22. パスト・バスト・パンスト(♡♡)
◆まえがき
プレイ内容:背中に座られながら腕立て、顔面ぶちゅキス、パンスト顔面騎乗
◆
――真序高校の養護教諭・雹冬レインが、彼女の保健室に鍵をかけると、そこはこの町に住まう三人の魔法使いたちの秘密基地となる。
学校の片隅の密室で、今日も四つのおっぱいが揺れていた。
「くくく……♡ 情けないのう律季♡ まだまだ始まったばっかりじゃぞ~?」
「ごじゅーろく、ごじゅーなな、ごじゅーはち……あれれ、遅くなってきたよ? 律季くん、もう限界……?」
「うぐぐ……!」
俺は今、炎夏さんとレイン先生を背中に乗せて腕立て伏せをしている。
ドスケベな身体をした二人の肉の重みもさることながら、背中合わせで横向きに座った二人のお尻がむっちりと潰れて、集中力を大いに削ぐ。俺の体が上下するたびに、「「むんにゅぅ♡♡ もっちぃ~~♡♡」」と、たわんだりのしかかったりする尻肉が、幸せのクローバーの形をした温もりを俺の背中に刻んでくる。
「君ってほんと、悪い子だよねー……♡ 学校のみんなが真夏の熱気に苦しんでるのに、君一人だけがクーラーのきいた保健室で、女の子のお尻を好き勝手に楽しんでさ……♡」
「年上美女をはべらせて、どんなプレイも好き放題……♡ 生徒みんなのための保健室を占領して、おぬしだけのヤリ部屋♡ 貸し切りラブホ♡♡ ハーレムプレイルームっ♡♡ にしてしまっておるのじゃぞー……♡ それも、養護教諭の公認でなぁ……♡♡」
(ひ、ひぃぃ……♥ これ、エロすぎ……♥ 腕に力入んない……!♥)
「ろくじゅーきゅ、ななじゅう……♡ んふふ、プルプルしてきたよ……♡」
「おぬしの背筋、がっちがちじゃな♡ ほれほれ、尻をこすりつけてコリをほぐしてくれよう♡」
「ふ、二人とも体重かけすぎですって……! もうちょっと空気椅子にするとか……!」
「だーめっ。君がリクエストしたんでしょ?」
「あくまでトレーニングじゃし、わしらも緩めるわけにはいかぬ。
わしらのおしりぐらい支えられねば、
「がんばって律季くん♡ 私たちのお尻に負けないで……♡ 300回達成しないと、ご褒美はなしだよー……?」
「「んふふ……♡♡ がんばれ♡♡ がんばれ♡♡ がんばれ♡♡ がんばれっ♡♡」」
「うあああ……っ♥♥」
レイン先生と炎夏さんが、挑発とも応援ともつかぬ媚びた声を挙げて、「「ぐりぐりぐりぐり♡♡」」とお尻を高速で振る。
三人分の体重を支える両腕がブルブルと震えるが、それが疲労なのか興奮なのか分からない。とにかく300回まで腕立て伏せを完遂しないと、二人は離れてくれないだろう。崩れたらデカケツに圧死させられかねない。
「それにしても、こんなことして効果あるんですかね? ハードではありますけど、普通の筋力鍛錬じゃないですか」
「律季は魔力量の上限が極めて低い。今から練っても大した効果は見込めん。
それに『
「……なるほど。あとは、あの『新技』を完成させることですね。私も出来る限り、『鉾矢』の精密性を上げないと……」
――ぷりぷりぷりぷり♡♡ むっちむっちむっちむっち……♡♡
(こ、この状態でマジメな話をするなぁ……!!)
