神の試練

 水瀬と出会い……いや、それよりも大きかった皐月さんとの出会いはあまりにも驚きだった……が、それでも時間は何事もなく進む。

 今日は月曜日、本来であれば学校なのだが三連休なので休日だ。

 朝から夜まで約束された自由な時間……特に用もないので今日は一日布団の住人になろうかと思っていたのだが、まさかの呼び出しがあった。


『良かったらうちに来ない? 水瀬も呼んでるの』


 それは能登からだった。

 うちに来ないか……まさかの休日に能登からのお誘いで、しかも水瀬まで既に呼んでいるのだという。

 俺はしばらく悩んだものの、せっかく誘ってもらったということでお邪魔させてもらうことにした。


(早まった気がしないでもないが……)


 また途中で世界が切り替わったら……そうは思ったのだが、今の俺はそこまでの恐怖はない。

 何故なら水瀬と能登が俺のことを気に掛けてくれたから。

 こっちの世界の記憶しかないのに、それでも俺の言葉を信じてくれた二人なんだ……そりゃ嬉しいに決まってるし、仲良くなったからこそ色々と楽しいしな。


(決してエッチなやり取りに期待とかじゃない……それはねえ!)


 いやあるかも……ちょっとだけ。

 前まではやっぱりおかしいし怖かったというのに、俺の中で彼女たちに対する認識が変化してからはこうなっちまった。


「そんなこんなで着いたわけだけど」


 二度目になるが、無事に能登の家に辿り着いた。

 前と同じようにご両親は居ないとのことで、少しばかりそれに安心しながらインターホンを鳴らす。

 するとすぐに能登が顔を出し、入ってと俺の手を引いた。


「お邪魔します」

「いらっしゃい♪」


 そうして彼女の部屋に通してもらうと、既に水瀬は来ていた。

 水瀬は俺を見てニコッと微笑み、こっちにおいでよと隣とポンポンと叩く。


「おっす水瀬」

「こんにちは好井君……えへへ」

「ちょっと、何かあったとは聞いたけど何その反応」

「さあ、なんでしょうねぇ」


 あぁ……あのことは話してないんだな。

 まあ特に話さないといけないことでもないとはいえ、あまりにも気になっている様子を能登は隠さない。

 機嫌良さそうに水瀬は俺の腕を抱き、その豊満な胸元を思いっきり押し付けてくる。


「気に入らないわね……私もくっ付くわ」


 そうして反対側に能登も抱き着いた。


(何だろう……もうこのやり取りに安心感さえ抱くわ)


 とはいえ、俺は能登に土曜日のことを教えた。

 アイドルの皐月怜悧が現れたロケに関して教えると、どうやら能登も友達とあの場に居たらしい。


「あれ、私も居たんだけど会わなかったわね……でもあのアイドルまで好井にお熱とか……どんだけ罪な男なのよアンタ」

「いやその……」

「節操無し……なんて言わないわよ。私や水瀬と同じで、たぶん貞操逆転が起こった名残なんでしょう?」


 俺は頷く。

 どうして皐月さんが俺にあんな風に接してきたのか、たぶんと前置きして彼女とのやり取りを教えた。

 すると二人ともあっさりと納得してくれた。


「なるほどねぇ……こっちの皐月さんは凄く人気者だけど、逆転しちゃうと評価そのものも逆になるから……」

「ほんと、全く想像出来ないわね。けどそんなあり得ないことが起こっているわけだし……そもそも、ただの高校生である好井とアイドルの彼女に接点があるわけもないしね」

「あぁ……って、本当に二人とも物分かりが良いというか……信じてくれるのが俺は嬉しいよ」

「当たり前じゃん。好井君のことは何があっても信じる」

「そうよ。というより、そう体が判断しちゃうの。アンタを疑ったりはしない……心の底から信じるってね」


 真っ直ぐに信じると言われ、俺は頬を掻くように下を向く。


(たぶん……こんな風に二人が変化して接してくるものだから、俺も二人みたいに変わってんだろうな)


 本当に……本当に二人には感謝してもし足りない。

 あり得ない俺の境遇を心配してくれるだけでなく、こうして理解を示してくれること……それが本当に嬉しくて、ついつい二人にもっと悩みを相談したりして寄り掛かりたくなるほどだ。

 だが……流石にそうしてしまうと二人の存在に依存しそうになる。

 男として、そんな恥ずかしい姿を晒すわけには……まあこうして二人に抱き着かれている時点で今更ではあるが。


「けどさ、二人とも考えなかったのか? あっちの二人への接し方でたぶんこうなってるんだと思うけど、どうせなら俺じゃなくてこう……もっとイケメンな奴とかが良いとかさ」

「ないよ」

「ないわね」


 そ、そうか……二人の否定は素直に嬉しかったけど、二人はどうやら俺の言葉が随分と不満だったらしくこう言ってきた。


「色んな人が居るとは思う……けど私は、好井君だからこそこうして気になってるんだと思うよ」

「あたしだってそうよ。好井だから……価値観の違いに悩みながらも、あたしたちを助けてくれた? アンタだからこうなってるんだと思う」

「というか逆にもう想像出来ないよ」

「そうね。好井以外にこうしてるのは想像出来ないかも」


 でもそれは、結局俺が上手く行動したからで……そう思ったら変なことは考えちゃダメと釘を刺されてしまい、俺は分かったとこの考えは一旦捨てた。

 ……そうだな、流石にマイナス思考すぎるか。

 こうして気に掛けてくれる二人に対し、こうして俺なんかがと悩むのは失礼だもんな。


「えっと、話を聞くとあっちの世界で好井君が助けたというか気に掛けているのが私と能登さん、村上君の妹さんにアイドルの皐月さん」

「四人……完全にハーレム状態ね」

「これはハーレムって言うのか?」


 ハーレムって言われると一気にクズ男感が……。


「……う~ん、こうして話を聞くとどうにかして記憶を保持したまま出来ないかな。女性にとってあっちの世界は過酷みたいだけど、こっちの記憶を持っているからこそ体験してみたいかも」

「そうよね……ある意味冒険みたいなものだし、もしかしたらこの気持ちを持ったまま好井に襲い掛かりたくなるのかしら」

「それは……止まらなくなるかも?」

「ま、あたしは襲うより包み込んであげたいんだけどね」


 あの……もう少し色々オブラートに包んでもらえると助かります。

 そう言おうとした時だ――まるで神が俺たちを試すかのように、カチッと世界が切り替わった。

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