって喜んでくれる。そう思うだけで、私は前を向ける気がした。
夏休みに入る前に、長期休暇でも学校に来て、誰かのために走り回っている創成に会う理由が欲しくて美術部に入った。部室の画材を使って創成のヒーローを描き始めた時の喜び方は凄まじいもので、抱きつかれた背骨が折れてしまうのではないかと心配になったほどだ。部活が終わる時間になると私を部室まで迎えに来て、人助けの依頼があればそこに二人で向かい、なければいつも通り創成の家に向かって、課題をこなしつつヒーロー番組を見た。
そんな夏休みも終わって、季節が巡り、冬も越えて、再び春が訪れようとしていた。私は相変わらずスケッチブックに創成のヒーローの絵を描いているが、最近は創成に見せる用とは別に、自分用の絵を描くためのスケッチブックも購入した。創成のヒーローではなくて、創成を描きたいと思ったのだ。
ヒーローの絵を描き終わって、創成に見せるためのスケッチブックを学生鞄に仕舞い、今度は自分用のスケッチブックを開く。半分ほど埋まったそれには、創成の後ろ姿と、お面を被った姿しか描かれていない。創成とは出会って一年が経とうとしているのに、創成の顔を私はまだ見たことがなかった。見てみたいという好奇心がいつも胸の奥で渦巻くが、食事中も少し隙間を開けてそこから箸を入れて食べるという徹底ぶりで、そのお面の下を口すら見たことはない。おそらくそうまでして見せたくない理由があるのだと判断して、私はそのお面を外してみてほしいと言ったことはなかった。創成が見せたくないなら、私はその顔を見れなくたって構わない。顔があろうがなかろうが、創成は創成なのだ。私はそう思っていた。
しかしそのお面が外されたのはそれからしばらく経った後、なんとも呆気ない理由であった。
「今朝、登校ギリギリまでサッカーしようって言われて相手してたらさ、ボールが顔にぶち当たって、そのまま割れたんだ……」
そう言いながら、真っ二つに割れたおなじみのヒーローのお面を抱え、創成は落胆しきった声で教室に入ってきた。クラスメイトは素顔を晒して教室に入ってきた創成に「珍しいじゃん」「久しぶりの素顔だね」「なんかもう懐かしいわ。いつぶり?」と口々に声をかけているが、私は空いた口が塞がらない。
「前から傷が付いてはいたんだけど、すごくないか?この割れ方」
なんでもないような口振りで私の席の前までやってくると、創成は私に「ほら。もう見事な真っ二つぶりだ」とその切れ口を眼前に持ってきた。
「これもう廃盤なんだよなあ。他のヒーローのお面もいいけど、これが好きだし……。ん?ああ、そうか、同前に顔を見せるのは初めてだよな。僕はこんな顔してたんだ。はは、驚きすぎだぞ。想像と違ったか?」
創成の顔がどんな造形をしているか、考えなかった訳ではないが、その想像をはるかに越えた美しさに私は驚愕していた。生まれた星は違うけれど、美的感覚はそこまで違わないのだとこの一年と少しで理解している。だから、きっと創成は間違いなく美しいだろう。鶯色のまつ毛に縁取られた輝く瞳に見つめられ、声も出せずにただ固まる私を、クラスメイトたちが笑っている。
「あはは、期待してたリアクションそのまんまだ!」
「超固まってんじゃん。でも分かるわ、あの顔だもん」
「顔を知らなかった友達の素顔がめっちゃ可愛いなんて経験、私もしてみたかったなあ。私らほとんど小学校から顔馴染みだから、創成の顔知ってるもんね」
「創成がお面外してるの、中一ぶりじゃない?お姉さんにますます似てきてる」
その瞬間、創成の手からお面が落ちた。
「やっぱり、似てるか?」
「え?うん。そのまま成長すればほとんど同じ顔になるんじゃないのってくらい似てるよ」
創成がお面を拾うのを目で追いかけながら、私はやっと声を出す。
「クラスの奴らは、なんで成長した創成の姉の顔が分かるんだ?」
「……女優なんだよ、同前も見たことがある」
じっとその顔を見つめて、私は「あ」と声を上げる。創成の顔は、創成が最初に見せてくれたヒーローの隣にいたヒロインによく似ていた。人間の顔は正直あまり覚えられないが、一作品目の主要人物の顔は、なんとなく頭に入っていた。
「あのヒロインか」
私が納得して頷くと、創成は俯いて、「だめだ、落ち着かない。マスク買ってくる。先生には遅刻って伝えておいてくれ」と言い残して教室を走り去って行く。私は慌てて立ち上がり、その後を追った。そうしなければいけない気がしたからだ。
靴箱で校舎用のスニーカーを外用のスニーカーに履き替えているところで、私はやっと足の速い創成に追いつくことができた。創成は驚いた顔をして、すぐに俯く。顔を見られたくないのだろう。