俺の背中にむちゃくちゃヒップをこすりつけながら、先生と炎夏さんが真剣に議論をしているが――こっちは腕立てをカウントするので精一杯で、内容など全然頭に入らない。
腕立て伏せ100階の三セット目が終わるのと同時に俺は崩れ落ち、炎夏さんとレイン先生が腰を上げた。二人もしっかり数えていたらしい。ちょっとぐらい回数をちょろまかしてもバレないだろうと一瞬思ったが、やらなくてよかった。罰としてもう100回とか言われてたかもしれない。
「ん、終わったか♡ よくやったのう律季♡ ご褒美じゃ……♡ ――ん、ちゅっ♡ ちゅっ♡ ちゅぅ~~っ♡」
「~~~~っ♥♥」
「――なぁっ!? せ、先生っ!?」
くたくたになり、脂汗が浮かんだ俺の顔面に、レイン先生は惜しげもなくキスの雨を降らせてくれる。
右目を隠す青髪からものすごく上品な女の香りがする。キラキラして見えるぐらい大人の魅力たっぷりな美人さんフェイスが、ドスケベなキス顔に変わって、視界を覆い尽くす。突き出したちっちゃい唇が俺の顔に触れるたびに、頭の中に火花が散った。
「慌てるな炎夏。唇には一度たりとも触れておらぬ」
「……そ、そんなこと心配してません!」
「ああ、そうじゃの。律季のファーストキスがおぬしというのは、決定事項じゃからな……♡
わしの順番は、少なくともその後♡ 心配する必要などないからのう……♡」
「……うう……そういうことじゃないのにぃ……」
――そう。俺はこの二人と、とある約束を交わしてある。
来る
炎夏さんとキスする。レイン先生のパンツを見る。
俺はこの数日間それを励みに訓練にいそしみ、着実に成果を上げつつあった。
「逃げないでくださいね? 絶対キスしてもらいますよ……っ♥」
「……わ、わかってるわよ。約束だもん……♡」
「レイン先生も忘れないでくださいね……♪ 絶対パンツ見せてもらいますから……♥」
「ああ、わしも楽しみに待っておるぞ。このパツパツのスカートの中身を、おぬしに見せてやる日をな……♡」
「~~~~~~~っ♥♥」
「――むぅ……」
興奮のあまり魔装のマントが背中から出かける俺を見て、炎夏さんがなにやら頬をふくらませる。視界の端でそれが見えているのだが、直視したらたぶん可愛さで即死するので目を向けられない。
(なによ、レイン先生ばっかり……私だっていつもパンツ見せてあげてるのに、なんで先生の時だけ……っ)
「――んぐっ!?」
(……むかつく。……最低。……変態)
顔が誰かの手でむりやり右に向けられたかと思うと、いきなり視界が真っ黒になった。
頭上で響く布ずれの音と、顔面に広がるしゅりしゅりした感触、エロい匂いを放つ蒸れた空気――こ、これはまさか……!?
「ほほう……積極的ではないか炎夏。この真夏になぜ黒ストッキングを履いているのか不思議じゃったが、おぬしも男心がわかってきたようじゃのう……♡」
「……律季くんのために履いてきた、みたいな言い方しないでください。ただの気まぐれです」
「んぐぐぅ……っ♥ ~~~っ♥♥」
俺の頭は今、炎夏さんのスカートの中にあった。彼女が自らスカートをたくしあげて、有無を言わさずその中に俺の顔を突っ込んだのだ。
レイン先生のボトムスが可哀想になるぐらいのデカケツは今更語るまでもないが、炎夏さんの下半身もまた凄い。ウエストは細いのにお尻と太ももでスカートが盛り上がるせいで、ワンサイズ上のを穿いても物凄く丈が短くなってしまうのである。パンストの質感にくるまれ、真夏の熱気で軽く蒸れたむっちむちのお肉が、俺の顔面を包み込んでいる。
「ほ、炎夏さん……い、いったん離れて……!」
「……なによ? いやなの?」
「そ、そうじゃなくて……うれしいんですけど、せっかくのパンツが近すぎて見えないんです……!」
「……っ♡ ふ、ふんだ。そんなの知らないもん……♡」
炎夏さんはなぜかおかんむりだ。俺の頼みを聞き入れず、そのまま俺を仰向けに寝かせて、さらに上から顔面をお尻で圧迫してきた。
さっきまではまだ太ももに顔が当たるだけだったが、今は炎夏さんが俺の顔の上に座っている状態で、パンツのお股の部分が鼻先に直接触れている。――完全に、顔面騎乗だ。あまりの衝撃に足をピーンと延ばす俺を尻目に、炎夏さんは両手を俺の頭の上のあたりについて、ロデオのように腰を振り始める。
「えいっ♡ えいっ♡ 君みたいな変態は、こうしてやるんだから……っ♡」
「むーっ! ふぐぐ……!」(炎夏さんの汗の匂い
「――そういえば、炎夏よ。秋月螢視のことは大丈夫なのか? ユウマに接触されたと聞いているが」
「今のところは、なにも……。というよりユウマたち自身が、ちょっと前に夢の中で会ったきりろくに行動していません。何か企んでいるのではないか不気味です」
(えっ嘘!? この状態でまた真面目な話!?)
