第11話 みんなでお風呂

「ああ~~、入る前はあんなこと言ったが、風呂というのは気持ちいいなぁ。ウォーレスは風呂の良さを教えてくれなかったぞ」


 小さくなったマーナガルムは、湯船に浮かんで幸せそうに漂う。

 ルイスが魔法で作った湯船は広い。

 三人と一匹で入っても余裕のはずだ。

 なのにルイスは窮屈な思いをしている。


「ねえ。どうして二人ともボクに密着してるの?」


「それはな。ルイスが可愛いから抱きしめたくなったんだ」


「その通りです。ルイス様と一緒にお風呂に入っているのに密着しないなんて、むしろルイス様に対する冒涜とさえ言えるでしょう。まあ、アリア様はくっつきすぎな気がしますけど」


「なにを言っている。セレスティアこそくっつきすぎだ。その無駄に膨れ上がった胸の脂肪に挟まれてルイスが窒息したらどうする」


「自分が小さいからって僻まないでください。そんな硬そうな体を押しつけて、ルイス様に傷でもついたらどうするんですか」


「お前が大きすぎるんだ! 私はそこまで小さくない! そうだろ、ルイス!?」


「えっと……女の人の胸の大きさって気にしたことないから分かんないけど……普通、だと思う。痛くはないよ」


「そうだろう、そうだろう。ルイスがいいというなら、精霊がなにを喚こうと、私はこうしているぞ」


 むぎゅ。


「アリア様からは危険な香りがします。やはり私が監視する必要があるようですね」


 むぎゅぎゅ。


「ぷはっ! もう二人ともやめてよ! 本当に窒息するところだった。ボク、先に上がるね」


「ああ、ルイス、待ってくれ」


「服を着るのを手伝わせてください!」


 風呂から上がったルイスたちは、またリビングでくつろぐ。

 セレスティアが紅茶を煎れてくれた。

 それを口にしたアリアは目を見開く


「ほう。よい茶葉を見つけたな。そして煎れ方も上手い」


「あら。お褒めにあずかり光栄です」


 アリアは紅茶を素直に褒め、セレスティアは素直に喜んだ。

 どうやらルイスが絡まないことだと仲良くできるらしい。

 逆に、なぜルイスが挟まると喧嘩になるのか。実に不思議だ。


「それにしてもアリア姉様の学校の制服って格好いいよね」


「ふふ、そうであろう? 私も気に入っている。実のところ、教えを請うためでなく、この制服に袖を通すために生徒をしているくらいだからな」


「ボク、制服を着て学校に通ったことないから、憧れるなぁ」


「ふむ……学校に行ってみたいか?」


「うん!」


「分かった。いいことを思いついたぞ。明日の朝、また来る。楽しみにしていろ」


 そう言ってアリアは離宮を去って行った。


「アリア姉様はなにを思いついたんだろう?」


「ルイス様を学校に連れて行くつもりなのでは?」


「え! でも、アリア姉様が通っている魔法学校って、貴族や資産家ばかりだから、部外者はあんまり入れないはずだけど……」


「どんなに警備が厳しくても、我の背に乗れば塀を乗り越えるなど簡単だぞ?」


「あら。そういう話でしたら、私が剣になれば、あらゆる塀を破壊できますよ」


「そういう力技で入ったら騒ぎが大きくなるだけだよ」


 次の日の朝。

 アリアはスーツケース持参でやって来た。


「これは私が前に着ていた制服だ。サイズが小さくなったから買い換えたんだが、ルイスには丁度いいだろう」


 彼女が通う魔法学校は五年制。

 試験さえ受かれば何歳でも入学できる。そして能力さえあれば飛び級で五年かけずに卒業できる。

 アリアは現在十五歳で、確か三年生だったはず。

 つまり二年と少ししか通っていないが、成長期なので最初に買った制服が小さくなってしまったのだろう。


「着替えたけど……ちょっと大きいかな」


「そうだな。しかし袖が余って、手がちょこんと出ているのが逆に可愛いぞ。お前たちもそう思うだろう?」


「うーむ。我はよく分からん」


「そうか。セレスティアはどう思う……いや、どうしたんだ、そんなにヨダレを流して……」


「だ、だって、ルイス様が可愛らしすぎて……短いスカートから綺麗な足が! 女の子みたいな顔なので女の子の服を着せたらどんな女の子より女の子になると思っていましたがこれは予想以上に女の子! ああ、よこしまな気持ちが高まります……じゅるり」


「セレスティアはボクが女子の恰好したら嬉しいの?」


「はい!」


「そうなんだ。足がすーすーして変な感じだけど、セレスティアが喜んでくれるならいいかな」


「ルイス。制服を着せた私が言うのもなんだが、女の恰好が恥ずかしいという感覚はないのか?」


「別に?」


 前世では色々なゲームをやって、男のキャラも女のキャラも等しく使った。

 そもそもルイスは、自分が男性だ、という意識が薄い。

 前世で同年代が周りにいなかったから、性差というのを意識する機会がなかったからかもしれない。


「ふむ。もっと照れてるルイスを見たかったが……さすがの度胸と褒めておこう。そして想定以上に似合っているので、学校に行っても部外者だとバレないはずだ」


「なるほど! アリア姉様、頭いい!」


「ルイス様をこんなに可愛くしたおまけに、学校に行くという願いまで叶えてしまうなんて……アリア様。私はあなたを見くびっていました」


「いや、ルイスを学校に連れて行くのが主題で、可愛くするほうがおまけなんだが……というわけで今からルイスを連れて行く。昼頃には帰ってくるからな」


「分かりました。いってらっしゃいませ~~」


「楽しんでこいよ~~」


 手を振るセレスティアとマーナガルムに見送られながら、ルイスはアリアと一緒に馬車に乗る。

 考えてみると馬車というのは前世を含めても初めてだ。

 窓の外を流れる景色は自動車よりゆるやかで、王都で生活する人々を眺めることができた。

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