五
高校一年生の冬、去年のバレンタインのお話。
その年、幼馴染との苦い思い出を割り切るためか、僕には好きな子ができた。
きっかけというきっかけはなく、だからといって一目惚れというわけでもなく、毎日同じ校舎で見かけるだけの後輩の女の子に、僕は恋をした。
もはや恋というべきかも分からなかった。幸せそうで純粋そうな顔をした女の子が、僕はただただ羨ましかっただけなのかもしれない。感情がどうであれ、僕は好きな子と呼べる相手が欲しかった。
その後輩は、笑顔がよかった。
無邪気に笑うそのさまには、まるで赤子のようなあどけなさがあり、僕はすぐに心を惹かれた。友達と話している間の、小柄な後輩の上目遣いは信じられないほどの破壊力を持ち合わせていて、僕の心はすぐに崩れてしまう。
僕は、できれば話をしてみたかった。「変化」を望むことが関係の終焉を望むことと同義でないのならば、僕はその後輩と恋仲になってみたかった。
それでも、僕がやっぱり「変化」を望めなかったのは、話しかける勇気が出なかったのは、幼馴染との苦い思い出が心に深く刻まれていたからだ。
「変化」の選択には、少なからず変わる勇気というものが必要になる。そんな勇気を振り絞ってまで、束の間の幸福のために関係を終わらせてしまうのは、僕は嫌だった。
外側だけが苦いチョコレートを、さらに苦くなるのを恐れて噛むのを躊躇うように、僕はこの苦いともいえる後輩との関係を、チョコレートのように舐め続けることにしたのだった。
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