「ふーむ……よいしょと。数日前の段階で
レイン先生も難しい声を出しながら俺の腹に乗ってきた。――なんなの? この人たちにとって俺の体は会議室か何かなの?
しかも鼻が潰れないように若干腰を浮かせてくれている炎夏さんと違って、レイン先生は堅い腹筋があることをいいことに、思いっきり体重を任せてきている。俺は静かに胸の上で手を組んだ。
「いや、『どうぞごゆるりと』じゃないわよ!?」
「……自分でやっといてなんじゃが、おぬし人としてのプライドとかないのか?」
「炎夏さんとレイン先生の椅子になれる男なんて、むしろこの世で一番えらい奴でしょ。お二人のお尻を同時に味わうなんてことは、アメリカ大統領でも無理なんですよ」
俺の顔を包み込む炎夏さんのヒップの果てしなさときたら、星条旗の50州など目ではない。
まだ見ぬレイン先生のデカケツも含めて、絶対俺の領土にしてやろう――そう心に誓った。世はまさに大開拓時代。
「……全部本気で言ってるから怖いですよね」
「ったく、こやつは……。――しかし、お主の友人である螢視が敵に利用されているとなると、可能性として、わしらに近しい者すべてに累が及ぶということにならんか?」
「ええ。現に初戦では、ユウマさんに他の生徒が人質にされかけましたからね」
「切り替え早すぎるでしょ……。だけど、それもそうです。私たちがいるだけで、学校の皆に迷惑をかけるみたいで……」
「……気に病むな。一般人を巻き込むことを顧みない教国の責任じゃ。おぬしに罪はない」
「だからって何もしないわけにいかないですよ。もう遅いだろうけど、
「? どうするつもりですか?」
視界がパンストの黒でほぼ真っ暗になっているが、炎夏さんが思い詰めた顔をしているのがわかる。
俺の額から鼻にかけては彼女のお尻の下敷きだが、口元はかろうじて出ている。声と一緒に出した呼吸が彼女の股間に当たり、息継ぎのたびに雌の匂いが肺の中に入って来て、そのたびに思考がぐらついた。
「んぅぅ……っ♡ い、今からでもできるだけ、
「
「……。いえ、そういう問題ではないんです。
たとえこの戦いで敵に勝てたとしても――私は、二度と
「――!?」
俺はそれまで話を聞きながらも、絶えずフガフガと鼻を鳴らして太ももを嗅ぎまくっていたが――炎夏さんがそう言った瞬間、思わず息を呑んだ。
レイン先生も空気が変わったのを見て取って、俺の腹の上で座り直した。先生の巨尻がタイトスカート越しにむちっと波打つ。え? この体勢のままでそんなマジな話するの?
