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 早くも放課後になり、奏人と他の友人たちが傍にやってきた。


「なあ蓮、お前も遊びに行くだろ?」

「……あ~」


 せっかくのお誘いだが、悪いがこれから用事がある。

 そう伝えると奏人たちは用事って何だと気になるようだが、それを分かりやすく伝えるかのように二人が……水瀬と能登が傍にやってきた。


「ごめんね? 今から私たちが好井君を借りるから」

「そうそう。だから今日は諦めてくれる?」


 二人が俺を挟むようにそう言った。

 最近はクラスでも二人と話すことはあったので、こうして一緒に居ること自体は珍しくもない……しかし、こんな風にわざわざ言いに来たことで奏人たちは驚いている。


「そっか……じゃあ、また今度」

「お、おう」


 クラスの誇る美少女二人に挟まれる俺を羨ましそうに見る人も居たが、奏人はどちらかというと頑張れと言った視線で送り出してくれた。

 流石親友……まあでも、決して彼女たちと過ごすことが嫌ではないので頑張るも何もないが……それでもある意味頑張る必要はあるか。


「それじゃあいこっか」

「行きましょう」

「おう」


 もうさ、こうして彼女たちと教室を出ようとすればもっと視線を集めることなんて分かってる。

 けど喜んだら良いのか悲しんだら良いのか分からねえけど、二つの世界を行き来している俺の前にこの程度は悩みにすらならない……気にはなるけどすぐにどうでも良くなるんだよな。


(あっちの世界の視線とかに比べたらな)


 よくよく考えたら、街中で多くの視線を女性に向けられた。

 あれって欲望の眼差しを向けられているのもあるんだろうけど、同時に男子から与えられた苦痛とかに対する憎しみもある気がしている……性的に襲われるか暴力的に襲われるのか……やっぱ気を付けないとだな。


「能登」

「え?」


 教室を出ようとした時、能登を呼び止める声があった。

 クラスメイトの声なので聞き覚えがあり、誰か分かったが振り向こうとした俺の背中をトンと能登が押した。

 すると水瀬が俺の手を引っ張るようにこう言った。


「大丈夫。能登さんもすぐに来るから」

「分かった」


 まあ、俺が居ることで面倒なことにさせない気遣いなんだろう。


「最近付き合いがさ」

「う~ん、確かに前と変わってるけどあたしには優先したいことがあるしさぁ。他の子誘えば良いじゃん」

「いやいや、そこは能登が来てくれないと」

「そこはごめんとしか言えないよ。あたしは――」


 そんな話し声が段々と遠くなっていき、隣で水瀬がそっと呟く。


「ねえ好井君……何か迷惑とか掛かってない?」

「迷惑?」

「うん……私とか、能登さんが関わることでさ」


 不安そうな彼女の様子に、俺は大丈夫だと答えた。


「ま、目立つ二人と最近仲が良いからなぁ……けど二人が心配するようなことはないよ」

「本当に?」

「おう」


 現に俺はまだ、何もされちゃいない。

 それに……こっちの世界とあっちの世界である程度の繋がりがあると分かった以上、もしも俺がなにかされてしまったことをきっかけに二人から離れた場合どうなるか分からないんだよな。

 こっちだと問題はないだろうけど、あっちでは二重の意味で怖いし。


(純粋に悲しまれるのか、それとも許さないと言って軟禁……は流石にないと思うけど、なんかこう襲われそうな気がするし)