「似てるだろ、凄く」
創成はその美しい顔を歪めてそう吐き捨てる。
「……似ていないといえば嘘になるが、それがどうかしたのか?」
「似てるのが、嫌なんだ」
「どうして」
「好きなんだ、姉さんのこと。でも僕は家族だから姉さんに選んでもらえない。この顔は姉さんと僕の血が繋がってる証拠で、それがどうしようもなく悲しいんだ」
泣きそうに揺れた声に、気が焦ってしまう。どうにかいつもの芯の通った声を聞かせてほしいが、なんと言えばいいのか分からない。
「伝えたのか?」
「伝えたよ。姉が東京に出る時に。でもあの時僕は小学生で真面目に聞いてなんてもらえなかったし、住所も、連絡先も教えてもらえなかった。僕は知らなかったけど、両親と仲が悪かったみたいで、両親と仲が良かった僕も嫌いだったんだろうな。姉はすぐにあの番組でデビューして、そのまま東京で恋人を作った。その相手が、共演していたヒーローの役者だったんだ」
泣き笑いのようにくしゃっとした表情で、創成は続ける。いつもどこか淡々としている創成の悲痛な表情に胸が抉られるようだったが、私が見ていなかっただけで、お面の下はずっとこうだったのかも知れない。私はここ最近間違いなくいちばん側にいたというのに、全く気が付かなかった。
「羨ましかった。僕もヒーローになれば、振り向いてもらえるかもなんて思って。僕がずっとヒーローの真似事をしているのは、その空想が頭から離れないんだ。もちろんヒーローが好きだっていうのは嘘じゃないし、憧れてるけど、この気持ちはどうしようもないんだ」
私はその目から涙がこぼれる前に、その手を取って両手で握った。
「なれる」
「……え?」
「なれる。お前はヒーローになれるよ。俺がこの町をジオラマにして、カメラマンもする。俺の故郷には町中を一人で監視できる便利な監視カメラがあるんだ。それをどうにか取り寄せて、撮影用のカメラに改造できたら……。そうしたら、五十話撮って、ハッピーエンドだ。ヒロインには創成の姉を呼ぼう」
真剣にそう言うと、創成は涙目のまま、口角を上げる。
「なんだそれ、ふふ、監督になってくれるのか?」
「ああ。できる。俺の遠い星から来た生物学者だからな。俺の星の生物学者は、人間社会でいう生物学者とは少し違って、生き物のこと全般に詳しい者のことを言うんだ。だから医療もできるし、人体実験だって可能だ。つまり創成をヒーローに改造できるんだ。……まあ、試作を作ってみないといけないから、今すぐってのは不可能だが……」
「ふ、……っく、ふふっ、あっはっは!」
創成は弾けるように笑った。授業が始まっている校舎に響くほどのその爆笑に、何事かと生徒も先生も窓から首を出している。
「はー、同前、そんな冗談言えたのか」
「冗談じゃない」
「ふふ、うん。そうだな、そうだ」
楽しみにしてるよ。創成がそう言って笑ったから、私はその日から連れ去る人間の人数を増やしたのだった。
3
季節はまた巡って、私は高校三年生になった。クラスは離れてしまったけれど、私の隣には相変わらず創成がいる。東京の大学に行くための受験に向けて勉強に専念したいと言い、創成の人助けの頻度が下がり、真ん中をとりあえずテープで留めたお面もその邪魔になると言って被る頻度が下がっていった。私は創成に「美術の先生になれそうだな」と言われたのを真に受け、教職過程ある美術大学を目指し、美術室に篭って絵を描く時間が多くなった。そして研究室に帰れば真っ先にヒーローを生み出すための人体実験をした。目が回るような毎日で、目の下に濃いクマができてしまったが、創成がこの町を出る前になんとしてでもヒーローの成功例を作りたかった。
創成が持っていたDVDを観終わって、人助けもあまり受け付けなくなって。出会った頃の私たちが一緒にいた理由はあらかた無くなってしまった。それでも私たちはできる限り最終下校時刻に校門で落ち合って、堤防近くの駄菓子屋の前にあるベンチに並び、夏の初めの夕日を眺めつつ、アイスや駄菓子を齧りながら毎日雑談に興じていた。
「卒業制作、創成のヒーローを描こうと思うんだが、良いか?」
「逆にそれで良いのか?嬉しいな、完成したら絶対に見せてくれ」
「ああ。……それと、ヒーロー制作の進捗なんだが、やっと治癒能力の向上に成功した。ただ体の修復に痛みを伴うのが難点だな」
「くく、同前が真剣な顔で冗談言うの、何度見ても面白いな。授業中に思い出して笑いそうになったんだぞ」
「冗談じゃない」
「はは、うん、そうだな。楽しみにしてる」