「話さない……じゃと? それはどういうことじゃ?」
「……
「ほ、炎夏さんはそれでいいんですか……? 昔からの一番の親友なんでしょう? いきなり絶交するなんて、炎夏さんの方が辛いんじゃ……」
「辛いけど……親友だからこそ、そうしなきゃいけないのよ。こんな状況でのうのうと友達面なんてできないわ。
「――? 二度も……?」
炎夏さんいわく、秋月先輩は今年、国立の医学部を受ける身だと言う。本人の学力には心配がないらしいが、家計に余裕がないせいで、先輩自身も家庭教師のバイトをして学費を稼がなければならないそうだ。優しい炎夏さんが、一番の親友の将来を心配する気持ちは痛いほどよくわかるが――それ以上に彼女の口調には、ひどく強い罪悪感がこもっていた。
「……律季に『あの事』を教えるというのか? ……よいのか?」
「……ええ、構いません。エッチな事が絡まない限りは誠実な子ですから」
炎夏さんの貴重なデレである。思わず抱きしめたくなった。
俺はむしろエロ関係こそが一番誠実だと自認しているから、炎夏さんの言い方はちょっとだけひっかかるが――なにか重大なことを打ち明けようとしている雰囲気なので、とてもそんな風に茶化せない。
「律季くん。私ね、
「!? ……こっ、殺しかけた……? それって……魔法で、ですよね?」
「ああ、そうじゃ。そして――『
――それからレイン先生が語ったいきさつは、要約するとこうだ。
炎夏さんと秋月先輩が五歳の頃。幼い二人が、炎夏さんの家の庭――つまり天道神社の境内で仲良く遊んでいたところに、三人の外国人が泥酔状態で現れた。そいつらはマナーの悪い観光客で、ふざけて賽銭箱にいたずらしたりお社にラクガキしたりしたあげく、柵を乗り越えてご神木に小便をかけた。怯える炎夏さんをかばいながら秋月先輩はそいつらに怒ったが、日本語が通じるはずもない。腹を立てたそいつらは、いきなり秋月先輩の頭を殴りつけたそうだ。
大の大人が三人がかりで、五つそこらの子供に暴力を振るう――それだけでも耳を疑うような話だが、本題はこの先である。
「私は残りの二人に蹴られて、髪を引っ張られた。そこまでは恐いだけだったんだけど、
――そして
「……!!」
「……神様の祟りだって、全国ニュースに載るぐらいの騒ぎになったわ。取材が一か月ぐらい絶えなくて、それもすっごく大変だった。
それでも私が魔法使いだとバレなかったのは、全部
身勝手な大人と理不尽な運命に怒りが沸き上がるが――同時に、炎夏さんの態度へ納得がいった。ヒーロー願望があるくせに、どこか魔法の力を忌避していたのは、魔法で人を傷つけ秋月先輩を怖がらせたという、過去のトラウマからくるものだったのだ。
過去を語る炎夏さんの声は、いまだ生々しい怯えに震えていた。大人に暴力を振るわれ、人を殺しかけ、友達に怯えた視線を向けられる三重の恐怖。それがわずか五歳の時の経験となれば、根深い心の傷となってしまうのは当たり前だ。
「もともと
「……炎夏さん」
彼女の悲壮な覚悟がひどく辛い。親友に対する思いの深さが、そっくり自責の念の重さになっているのだ。こんな危険な状況になってしまっているのは、ほとんどが俺の責任だから、なんと言っていいのかもわからない。
重い沈黙が流れる中――ピロン♪ と、炎夏さんのスマホが通知音を鳴らした。「けーちゃん」という人物からのメッセージである。……ん? 「けーちゃん」ってまさか……
「あ……なんか、