 それも性的に……まあそれも男としては嫌じゃねえって思えちまうんだけどさ。


「水瀬や能登と仲良くしていることを役得だって思うこともある。だってそうだろ? 二人はクラスでも有名な美少女なんだから」

「口が上手いね好井君は。ふふっ、そっか……そんな風に嬉しいことを言ってくれるから気になるんだろうね」

「……………」

「そうやって照れるところも良いよね。ねえ好井君、本当に私はもっと君のことが知りたいよ。これは恋愛感情……に近い何かだと思うし」

「ハッキリ言うよな水瀬も」

「隠すことでもないしね。それくらい君が気になってるってこと」


 今の俺、ニヤニヤしていないだろうか……。

 まあ水瀬の様子を見るにその心配はなさそうだが……そんな風に能登には悪いけど、彼女の存在を完全に忘れそうになったところで能登が合流した。


「ごめんごめん。あまりにもしつこかったから怒鳴っちゃったわ。怖がってる隙に逃げてきた」

「それは……大丈夫なの?」

「平気平気。あたしの大切な友人に手を出してみ、ぶち転がすって言っといたから」


 おそらくこの大切な友人とは俺を指すんだろうが……やり切った顔をする能登から水瀬に視線を移すと、彼女もまた俺を見ていた。


「……能登って凄いんだな」

「そうだね……流石ギャル」

「ちょっと、何よそれ」


 俺と水瀬のやり取りに、能登はぷくっと頬を膨らませた。

 そんなこんなで学校を出た俺たちはそのまま喫茶店に向かい、俺は二人と向き合う。


「……………」

「ゆっくりで良いよ」

「好井のペースで話して?」

「……ありがとう二人とも」


 話したいことがある……そうしてこの集まりは実現した。

 まあ昼休みと同じような感じではあるけれど、その時と違うのは時間切れの心配はないということ……俺が抱える秘密をようやく、他人に話せるチャンスというわけだ。


「信じてくれなくても良い……だから最後まで聞いてくれると助かる」


 そうして俺は二人に話してみた。

 俺は二つの世界を行き来していること……貞操観念や男女間の価値観が頻繁に入れ替わっているのを体験していること。

 二人からすれば荒唐無稽な話であることは百も承知だし、俺も頭のおかしい人間だと思われることは覚悟していたが……いざ話してみると俺の口は止まらなかった。


「……ってことなんだわ」

「……………」

「……………」


 話を終えた時、二人は呆然としていた。

 その様子からは俺が口にしたことを理解はしても、それが現実に起こっていることだと認めることは……難しいらしい。

 それもそうだ……だってこれはそういう話だから。

 今、二人がこうしていることはあっちで俺が二人を助けたから……というのは伝えたけど、流石に胸を触ったこととかは……言えていないけど。


「難しい……話だね。でも嘘を言ってるようには見えないよ」

「そうね……あの時、昨日街中で見たアンタは凄く辛そうだった……そんな経験をしてるなら確かにって思えるけど……」


 それでも二人がどうにか理解を示そうとしてくれているのは素直に嬉しかった。


「でも……今、こうして好井君が凄く気になってる私なら……そんな世界だと体を思いっきり触らせたりして気を引こうとしてもおかしくなさそうだよね」

「っ……」

「ちょっと……その反応だともしかして」


 この時、俺は心の底から自分に対し馬鹿野郎と言いたかった。

 せっかく隠していたのに知られてしまった……けれど水瀬は一切恥ずかしそうな顔はしなかったし、能登に関してもそこまでの驚きがなかったのが不思議だった。


「その世界では男性が女性を扱き下ろすのは普通……そんな中で、変わらない好井君が気に掛けてくれる……つまるところ、頼りに出来る男性は好井君だけってことでしょ? それならまあ、その話に出てくる私がそうなるのは必然じゃない?」

「そうよねぇ。全然実感ないけど……まああたしも、全然構いはしないかな。だってほら、あたしと好井は……ねぇ?」


 二人が意味深な視線を投げかけてくる……えっと、その視線に対して俺はどう反応すれば?


「……悔しいよ。私、全然そんな覚えがないから」

「うん……その点はごめん好井。あたしも全然、その実感がない」

「謝らないでくれって。そう言ってくれるだけで……頭おかしいんじゃないかって言われないだけマシだよ」


 そう……これは俺の本心だった。

 これがあちらの二人にどう影響するのかは分からない……もしかしたらこの話を覚えていて、それで実感してくれるのかもしれない。

 ただ今の俺にとっては、こうして話を出来たことが嬉しかった。

 流石にこのことは俺たちの間だけの秘密になり、他の誰かに話すことはしない……というか出来ない。


「でもそっか……だから私はこんなにも」

「あたしはこんなにも……ねぇ」


 そうして二人は俺を見つめ、こう言葉を続けた。


「悪くないね……うん、悪くない」

「そうね。ねえ好井、話してくれてありがとう」


 この時、間違いなく俺たちは前よりも仲良くなれという実感があった。

 そして何より……この会話が無意味なものでないことも確かで、こうして話したからこそこちらの彼女たちとの距離が近付き、更に別のベクトルであちら側の彼女たちに変化が起こったのもすぐに知ることになる。





(自分でも驚くほど、簡単に受け入れられた……これって)

(好井を不安にさせたくないから受け入れた……ううん、それだけじゃないわね……これって)

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