第7話 地下宝物庫

 アルクスレイド王国王宮の地下宝物庫。

 そこにどんなものが眠っているのか、全て知っている者はいない。

 老師が言ったように、誰もが恐れ、ろくに調査がされないのだ。

 そのくせ、妖刀とか、呪いのランプとか、喋る絵画とか、読むだけで死に至る本とか、そういった扱いに困るアイテムをどんどん捨てていくから、混沌は増すばかり。


「おお、凄い。鎧が歩き回ってる。リビングメイルだね。高そうな鎧だけど、呪いも濃いなぁ」


「ルイス様、この刀をご覧ください。鞘に収めた状態でも怪しい気配がプンプンしますよ。おそらく抜いたらルイス様でも人を斬りたくてたまらなくなるでしょうね。私は精霊なので平気ですけど」


「だからって本当に鞘から抜くことないじゃん。うわぁ、本当に凄い呪いだなぁ。あはは」


「いや、あはは、ではありませんぞ! 早く刀を元に戻して、そしてリビングメイルから身を隠すのじゃ!」


「老師は心配性だね。そんなに怖いなら、ついてこなきゃいいのに」


「怖いのは怖いですが……じゃからこそ、ルイス様やセレスティア殿のような強者と一緒に潜れる機会を逃すわけにはいかぬのですじゃ」


「あら、まあ。私たちをボディガードに使おうというい魂胆ですか? いい度胸ですね」


「え、あ、いや、その」


「セレスティア。イジワル言わないで。老師が鍵を貸してくれなきゃ地下宝物庫に入れなかったんだから。護衛くらいしてあげようよ」


「ふふ、冗談です。ごめんなさい老師。守ってあげますから、私たちから離れないでください」


 というわけで地下宝物庫を三人で進む。

 石で覆われた部屋と通路が、クモの巣のように入り組んでいる。

 たとえ魔法的な危険がなかったとしても、ここを全て探索するのは骨が折れそうだ。


「な、なんじゃ、あれは! 人を丸呑みできそうな巨大ミミズじゃ! あっちにはムカデが! もしや、ここに充満している数々の呪いによってモンスターが発生したのかっ? ワシが生涯で遭遇してきたモンスターの中でも上位の気配じゃ! しかし三人で力を合わせればこの窮地を脱することが……あ、もう倒してしまいましたか……むむっ、今度は黒い塊が! あれは闇の化身ですぞ! 闇という概念がモンスター化した、精霊に近しい存在。言わば邪精霊! もしあれが地上に出たら何百、あるいは何千人もの死者が! あ、もう倒してしまいましたか……その昔、町に現れたときは大きな犠牲を払って倒したと記録が残っているのじゃが……」


「老師。うるさいですよ。ルイス様の集中力が乱れます」


 セレスティアはやんわりと叱る。


「も、申しわけありません!」


「そんな頭を下げなくてもいいけど……確かに、もうちょっと静かだと嬉しいな」


 老師は反省して声を小さくした。が、その後も驚くのをやめられなかった。


「老師にとって地下宝物庫は、好奇心を刺激するものばかりなんだね」


「地下宝物庫が、と言うより、ルイス様がお強すぎて驚いているのじゃよ……」


「そう? ボクの強さは何度も見てるはずだけど?」


「何度見ても新鮮な驚きがあります。ルイス様の底はいまだ見えませんのじゃ」


「うふふ。老師はルイス様を褒めるのが上手ですね。気に入りました」


「精霊剣セレスティア殿にそう言っていただけるのは恐悦至極ですじゃ」


 ルイスとしては、出てきた敵を倒しているだけで、老師を驚かせようという意識はない。大げさに騒がれると照れてしまう。ところがセレスティアは、老師が騒いでいるのを聞くのが好きらしい。感性は人それぞれなのだなぁと改めて思う。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る