LINEで言わないってことはけっこう重要な話みたいなんだけど……行っていいかな?」
「……は、はい。いってらっしゃい」
「……うん。ごめんね律季くん、変なこと言っちゃって。また後でね」
今まで押し付けられ続けていた炎夏さんのパンスト尻が、俺の顔面から離れる。
ずっと気になっていた今日のパンツの色は、薄ピンク色だった。黒タイツと合わせて素晴らしいコントラストを醸し出していたが、それを見てもあまり興奮できなかった。炎夏さんのパンツを見て楽しくないなんて、自分で自分が信じられない。
申し訳なさそうにこちらに手を振って、ぱたぱたと小走りで保健室を出ていく彼女の背中を、気まずい思いで見送った。部屋の中には鼻から上を少し赤くした俺と、腕を組んでバストを強調したポーズのレイン先生だけが残る。
(はぁぁぁぁ……マジかよ。炎夏さんがあそこまで思い詰めていたなんてなぁ……。
トラウマを打ち明けてくれたのは嬉しいけど、このままじゃあの人、どんどん心の傷を深めちまうぞ……? なんとかして助けてあげたいけど、
「――よかったではないか律季。考えようによっては、おぬしにとって幸運ではないか」
「……え?」
両手で顔を覆って悩み込む俺に、レイン先生が奇妙な言葉をぶつけてきた。
目を細めて俺の顔を覗き込み、妖しい薄笑いを浮かべる――彼女が俺にだけ見せる『悪い顔』だ。
「炎夏を落とすうえで対抗馬がいるとしたら、それは幼馴染の螢視だけじゃ。炎夏自身が螢視と縁を切ると決めた今、おぬしの恋のライバルは消え失せたも同然。あやつの心の傷につけこむ――とまでは言わぬが、優しくしてやればおぬしへの依存も深まるじゃろう。
確かに迫る戦いという危機はあるが、それさえ乗り切ってしまえば、炎夏はもはや手に入ったようなもの……♡ よかったのう、律季♡ 炎夏がおぬしのものになる時も近いぞ……♡」
「――」
考えもしなかった。だが、確かに理屈の上ではそうかもしれない。
もともと、秋月先輩に対して危機感を抱いていなかったわけではないのだ。あれだけ深い付き合いで浮ついた気配がないのは、幼馴染という近すぎる距離感のせいで、恋愛感情がないからだろうが――高校卒業を半年後に控えた三年生という状況下では、心境に変化が生じる可能性がある。
炎夏さんは告白を断り続けてきた経験のせいで心に分厚いバリアがあるが、素がチョロいので土下座する勢いで迫れば落とせる。ただでさえ秋月先輩は医学部志望の超インテリというスペック、実家同士の付き合いもあって、炎夏さんには断る理由が薄い。彼がなりふり構わず炎夏さんにアタックをかけた場合、OKされる可能性が高いと俺は踏んでいた。
そういう意味で今回の炎夏さんの行動は、秋月先輩という潜在的脅威を排除するものと言えるが――この際、そんなことは問題ではないのだ。
――むぎゅうううっ!!!
「――きゃぁあああぁぁぁぁぁぁんっ!?♡♡」
「冗談でも怒りますよ、レイン先生」
「……っ!? り、律季……っ?♡」
俺は、襟首をつかむような動作で――レイン先生の爆乳を、乱暴に捻り上げた。
怜悧な眼光と悪だくみの表情が、たちまち快楽と困惑に染まる。低音ボイスがかわいらしい悲鳴に一変した。俺の剣呑な表情がモノクル越しの片目に映り、レイン先生は本気で怯えてわずかに姿勢をのけぞらせた。
「……落ち込んだ所に漬け込んで、炎夏さんを依存させろって……? 俺がそんな卑怯なマネすると本気で思ってるんですか?
