第13話 ドラゴン模擬戦に飛び入り参加
「あら、あなた、知らないの? あのドラゴンは質量を持った幻影よ。魔力で擬似的に作り出したものなの。生徒が踏み潰されても、ブレスを受けても、痛みがあるだけで、怪我することはない。だから安全に戦闘訓練ができるってわけ」
「そうなんですか」
「ちなみに授業じゃなくて、ただのお遊びだから、飛び入り参加OKなんだって。私たちはドラゴンと戦う自信ないから見物してるけど……」
見物する生徒は百人近い。だが戦っているのは十人に満たず、増える気配はなかった。
そして戦闘中の生徒から、悲鳴に近い訴えが轟いた。
「参戦者募集中! 模擬戦幻灯機を先生から借りて起動したはいいけど、強すぎて苦戦中! 誰でもいいから手伝って!」
「ほほう。誰でもいいとな。我が助けてやろうかな?」
「待って、マーナガルム。ここはボクが行くよ」
複数でないと勝てない敵。
ゲームでいうところのレイドボス。
強力なレイドボスを倒せたときの、あの連帯感は忘れられない。
ルイスが彼女らに混ざってドラゴンを倒したら、きっと友達になれるはずだ。
「きゃぁっ!」
今まさにドラゴンに踏み潰されそうな生徒がいた。
ルイスは魔法で筋力を強化して飛び込み、ドラゴンの前脚を受け止めた。
「大丈夫?」
「ありがと……え、君……素手で支えてる……マジで!?」
「やぁっ!」
「それどころか押し返したぁぁぁっ!」
「グオオオオオオオオオオンッ!」
「ドラゴンブレスよ、避けて! って、防御結界で正面から受け止めちゃった!」
「炎のブレスってことは炎属性のドラゴンだな。それなら氷に弱いはず」
「寒っ! もの凄い冷気! 氷の塊を作って……ドラゴンの口に突っ込んだぁぁぁっ! そして氷の塊が弾けて、内側からドラゴンを穴だらけにぃぃぃっ!」
ルイスが助けた少女は、メガネをかけて大人しそうな顔の割りに、実況が激しい人だった。
そして彼女の実況通り、体内から破壊されたドラゴンは断末魔を上げ、幻のように消えてしまう。いや、模擬戦幻灯機とやらで作ったドラゴンなので、実際に幻なのだ。そんな道具があるなんて、魔法学校は凄いとルイスは改めて感心する。
「よし、倒せたぞ!」
学校で戦うのは初めてなので少し緊張したが、よどみなく動けて安心した。
「君、誰!? 初めて見る顔だけど! 私、風紀委員で顔が広いから、君ほどの実力者がこの学校にいたなら知ってるはずよ! 編入生!? 名前は!?」
「えっと、ボクの名前はルイス……よろしくね」
「ボクっ子! ただでさえボーイッシュな美少女なのにボクっ子とか狙いすぎじゃない!? 私のハートを狙い撃ち! あ、私はセシリーって言うの」
実況が激しい少女はセシリーと名乗り、握手を求めてきた。ルイスは握り返す。
「ちょっと、セシリーだけズルいわ! 私にもその子とお話しさせてよ!」
「ヤバイ強さね! こんなちっちゃいのに凄すぎる!」
「ルイスちゃんがセシリーを助けた瞬間、キュンってしちゃった。助けられた当のセシリーがキュンキュンするのは無理からぬことね」
ドラゴンと戦っていたほかの生徒もルイスを取り囲み、話しかけてきた。
みんなルイスより何歳か年上だ。
けれど前世で暮らしていた村は、何十歳も年上の人ばかりだったので、これでも同年代に囲まれている気分になる。
ずっと、こういうのを夢見てきた。ルイスは自然と笑顔になった。
「ああ、ルイス様がとっても嬉しそうです。ルイス様が願いを叶えられて、私も嬉しいです。さあ、その調子で友達百人作っちゃいましょう! ……私のルイス様がみんなのルイス様になっていくのは少し寂しいですが」
「ふむ。ルイスは友達が沢山欲しかったのか。我やセレスティアという友がいるのに贅沢な奴め」
二人の精霊は、少し離れたところから控えめにルイスを見守っている。
ところが、いくら控えめにしても、身に纏っているオーラまでは隠せない。
特にマーナガルムは、黒いモフモフが空を飛んでいるのだから、どうしたって目立つのだ。
「あの黒いのなに! チョー可愛いんだけど!」
「モフモフしなきゃという使命感が湧いてくる!」
「誰の使い魔かしら。私も使い魔を持つなら、こういうモフモフがいいわね」
生徒たちが殺到し、マーナガルムを揉みくちゃにする。
「うおおお、なにをするか! 我はルイスの契約精霊マーナガルムぞ! 使い魔などと一緒にするな!」
マーナガルムは生徒たちの腕から空中に逃れ、そして大型オオカミの姿に変化した。
「え! マーナガルムって、建国の精霊マーナガルム!?」
「そう言えば、ルイスって王子が地下宝物庫に潜ってマーナガルムと契約したって噂を聞いたけど……」
「あの子もルイスって名乗ってたし、本物のマーナガルムよ、きっと!」
「ねえ、あそこにいる銀髪の人……もしかして精霊剣セレスティアじゃない!?」
「ルイス王子って精霊剣とも契約したのよね」
「ってことは、さっきドラゴンを倒したのはルイス王子!?」
「でも、どうして王子が魔法を使えるの? 疑似魔法じゃどうしたってあんな威力にならないでしょ?」
「それも気になるけど、女子の制服似合いすぎじゃない!?」
「それな!」
部外者だとバレてしまう。
騒ぎを聞いた教師がやってきて、ルイスたちは校長室に連れて行かれたのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます