第3話 VS騎士団長
ルイスが住む離宮。
宮というのは名ばかりで、普通の二階建て一軒家の大きさだ。おまけに木に囲まれているので、そこにあると知っている者でなければ見つけるのは難しいだろう。
隔離してやるという強い意志を感じる作り。
かつてのルイスは、寂しさを感じていた。
が、記憶を取り戻した今となっては、煩わしそうな宮廷暮らしから離れられてありがたいとさえ思う。
セレスティアが来てくれたから、孤独も埋まった。
理想の異世界生活スタート、といった感じである。
「今日からルイス様のお世話は、このセレスティアがします。あなた方はもうこなくて結構ですよ」
「セレスティア……あの精霊剣セレスティア!? なぜそんなお方がルイス様のところに……!?」
「お返事は?」
「分かりました!」
離宮にはたまにメイドたちが来て掃除などをしてくれていたが、セレスティアがそれを追い返してしまった。
ルイスとしても、機械的に仕事をこなすメイドに、セレスティアと過ごす時間を邪魔されたくない。
「それにしても、セレスティアはどうしてメイド服を着ているの?」
「あら? ルイス様は私のご主人様。ご主人様のお世話をするなら、メイド服が正装でしょう? それともゲームと同じ服のほうがよろしいですか?」
セレスティアは剣に変化するときと同じように光を放って、服装をいつもの修道女風のに変えた。
「ボクはどっちでもいいけど」
「ではメイド服で。ふふ、なかなか可愛いでしょう? 再びルイス様にお仕えする日を夢見て、色々と準備していたのです」
またメイド服に戻り、くるりと回ってみせる。
そして手慣れた様子で紅茶を煎れてくれた。
そのほかの家事もルイスのために覚えたらしいく、自信があると語る。
ルイスとセレスティアは、色々なことを語り合う。
まず彼女は、自分がもともとゲームのアイテムかつキャラクターだという自覚があるらしい。
精霊剣セレスティアは、ゲーム中最強クラスの剣だ。
武器として装備するほかに、人の姿でプレイヤーに随伴させ一緒に戦うこともできる。
その二つの形体を切り替えることで、プレイの幅が広がるのだ。
強力なだけあり、入手難度も最高クラス。
しかもセレスティアの人間形態の姿はランダムで決まるので、入手するたびに異なる。
見た目がよいセレスティアを連れたプレイヤーは注目の的であり、ルイスはその筆頭だった。
こにいるセレスティアは、ゲームで一緒に冒険した記憶を持っている。
もっとも、ゲームの中にいた頃から自我があったのではないらしい。
あるとき突然、この世界で目を覚ました。その瞬間に自我が芽生え、過去と現在を認識し、ルイがそばにいないことに絶望した。
それから約百年。
自分がこの世界に来たのだからいつかルイも来るに違いないと信じた。あちこちの町を回ってルイを探し続けた。
「そして本当に会えました……セレスティアは幸せの絶頂です!」
「ボクもだよ。ずっと寂しかった。セレスティアに会えて、本当に嬉しいよ」
「ああ! ルイス様にそう言っていただけると、絶頂の向こう側が見えてきそうです!」
セレスティアはそう叫んで抱きついてきた。
柔らかい。前世の母親を思い出して、ルイスは懐かしい気持ちになった。
ところが――。
「ルイス! 出てこい!」
和やかな時間を叩き壊すような、無粋な声が外から聞こえてきた。
ジェイクだ。
「……あれで半分はルイス様と同じ血が流れているというのが信じられませんね。私が斬って参りましょうか?」
「いやぁ、そこまでする必要はないよ。にしても、なんの用だろう?」
二人で屋敷から出ると、ジェイクが仁王立ちしていた。
それからもう一人。四十歳ほどの長身の男がジェイクの横にいた。
この国の騎士団長。
彼はアルクスレイド王国建国以来、最強の剣士とさえ噂される有名人である。
「……ジェイク様から聞いたときは信じられませんでしたが……本当にセレスティアがいますな。ルイス様を主に選んだということか」
「な、言っただろう!? この国の……いや、この大陸全ての剣士が憧れたセレスティアが、ルイス如きに渡っていいはずがない! 騎士団長よ。お前をこの国一番の剣士として見込む。ルイスに身の程を教えてやり、セレスティアの目を覚まさせてやれ!」
「その場合、セレスティアはジェイク様ではなく、俺のものになりますが。よろしいのですか?」
「……よい! この際、ルイスに目にものを見せてやれるならなんでもいい!」
ジェイクと騎士団長は、ルイスを倒せばセレスティアを自分のものにできるという前提で話している。勝手な話だ。
「ルイス様。俺を差し置いて、最強の剣士を自称しているとジェイク様から聞きました」
騎士団長は機嫌の悪さを隠そうともせずにルイスの前に立つ。
「え、いや、ボクはそんなの一言も……」
「はい。ルイス様は最強ですよ」
セレスティアが煽るような一言を発する。
「ふん……最強と一騎打ちする機会を得られるとは光栄です。とはいえ、ルイス様の腕でも宝剣を両断してしまう精霊剣を使われたのでは、さすがに勝負にならない。公平を期すため、どちらも普通の剣を使うという条件でいかがですかな?」
「戦う前提なんだ……まあ、その条件でいいよ」
ルイスは騎士団長が持ってきた剣を受け取る。
なんの変哲もない鉄の剣のようだ。
「ちっ、舐めやがって……ならば、いざ尋常に勝負!」
騎士団長は怒りの形相で襲い掛かってくる。
ジェイクはルイスがやられるところが楽しみでならないという表情を浮かべる。
セレスティアは余裕の澄まし顔。
ルイスは特になんとも思わず、振り下ろされた剣に剣をぶつける。
鍔迫り合いは起きない。
ジェイクの宝剣を斬ったときと同じく、刃を真っ二つにしてやったのだ。
「な、なにぃ!? 精霊剣ならともかく普通の剣でそんな真似、できるわけがない……ルイス、貴様なにかインチキをしたな!」
ジェイクは目を血走らせて叫んだ。
「ジェイク様、黙りなさい!」
すると騎士団長が一喝する。家臣に黙れと言われたのがショックだったのか、ジェイクは固まってしまう。
「剣は俺が持ってきたもの……間違いなく細工はない……なのに、この見事な切断面はなんだ? 剣の握り、振り上げる腕、足の踏み込み……全てが完璧に調和された、神業としか言いようのない一撃だった。俺は剣術の真っ向勝負で負けたのだ……!」
そして騎士団長はルイスの前で膝をつき、こうべを垂れた。
「数々の無礼な発言、お許しください、ルイス様。あなたの剣の境地に至るには、私の一生を賭けても届かぬでしょう。なのにルイス様は十歳という若さで至った。これからどこまで成長するのか、想像しただけで鳥肌が立ちます」
「お、おい……なんでルイスなんかを褒めるんだ! 俺の剣だってそこまで褒めてくれないのに!」
「ルイス
「いや、しかし、ルイスはFランクで……」
「FランクだろうとSランクだろうと関係ありません。ルイス様の才能は、冒険者ギルド如きに測れるものではない。ルイス様、あなたという剣士と同時代に生まれたのを幸せに思い、あなたに一歩でも近づくため、日々研鑚を重ねます!」
そう言い残して騎士団長は立ち去る。
取り残されたジェイクは慌てて走って行った。
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