第12話 フェイザリオン魔法学園

「ほら。これがフェイザリオン魔法学園だ」


 馬車は立派な門の前で停まった。

 その近くを、同じ制服を着た女子生徒たちが談笑しながら歩いている。

 門も庭も校舎も、ルイスが知っている学校よりクラシカルな作りだが、これは間違いなく学校だ。


「わぁ……生徒が沢山いるね! ボク、こういうのに憧れてたんだ!」


「そうか、そうか。では校内をザックリ案内してやろう」


 食堂。購買部。図書館。体育館。錬金実験室。中庭。校庭。魔法訓練場。

 その学校には様々な施設があった。ルイスが前世で通った小学校とは大違いだ。


「凄いなぁ……ボクも通いたいなぁ」


「試験を受ければ、ルイスなら受かるだろう。今日は体験入学のつもりで見物するといい。ところで私は、どうしても受けたい授業があるからもう行くぞ。一人で大丈夫だな?」


「うん!」


 待ち合わせの時間と場所を決めて、ルイスは自由行動を始めた。

 ルイスが知っている学校は、あらかじめ決められた時間割に従って授業が進んでいく。が、ここは生徒が受けたい授業を選び、自分で時間割を作るらしい。

 だから授業中の生徒と、遊んでいる生徒が同時に存在する。ルイスが歩き回ってもサボりだと叱られる心配はなかった。


 心配なのは、ルイスが男だとバレることだ。

 なにせ男性は基本的に魔法を使えない。マジックアイテムの補助を受けた疑似魔法を放つのがやっと。

 だから男が魔法学校の生徒なのはおかしいのだ。


 アリアとセレスティアは、女の子にしか見えないと言っていた。しかし二人はルイスの身内。冷静に判断できていない可能性がある。

 そう警戒したのだが、誰もルイスを気にとめていないようだった。溶け込めているという自覚が湧いてくる。

 と、油断した瞬間、すれ違った生徒二人が、ルイスを振り返った。

 バレたか。


「ねえ、あの小さい子、すっごく可愛くない?」

「分かるぅ。でも、あの歳で入学してるってことは天才なんでしょ。可愛い上に天才とか嫉妬~~」

「でも可愛いから許す!」

「分かるぅ」


 そう話ながら立ち去っていく。


「ボクってそんなに女の子っぽいのかなぁ?」


 ルイスは首を傾げる。


「ええ、はい。どこからどう見ても美少女ですよ、ルイス様」


 銀髪の美女が曲がり角からぴょこっと顔を出した。それから黒いもふもふ物体も。


「セレスティアに、マーナガルム。どうしてここに?」


「うふふ。留守番しているつもりでしたが、寂しくて来ちゃいました」


「我も、現代の学び舎がどんなところか、見物してやろうと思ってな」


 微笑むセレスティアは、この学校の制服を着ていた。

 彼女は服を自由自在に変化させられる。一度見た制服をコピーするくらい簡単なのだろう。


「そうなんだ。セレスティアの制服、似合ってるよ」


「っ! ルイス様にそう言っていただけるなんて、嬉しすぎて頭に血が上ってしまいます!」


「落ち着いて。本当に目が血走ってるよ。深呼吸して。冷静になって」


「はぁ、はぁ……深呼吸……冷静に……うっ、冷静に考えても興奮するので、一度血を抜きますね。ふんっ!」


 セレスティアは窓から外へ鼻血を噴射した。


「ふぅ……落ち着きました」


 セレスティアの真の姿は剣だ。人の姿は仮である。なのに血液の流れまで再現しているなんて凄いなぁ、とルイスは感心した。


「落ち着いたなら、学校を探検しよっか」


 そして二人で歩き回る。

 購買部でパンを買ったり、図書館で本を眺めたり、授業中の教室を覗いてみたり。

 学校の雰囲気を味わうのは楽しかった。

 だが、しかし。


「ルイス様。今一つ、という顔ですね」


「え、そんなことは……いや、そうかも? なんでだろう……」


「ルイス様は大勢の生徒がいる学校に通いたいと願っていました。それは同年代の友人を作りたいという意味では? ただこうして、みなさんの学校生活を眺めているだけでは不満が募るばかり。中に入っていかなければ満足できないのではありませんか?」


「そ、そうか!」


 盲点だった。

 制服を着たいとか、学校に行きたいという部分ばかりが頭にあって、本当の欲求を自覚していなかった。


「さすがセレスティア。ボクのことをボク以上に分かってくれてる! よし、頑張って友達を作るぞ!」


 とはいえ、いきなり友達になってくださいと話しかけるのはハードルが高すぎる。

 なにか切っ掛けが欲しいところだ。


「ん? なんか騒がしいな」


 ふらふら歩いていたら、校庭のほうから声と爆音、強い魔力が伝わってきた。

 駆けつけてみると、複数の生徒と巨大なドラゴンが戦っていた。

 学校にドラゴンが飛来したのかと驚いたが、周りの生徒の話を聞く限り違うらしい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る