二人の巨乳に触れる瞬間

 二人に話を聞かれていた……思いっきり名指しで美人だとかエロいとか言ったことも全てだ。

 本来の世界であれば、こんなことを言われたらまず先に嫌悪感が先立つに決まっている……だがしかし、この貞操逆転の世界においては全くの逆になる。


「嬉しい……やっぱり好井君は他の人と違うんだ♡」

「あ、あたしだって気付いてたし……♡」


 何だろう……俺の見間違いに違いないのに、こんなこと現実世界であり得るはずがないのに……二人の目にハートマークが見えるんだが。

 けど……全然嫌そうに見えないだけでなくむしろ嬉しそうだ。

 この反応というのもやはり、この世界の女性は求められるということをあまり知らない……更に言えば、性的に褒められたり求められることなんてほぼないだろうしな。


「あのさ……二人は嫌じゃなかったのか」


 それでも一応聞いてみよう。

 何度も言うが本来であればこうして彼女たちは姿を見せることなく、キモイと思ってその場を去っただろう。

 それかそんな話をするなんて最低だと罵るかのどちらかのはず……俺の問いかけに、二人は同時に頷いた。


「嫌なわけないじゃん」

「嫌なわけないでしょ」


 グッと距離を詰めるように二人がそう言う。

 こんな風に女子に詰められることがなかったせいで緊張も最高潮に達しているが、それ以上にこの場から逃げられない圧を感じる。

 とはいえ走って逃げることは可能だ……でも、俺は二人の視線から期待と共に感じ取った物がある――それはその期待が裏切られることに対する恐怖のようなものだ。


(水瀬と能登は……こんなでも怖がってるんだ。俺がもしも他の男と同じように二人を拒絶したら……それこそ酷い言葉で罵倒でもしようものなら胸に宿った希望は跡形もなく砕け散るだろう)


 こんなことを希望って言葉で表したくないが……それだけ、この世界における男女間の壁は大きいということを改めて思い知った気分だ。


「……取り敢えず座らん? まだ昼休み終わらないでしょ」

「うん!」

「良いわよ!」


 ……ただ、この提案はある意味で俺の理性をゴリゴリと削ることに。

 何故なら屋上に置かれているベンチに腰を下ろした俺を真ん中にするように、二人が座って身を寄せてきたからである。

 水瀬はともかく、能登も最初は控えめに座るだけだったのに……座った段階から体を押し付ける水瀬に負けじと、能登も体を押し付けてきたことで二人の大きくも柔らかな感触がこれでもかと伝わってくる。


「えへへっ♪」

「うふふっ♪」

「……………」


 俺は今……二つの感情がせめぎ合っている。

 この状況を幸せだと感じる俺と、こんな経験がないからこそどうしたら良いのか分からない困惑だ。


「本当に……嫌がらないのね。こう言ったらあれだけど、男の人ってこうされると生理的嫌悪の方が勝つと思ったから」

「だから言ったでしょ? 好井君は違うの……好井君は女の子にこんなことをされても嫌じゃなくて、むしろ嬉しいって思ってくれる人だよ?」


 可愛いし美人だし、スタイル抜群の女の子に体を押し当てられる俺。

 きっと前世では数えきれない善行を積んだに違いない……なんて、そう思えてしまうくらいにこの状況に流されたくなる。

 だがしかし、俺は知っている――いつこの逆転現象が元に戻るか分からないことを、そして戻った時に二人はこのやり取りはおろか俺に対する気持ちさえリセットされていることを。

 ただ、二人とも流石にやりすぎだと思ったのかすぐに離れた。

 あ、幸せな感触が離れてしまった……そう思えるのは俺が男ってことなんだろうなぁ。


「ねえ好井君?」

「うん?」

「好井君は……もしかして他所に彼女さんがいっぱい居たりする?」

「……え?」

「っ!?!?」


 水瀬からの問いかけに驚く俺、ガタガタと音を立てて動揺する能登。

 いきなりなんだその質問はと思いつつ、俺は素直に答えた。


「居るわけないだろ。そもそも、今まで彼女が居たこともない……って流石に悲しいんだが」


 あぁでも、こう言ってしまうとこっちの女性からしたらうほってなるのかなるほど……ほんとに考えがごっちゃになっちまうぞこれは。


「居ないんだね♪」

「居ないのね……へ、へぇ?」


 こ~れ、二人からの興味をバリバリに感じ取れる……というか普通に分かってしまう。

 けれどこれが分かったからと言って……ねぇ?

