子らの遊び場
「まずはどうするの?」
「そうだなぁ。子供たちにでも聞くか」
「聞くって、何を?」
「子供ってのは色々な事をやってるもんだ。親の目を盗んでな。それに、意外と考えているしな。だから子供たちの話は役に立つ事が多いんだよ。まぁ、人間の話なんだが、蛇だってそうは変わらんだろう」
言いながら雪平は「おーい、子供たちやーい」と言って歩き始めた。
「蛇は藪の中で遊ぶ事が多いのよ。だから、こんな茂みをかき分けると」
思った通り、そこには化け方が中途半端で肌に鱗が出てしまっている子供たちが隠れていた。子供たちは私たちを見ると、途端に蛇になって逃げだしてしまった。
「ありゃ。嫌われたもんだなぁ」
「仕方ないわよ。あなたは人間なんだもの。でも、子供って変わったものが好きだからきっとそのうち出てくるわよ」
「そうだよなぁ。探すか」
それから私たちはあっちの藪、こっちの茂みと蛇の子らを探して回った。
昼も過ぎてそろそろとお互いに疲れが出始めた頃、声が聞こえた。
「だって、告げ口するだろう」
蛇の、獣の声だ。
「お、今シャーって蛇の声が聞こえたな。いるのかい? おーい」
「ちょっと待ってて、雪平さん。告げ口なんかしないわよ。ちょっと話が聞きたいだけだから出てきてくれない?」
「なんだ、告げ口を心配して逃げ回っていたのか。となると、やはり何かしているな?」
雪平はニッと口角を上げる。
「子供の頃なら親の目の届かないところで冒険がしたいもんさ。僕だって散々やった。そんでめちゃくちゃ怒られた」
雪平がはははっと笑うと、茂みから蛇の姿の子供たちが出てきた。
「初めまして」
雪平が挨拶をすると、子供たちは揃って鎌首をもたげてシャーッとやる。
「お、今のはなんて言ってんだ?」
「威嚇してるのよ」
「はははっ。こりゃ堪らんな」
笑う雪平を見るうちに子供たちの警戒心も解けたみたいで、今はとぐろを巻いている。
「さて、僕の言葉は伝わっているのかな?」
「当たり前だろう。馬鹿にすんな」
子供のうちの一人が悪態をつく。
「大丈夫よ。聞こえているわ」
通訳が必要なところは面倒だけれど、こうして人間と蛇として関わりが持てるのは凄い事だと思った。
「君たちは普段、親の目を盗んでどこで遊んでいるんだい?」
子供たちはキョロキョロとお互いの顔を見合わせ、言うべきか言わないべきか思案している。
「いなくなった子たちを探してるの。お願い、教えて」
私がそう言うと「皆で遊んでるわけじゃない」と話し出した。
雪平は言葉が分からないはずだけれど、黙って私が通訳するのを待っていてくれる。
「度胸試ししてるんだ。向こうの河原でさ。先に皆で人間の姿で向こう岸にドングリを置きに行ったんだ。その後、一人で向こう岸に泳いでいくんだ。それで、証拠にドングリを持って帰ってくるってのをやってるんだ」
「それは蛇の姿で?」
「そうだよ」
蛇だって泳げる。それは子供でも危なげない程度には泳げるだろう。私は一安心して雪平にそれを伝えた。
すると、雪平は急に眉間に皺を寄せて考え込んでしまった。
「雪平さん? どうしたの?」
「ん? いや。おい、お前たち。僕たちが行方不明の理由を調べるから、その間は度胸試しは絶対にするな。いいな?」
「なんで人間にそんな事を言われなきゃいけないんだよ」
「そうだぞ。俺たちの勝手だろう」
子供らは口々に文句を言う。
「いくらでも文句は言えばいいが、絶対にするなよ。いいな?」
そう答えた雪平に驚いて、私は「聞こえたの?」と聞いた。
「聞こえるもんか。絶対に文句を言っていると思ったんだ」
それから子供たちに何とか納得させて、私たちはその河原の調査に向かった。
川幅はそれなりにあって、深さは人間の大人の腰まであたり。けれど流れは速くはなく、流されたとは考え難かった。
「ここで何を調べたらいいの?」
「なんでもいいんだ。おかしな所を探してほしい」
そう言われても困るのだけれど、と思いながら私は河原を手探りで小石一つすら拾い上げて異変を探し始めた。
そう簡単に異変なんか見つかるわけがない。そう思っていた。
すると、あったのだ。血の跡だ。
「雪平さん!」
彼はそれを見るなり、近くに他の血の跡を探した。そうして追って行って街道にまで出たが、そこで血の跡は途切れてしまった。
「最悪の事態を考えなければいけないらしい」
彼はそう呟いた。
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