高校一年生の冬、去年のバレンタインのお話。


 その年、幼馴染との苦い思い出を割り切るためか、僕には好きな子ができた。

 きっかけというきっかけはなく、だからといって一目惚れというわけでもなく、毎日同じ校舎で見かけるだけの後輩の女の子に、僕は恋をした。


 もはや恋というべきかも分からなかった。幸せそうで純粋そうな顔をした女の子が、僕はただただ羨ましかっただけなのかもしれない。感情がどうであれ、僕は好きな子と呼べる相手が欲しかった。


 その後輩は、笑顔がよかった。

 無邪気に笑うそのさまには、まるで赤子のようなあどけなさがあり、僕はすぐに心を惹かれた。友達と話している間の、小柄な後輩の上目遣いは信じられないほどの破壊力を持ち合わせていて、僕の心はすぐに崩れてしまう。


 僕は、できれば話をしてみたかった。「変化」を望むことが関係の終焉を望むことと同義でないのならば、僕はその後輩と恋仲になってみたかった。

 それでも、僕がやっぱり「変化」を望めなかったのは、話しかける勇気が出なかったのは、幼馴染との苦い思い出が心に深く刻まれていたからだ。


 「変化」の選択には、少なからず変わる勇気というものが必要になる。そんな勇気を振り絞ってまで、束の間の幸福のために関係を終わらせてしまうのは、僕は嫌だった。

 外側だけが苦いチョコレートを、さらに苦くなるのを恐れて噛むのを躊躇うように、僕はこの苦いともいえる後輩との関係を、チョコレートのように舐め続けることにしたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る