綺麗に笑うその顔を見て、私の胸にじんわりと温かいものが広がって行く。
幸福だった。研究職以外は基本的に決められた相手としか結婚を許されない故郷の同胞は、恋に浮かれる私に呆れるだろうか、妬むだろうか、恨むだろうか。そんなことはもはやどうでもよくて、私はこの自由に満ちたこの星を、そしてそれを象徴するように見えて私よりも囚われた生き方をする矛盾の塊のような創成を愛してしまっていた。
毎日提出していた人間を使った化け物の作成の進捗報告も週に数回から月に数回へ、文字数だってどんどんと減っていった。適当に見繕った人間と持ってきていた化け物を継ぎ接ぎして生み出したグロテスクな化け物や、ヒーローを作ろうとして失敗した凶暴な肉塊を、定期的に無人機に乗せて成果として故郷に送りつけた。一か月おきほどに望遠鏡で覗いている故郷は、つい先日敵国に空間Aの技術を盗まれて戦いが泥沼と化したようで、もう私の研究は忘れられ去られているかも知れない。が、それでもいいと思った。
幸福だった、きっとこの世界で誰よりも、幸せだと言える自信さえあった。
だからだろうか、私は地球で生まれていないから神を信じていないが、それでも罰が当たったのだと、あの時本気で思ってしまった。
夏休み前になんとか完成させて提出したそのキャンバスに、「大賞」という札が下げられている。
「かっこいいな……!」
「創成が考えたんだ。当たり前だろ」
白いヒーローが、キャンバスの中で暗い世界に光を差し込んでいる。私が実際に見てきた故郷の惨状をモデルにした地獄絵図の中で、フィクションらしいそのヒーローはあまりに白々しく、それでいて強烈な美しさを放っていた。
「本当に、ほんっとうに、おめでとう、同前」
創成はただでさえ輝いている瞳にさらに光を蓄えて、私の絵を見ていた。手前味噌であるが、なかなか、うん、良い出来であると自分でも思うのだ。
「県のコンクールだからそんなに大層な賞じゃないし、ほとんどお前のおかげだけどな。……本当に良かったのか、お前の理想を俺が描いて」
「いいんだ。それに、謝らないといけないのは僕の方だ。……あの人が、この絵を何処かで見てさ、作者の出身校を見て、僕のこと少しでも思い出してくれたらって……ほんの少し、期待してるんだ」
「……そうだといいな」
「うん。ありがとう」
私の恋は叶わない。創成の瞳の奥にいる、私の知らない女にしか創成の特別な感情は向けられない。出会った時から既に負けていた。勝とうとも思えなかった。自分が生み出してきたものなんて、流れる血と痛みを増やすだけのものだった。そんな私の手が、創成の役に立てるのなら、これ以上の幸せはないのだ。
「明日授賞式で、夏休みが終わるまで展示されるんだったよな?絶対に見に行く。ああ、明日の授賞式に関係者以外も入れたら良いのにな」
「関係者だしな」
「はは、このヒーローの原案は僕です!って乱入しようかな」
私は本当に嬉しそうなその顔を見て、たまらなくなってその頬に手を伸ばした。創成は不思議そうな顔をしてその手を掴む。出会った当初は傷だらけだった手は、随分治ってきている。
「授賞式が終わったあと、急げば最終下校時刻には間に合うはずだ。創成に会いに行きたい。明日の予定を聞いていいか?」
「いつも通り図書室で自習してるぞ。……ああでも、最近隣町で通り魔が流行ってるだろ。だから帰り送ってほしいって頼まれたんだ。明日は会えないかもな」
「そうか……じゃあ、明後日だな」
「うん。明後日。またな、同前」
それが最後の言葉になるなんて、私は思ってもみなかった。
次の日、私は朝早く電車を乗り継いでたどり着いたホールで、誇らしい気持ちで賞状を受け取った。生物学者の肩書をもらった遠いあの日なんかより、この県内の高校生限定コンクールでの金賞の方が遥かに嬉しいなんて、昔の私が聞いたらどんな顔をするだろう!
海窓に帰ってきたのは日が暮れた十九時だった。どうしても創成に会いたくて、この価値ある紙切れを見て笑ってほしくて、私は創成の自宅へと向かった。この時間に訪ねるなんて迷惑だろうかと思わないでもなかったが、私は浮かれに浮かれていたのだ。
海窓高校のそばを通りがかって、突如、鼻をついた臭いに眉を顰める。
この臭いは知っている。嗅ぎ慣れた、痛みの臭い。私の両腕に、張り付いて二度と取れない臭い。
海窓でこんな臭いがしているのはおかしいと、その臭いの元を辿っていく。
そして、私は発見してしまった。
見慣れた赤いジャージがアスファルトに沈んでいる姿を。
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