愛し合ったはずなのに……

ラビット

愛し合ったはずなのに……

※ミナ【主人公】視点


「ミナ、大きくなったらレンと結婚してあげる」


「本当? 約束だからね?」


「レンだーい好き」


「ミナだーい好き」




 小さい頃の約束を果たし、レンと結婚して3年半。当時は周りも羨むようなおしどり夫婦であったが、特に理由もなくなぜか彼への愛情が消えてしまっていた。

 小さな喧嘩や言い合いはあったが、離婚騒動になるような大きな喧嘩や問題もないはずなのに、人の気持ちというのは突然変わるので怖いものだ。




「ミナ、愛してるよ」


「キモいからやめて」




 付き合ったり結婚した当時からお互い1日1回は「大好き」や「愛してる」を言う決まりを作っていてレンは今も約束を守っているのだが、結婚1年半くらいから鬱陶しくてしかたなくなっていた。




「かわいいヤツだな」




 レンは私が照れてると思っているのか、どんな反応しても「かわいい」などとほめてくるがそれも嫌で嫌でたまらなかった。




「最近、やけに冷たいけどなんかあったのか?」


「別に何もないよ」


「俺が何かしたか?」


「だから何もないって! ほっといてよ」



※レン視点


 真意はわからないが明らかな態度の変化に気づいて聞いてみても適当にはぐらかされるばかり。深く追及しないが実際は気になっていた。

 それがわかったのはさらに半年後、ひまつぶしにゲーセンに行った帰り道、親友の女の子と話しているミナの姿が目に止まり声をかけようとした時、話の内容が聞こえてきた。




「ミナ、相変わらず旦那嫌いなの?」


「うん……特に理由や何かされたとかある訳じゃないけどなんか結婚生活に飽きたんだよね」


「別れたらもう結婚できないかもよ?」


「う~ん、まぁ彼氏はほしいけど結婚はもういいかなぁ」




 どうやら本当に理由はなかったようで、浮気相手もいないみたいだった。しかし、結婚生活に飽きたという言葉に俺は心底傷ついたのは間違いない。


 今さら蒸し返すのもおかしな話だが、付き合いたてや結婚当時のあのラブラブ感はなんだったのかと深く深く悩みながらも、ミナと話し合う決意をする。




「ミナ、いつまでもこのままってわけにもいかないからさ、ちゃんと話そう?」


「…………わかった」




 大きく深呼吸をして俺は本題を切り出した。




「お前が俺を嫌いなのも、結婚生活に飽きたのも、よくわかった。だからあんな冷たかったんだな」


「………………」


「正直、傷ついたし理由もなく嫌われるなんて思ってもなかったよ。今までのってなんだったんだろうな?」


「う~ん、若気の至りってやつ?」


「ふざけないで真面目に答えろよ。あんなに愛し合ったはずなのに、こんなのあんまりだ」




 真剣な思いを伝えているにも関わらず、彼女は開き直るばかりでまともに聞こうとしない。昔から都合が悪くなるとすぐ逃げようとするのは彼女の唯一の欠点である。




「とにかく、私はもうレンのことは愛してもないし好きでもないの。あんたに対する愛情自体が消えたのよ」


「そうか、わかった。で? これからどうするんだ?」


「レンは?」


「だからちゃんと話し合って二人で決めようとしてるじゃないか」


「私は別れたい」




 あっさり別れを切り出されてしまった。お互いあれだけ好きだったのに、気持ちが変わったくらいでこうも簡単に離れてしまうものなのだろうか?




「レンはいいの?」


「このまま続けてもしかたないだろ。別れよう」



※ミナ【主人公】視点


 少しは引き止めるかと思ったが、レンもあっさり別れることを承諾。話がまとまったあと私はすぐ離婚届を書いて別れを切り出した慰謝料200万円と共に彼に渡す。




「あとからやり直そうとかなしだぞ?」


「早く書いて出して! そんなことあるわけないし」




 こうして彼も記入して区役所に提出し、離婚が成立。共有財産を分け合ったあと彼は荷物をまとめて家を出ていき、再び私の一人の時間がやってきた。ずっとモヤモヤしていた気持ちから解放され、しばらく自由気ままに暮らしていた。




“そろそろ彼氏作ってもいい頃かな”




 レンと別れて2年後、私は働きながら新たな恋を探し始めた。ちなみに仕事は高校のバイトで入った職場から変えておらず、今では正社員だが生活費が足りないのでミスバーガーのバイトを追加し掛け持ちして稼いでいる。


 なかなかいい出会いに恵まれなかったものの、正社員の職場で知り合ったひとつ下の彼ができた。結婚は考えていないが、彼はそのつもりらしいので正直にバツイチであることを打ち明ける。




「別にそんなこと気にしません!」




 彼は全く気にせず私にアプローチしてくるが、レンの時と同じ事になるのではと怯えている自分がいるので結婚は断りつつ、良い交際をしている。




「僕、ミナさんがその気になってくれるまで諦めませんから」


「付き合ってるじゃん」


「結婚ですよ」


「あ、そっちね」




 内心、照れながらも彼にバレないように流した。レンの時は見せなかったが実は私は結構恥ずかしがり屋なのである。これからは新しい彼と新しい人生を歩むことを今まで以上に真剣に考えてみようと思う。


【完】

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

愛し合ったはずなのに…… ラビット @kakukaku4145

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