 嬉しい? 嬉しいさ心から……でも、こんなあべこべとも言える世界を行ったり来たりする中で二人と仲を深めたとしても……それはそれであまりにも大変すぎる。


「と、取り敢えず教室に帰らない……?」

「いやだ」

「いやね」

「さよですか」


 やっぱりこの状況から逃げ出したくなった末の提案は秒で却下された。

 それからしばらくお互いに何も言わない時間が続く中、水瀬だけはうっとりしたような視線を俺に向け続け……そして能登は意を決するように、気合を入れるようにして口を開く。


「さっきの話……本当なの?」

「え?」

「改めて気になっちゃって……大きなおっぱいが好きとか、私たちが美人だとかエロいとかって」

「……はい」


 聞かれていたのだからここで嘘を吐けるわけもなく、俺は顔を真っ赤にしながら頷いた。

 能登も同じように顔を真っ赤にさせ俯いたが、ただ眺めているだけだった水瀬が燃料を投下する。


「好井君は私の胸を触ってくれたよ? 触れて安心させてほしい、そう言った私の願いを叶えてくれたの。ただ触れられただけなのに凄く幸せだった……あんなの経験したら私、もう好井君しか見れないよ」

「ちょ、ちょっと水瀬!?」

「……本当なの? 好井?」


 ほ、本当だけどああいうのは言わないのがお約束では!?


「……えへへっ、ごめんね。好井君が素敵だってことと、私が感じた幸せを自慢したくて言っちゃった♪」

「……………」


 女の子の胸を触って素敵とか幸せとか……こんなの今の世界じゃないと絶対に言われないことだぞ。

 ……なんて現実逃避をしているわけにもいかん。

 既に言われてしまったことだし、俺の動揺からも能登は実際にあったことだと認識したはずだ。


「じゃ、じゃあ……」

「お、おい!?」


 水瀬の言葉を聞き、その瞳に炎を宿らせた能登は制服を脱ぎ……って何してんの!?


「ほ、ほら! 水瀬のを触ったのなら私のだって触れるわよね!?」


 ばば~んと、下着に包まれた能登の巨乳が姿を見せた。

 衣替えの時期を経てシャツだけの状態だからこそ、胸元のボタンを外し両手でド~ンと勢いよく解放してみせたのが今の能登である。


「お、おま……」


 俺がもしも、ここで叫び声を上げようものなら大変なことになる……それは能登も良く分かっているはずだ。

 それが頭から抜け落ちたのか、それとも単純に水瀬に対抗したのかは分からないが、どっちにしろ今俺の目の前に能登の胸がある……それだけは確かだ。


「……触ってよ……私だって触られたい……女の幸せって奴を感じてみたいよ……っ」


 これは絶対に逃げられない……空気がそう俺に感じさせている。

 というかまあ、逃げるつもりはあったけど……こんな顔を見せられて逃げられるわけがない。

 それに俺は分かりやすく興奮している……目の前に胸を触ってほしいと下着姿になった女が居るんだぞ? そんなの特に自分に害がないと分かっていたらあまりにも最高すぎるから。


「本当に……良いのか?」


 俺が触ることで能登が安心するなら、嬉しいならって気持ちとこれ幸いにと堪能してやろうという薄汚い欲望に突き動かされ……手を伸ばす。

 能登は近付いてくる俺の手を見つめながら嬉しそうに頷き……それを見たらもう止まらなかった。


「……おぉ」

「あ……♡」


 触れた……触れてしまった。

 柔らかく温かい……凄い弾力だ……少し指に力を入れると、むぎゅっと沈みこんで徐々に押し返される。


「ぅん……こんな……こんなに良いの? あぁ……っ」


 正直……俺は水瀬の時のように夢中になっていた。

 これが女の子の胸……胸の感触なんだと、今の状況を最大限利用するかのように触れている。

 そしてそんな俺の手の動きに合わせ、能登もまた可愛く反応する。


「あ~あ、見てると私も触ってほしくなっちゃった」


 そう言って水瀬は、俺の空いている方の手を持ち上げ……そのまま力強く自身の胸に押し付けた。

 俺は……何をやっとる?

 平日の学校……その屋上で二人の同級生の胸を揉んでいる。


「お前ら……変態じゃね? 俺もだけど」

「違うよぉ。私たちは普通で好井君がおかしいの♪」

「そ、そうよ……あたしたちは普通だわ……好井がおかしい♪」


 これが……逆転世界か、そう改めて心の中で俺は呟く。

 だがここから俺は心して生きていくことになる――だってそうだろ?

 こんなことを明確にやってしまったんだ……水瀬も能登も、こちら側の彼女たちが俺に逃がすわけがないって、彼女たちの視線からソレを強く感じたのだ。

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