第11話

 オリジナルはその猪口ちょこをとても喜んだ。

「心遣い感謝いたします」

 そう言って、彼は毒薬のカプセルを酒で喉の奥に流し込んだ。

「どうして、殺してくれだったのさ。どうして逃げたいじゃなかったのさ」

 ヨシノはオリジナルに言う。ほんの少し声が震えている。

「私のクローンたちをこの世界に置いたまま逃げるなんて出来ませんよ。彼らの苦しみを理解している私はここにいなければならない。でも、私が生きているとまた不幸なクローンが生まれてしまう……」

 そう言いながらオリジナルはヨシノを抱き寄せる。

「スミマセンね。ヨシノ……。とてもいい名だ。私の名は……」

 ヨシノの耳の近くで囁かれた声はオレには聞こえなかった。ヨシノはオリジナルに抱かれながらうんうんと頷いている。

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