第2話 一心不乱

 隆のクラスメイト・谷山の母親は末期がんで入院していた。

 不安を紛らすためか、谷山の素行は輪をかけて悪くなっていた。新任の女性教員を殴ったこともあった。

 谷山は勉強嫌いだった。谷山の住む村は、隆たちの千足村とは学校をはさんだ反対側にあった。よく授業の邪魔をし、学級の嫌われ者だった。

 そんな谷山がある日、隆に話しかけてきた。

「英語、教えて」

 という。

 隆は我が耳を疑った。


「どうしたん?」

 隆はいた。

「おかあ、長うないんやって。お母のこと考えるとつらいけん、勉強しとる」

 谷山は、昨日、村の衆がお百度を踏んでくれた、と言った。

「明後日、病院へくるように言われとるけんど、オラは行かん。英語の試験を受けるんや」


 英語の試験は土曜の午前中にあった。

 午後、谷山は親族とタクシーに乗って、母親のもとへ急いだ。谷山の姉は先に駆けつけていて、母親を看取ったが、谷山は母親の死に目に会うことはできなかった。

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