第9話 芝生を転げ回るマーナガルム
そして地上に戻ると、マーナガルムが久しぶりの太陽にはしゃぎ、庭園を走り回る。
「ウォーレスに匹敵する者が現れぬ限りあそこで眠り続けると意地を張っていたが、一人で外に出てもよかったかも知れんな。いや、しかし意地を張り続けたおかげでルイスと巡り会えたのだから、結果オーライか!」
芝生を転げ回るマーナガルムは、毛玉みたいで可愛かった。
ルイス、セレスティア、老師の三人は穏やかな表情でそれを見守る。
そのとき。
近くで訓練していた騎士たちの中から、一人の男がこちらに歩み寄ってきた。
「はっはっは! ルイスぅ! 俺が真面目に特訓しているのに、お前は犬とじゃれ合っているのか! これではすぐに俺のほうが強くなってしまうなぁ。いや違う! 今でも俺が強い! 色んな偶然が重なってルイスが凄そうに見えているだけだ。それにしても間抜けな顔の犬だな。Fランクのお前に相応しいぞ!」
ジェイクは勝手に勝利宣言して盛り上がる。
するとご機嫌に転がっていたマーナガルムが起き上がり、ジェイクを睨みつけた。
「ん? こいつ、いっちょ前にご主人様のために怒っているのか? はは、迫力のない威嚇だなぁ……あ、ああ、うわぁぁっ!」
ジェイクの勝ち誇った声は、途中から悲鳴に変わった。
マーナガルムが巨大なオオカミの姿に戻り、牙を剥きだしにしたからだ。
「小僧! 主と我をよくもそこまで悪し様に言ったな! 自分が強いと主張したいなら言葉ではなく実力で示せ! 今から食い殺してやるから、抗ってみせろ!」
「ひぃぃぃ、許してくれぇぇぇっ!」
「マーナガルム。その辺で勘弁してあげて。そんなんでもボクの兄だから」
「なに、兄だと? すると、こいつにもウォーレスの血が流れているのか……最高の血統なのにこんな風に育つとか、いっそ哀れになってきた。許してやろう」
ジェイクは許しを得たのに、座り込んだままガタガタ震え続けている。
そして騒ぎを見た騎士たちが駆けつけ、ざわめき始めた。
「今、マーナガルムと言ったよな……まさか初代様の精霊のマーナガルムか!?」
「左様。ルイス様は地下宝物庫に潜り、力を示し、マーナガルムに認められたのじゃ。ワシがこの目で見届けたのじゃから、疑う余地はないぞ」
老師が説明すると、騎士たちは更に騒ぎ出す。
「老師様が言うなら確実だ!」
「俺はルイス様が魔族を倒した現場に居合わせた。もっとビッグになるって信じてた。けど、まさかこんなに早く偉業を積み重ねるとは思わなかったぜ」
「ふふ。さすがは騎士団長である俺を倒したお方。今すぐ地位を譲ってもいいくらいだ」
「マーナガルムに認められたってことは、初代様の再来ってことだろ? 俺たち、歴史的瞬間を目撃してるんじゃないか?」
「建国の国王ウォーレスの再来! ルイス様は必ず英雄になるぞ!」
「って言うか、すでに英雄だろ。魔族倒してるんだから」
「うおおお、ルイス様ばんざーい!」
「ルイス! ルイス! ルイス!」
ジェイク以外の騎士がルイスを大声で称えはじめた。
照れくさいが、褒められるのは嬉しい。
ルイスはとりあえず手を振ってみた。
すると歓声が更に大きくなる。
「お、おのれルイスめ……! Fランクで、廃嫡王子のくせにっ!」
ジェイクが恨み言を呟いているが、掻き消されて誰の耳にも届かない。
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