第8話

 奴等は自らの種族をレラジェと呼んでいる。が、忌々しい存在である奴等の事は【奴等】で人間同士にはまず伝わる。人間はレラジェという言葉を発する事で家畜である事を思い出すのが苦痛なのだ。そして、レラジェと発声する事で、人間社会にハンティングをしに来ているレラジェが寄ってきてしまうという迷信がまことしやかに語られている事も、それに関係しているのだろう。


 奴等のハンティングは人間が獣を狩るようなスタイルではない。奴等は武器らしい武器を持たずに人間社会にやってくる。人間に成りすまして人間社会に紛れてハンティングを行うのだ。

 奴等にとってのハンティングとはハゲを探す事である。人間社会が奴等の管理下に入って間もない頃は、探すまでもなく見つけたハゲをその場で殺していたが、ハゲが深く隠れて以降、奴等はハゲを探し見つけ出す事に楽しみを見出したようだ。


 街路樹が色づき、日の出ている時間帯が随分と短くなった。今日もオレは任務についている。今日の任務も住宅街の徘徊だ。インターネット情報の双方向性の安全性に疑問を抱き、オレ達に助けを求める事すら出来ないハゲたちはひたすらに潜む。インターネットの網の中にレラジェがいると信じて疑わない彼らの身を守る術は家族や友人を頼って引き籠りの生活を続ける事一択いったくなのだ。


 任務は住宅街で口笛を吹き続けること。ボビー・マクファーリンの“Don't Worry, Be Happy“の口笛をひたすらに繰り返す。このメロディがハゲにとっての救いになるという噂をシャイニング・パルチザンが流布し出した経緯をオレは知らないが、この情報は広く知れ渡っているようだ。オレは今までに三人の潜めるハゲと接触し、彼らにカツラとカツラを購入するルートを与えて来た。シャイニング・パルチザンに入隊するかどうかは彼ら次第だが、彼らは紛れもなくオレ達の同志だ。同じ苦しみを抱えている仲間だ。

 どうか、カツラを被って平穏を手に入れて欲しい。


 そんな事を考えていたその時、ヨシノの叫び声が聞こえてきた。

「タカ兄! 後ろ!」

 咄嗟に振り向いたそこには一つの大柄な影がいた。人間の姿形を見せてはいるが、レラジェだ。ハンターだ。

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