第9話

「オマエの髪は本物か?」

 ほんの少しの違和感はあるが、目の前のハンターは流暢な日本語で聞いてきた。

「ホンモノだ」

 オレは臆する事無く答える。

「ならば、髪を二本もらうぞ」

「好きにすればいい」

 目の前のハンターはオレのみずらにまとめた部分から二本の髪を引き抜いた。頭皮から毛根が抜ける感覚は当然ないが、カツラと頭皮の接着面がわずかに引き攣れる。そして、ハンターはその二本の髪の毛を口に入れた。噂には聞いていたがかなり気持ちが悪い。コイツ等は口の中で二本の髪の遺伝情報を比べられるらしい。二本の髪の遺伝情報が違っていれば、それはカツラであるから、殺害してもいい個体だと判断するのだと聞いている。オレは祈った「境目さかいめの二本ではありませんように」と。

「ふむ……、オマエはナチュラルのようだ。残念だ」

 ハンターはそう呟いた。どうやら、同じ提供者の髪を二本上手く抜いてくれたらしい。同じ提供者の髪はまとめてカツラの一部に植えられる。しかし、抜け毛を使っているものだ。まとまっている髪の分量などたかが知れている。オレは今日で一生分の幸運を使い果たしたかも知れない。


「ところで、さっき叫んだあの幼い個体はなんだ?」

 ハンターは聞いてきた。ヨシノの事だ。

「あぁ、オレの弟みたいなもんだ。何か問題があるか?」

「あの幼体で髪が短い理由を聞いている」

 オレは言葉に詰まる。なんと答えるのが正解なんだ。目立たないようにニット帽を被らせていたのに、そこからはみ出ている髪だけでそれが分かるのかよ。

「あ、えーと。それはその……」

「僕はオマエ達のペットだった。それで分かるだろ!」

 オレが言い澱んでいるとヨシノが近づいて来てそう叫んだ。

「ふむ」

 ハンターはおそらく意味のない音を発した。それに被せるようにヨシノはいくつかの音を発した。「◇〇▼※※×■◎!」オレにはまるで聞き取れない。

「◇〇▼※※×■◎△△」

 ヨシノのそれに応えるようにハンターも理解不能な音を発し、そして、オレ達の下を去って行った。


「ヨシノ、オマエ、レラジェの言葉を使えるのかよ」

「まあね」

 へなへなと歩道の縁に座り込んだオレの疑問に、ヨシノはそっけなく答えた。

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