炎夏さんが悲しいのを必死で押し殺して、秋月先輩のためを思って決めたことなのに、心配だの一言もないなんて……俺、正直見損ないましたよ。あなたを信用してトラウマを打ち明けた炎夏さんの気持ちさえ、なんとも感じてないんですか?」
「……!」
そう……レイン先生は炎夏さんの過去を知っていた。機関の上司と部下というビジネスライクな間柄とはいえ、トラウマを打ち明けられるぐらいには信頼され、付き合いも長いという事だ。――それなのに、どうしてそんな酷いことが言えるのか、俺は不思議でならない。
「まったく……悪いことを言うのはこのUカップですか、このこのっ」
「ひぃぃっ♡♡ わ、悪かった♡♡ わしが悪かったからぁッ♡♡」
「……ああいうこと、二度と言わないですか?」
「……い、言わない。言わないから、許してくれ……っ♡
――うぅ~~~~。すまぬ、律季。おぬしのためを思って助言したつもりだったのじゃが……」
胸を両腕でかばって床にへたりこみ、若干涙目でこちらを見上げて来るレイン先生。――くそう、この怯え方が演技なのかマジなのか分からないが、ずるいぐらいのギャップだ。怒りを鎮めざるを得ない。俺はへたれた23歳美人養護教諭を見下しながら深呼吸した。
「……レイン先生がなんだかやたら俺の肩を持つのは知ってますし、嬉しいとも思ってますが……今回のはさすがに一線超えてますよ。そういうのは嬉しいよりムカつくのが来ちゃいます」
「う、うむ……わかった、気を付けよう……。ともかく螢視を蹴落とす形で炎夏をモノにするのは、いかんのじゃな?」
「そりゃあそうですよ。秋月先輩はそもそも炎夏さんが好きかどうかさえ分からないでしょ。たとえあの人が本当に俺の恋敵だったとしても、悩んでる炎夏さんをケアしてあげるのは別の問題です。それに――」
「それに?」
「セクハラが興奮するのは、いつもニコニコしてる炎夏さんが、俺にやらしいことされる時だけ怒ったり怖がったりするからなんですよ。炎夏さんがキラキラした青春を謳歌して、人生が順風満帆であればあるほど、俺は興奮できるんです。彼女が友達関係の悩みを抱えてたら、エロい事するどころじゃない。
炎夏さんの健康で幸せな純白の日々を穢す、たった一滴の黒い染み――俺はそんな存在でありたいんです。それ以外の不安は全部壊す。炎夏さんは、俺だけを怖がっていればいい」
「……ゆ、歪んでるにもほどがあるじゃろ。守りたいのか穢したいのかどっちなんじゃ?」
「穢すために守りたいんです」
相手を自分だけが穢せる時、その相手は自分にとってまっさら以上に清らかな状態だ。そして心身が健康である限り、その相手は何度穢されても心を変質させることなく、再び立ち直って来るだろう。穢れ祓いが時期の決まった祭事であるのは、また穢れることをあらかじめ予期しているからなのだ。『祓い』があることで穢れは一時的かつ制御可能なものとなり、『日常』がある限り人は心をリセットできる。エロとは非日常の『穢れ』であり、日常という『祓い』がないと可視化されないものなのだ。それはつまり、炎夏さんが俺に依存して毎日エロいこと三昧の生活を送ることになれば、セクハラが当たり前になって日常との区別がなくなり、エロくもなんともなくなってしまう――ということ。レイン先生の提案は、そういう意味でも俺にとって望ましくないものなのだ。
「律季くんの変態ー!!」という炎夏さんの罵りは、俺にとってまさしく生きがい。そして怒る彼女が俺のセクハラでとろかされ、「ふんっ……♡ あんっ……♡」と鼻にかかった甘い声を漏らす瞬間、強烈な生の実感が体中まで染みわたる。もうあれなしでは生きていけない。
「……。…………。………………」
「……なんか言ってくださいよ」
レイン先生が言葉も出ないほどドン引きしている。モノクルをかけた片目が人間じゃないものを見る視線だ。
炎夏さんがトラウマになる気持ちがちょっとだけ分かった。なるほど、これはキツイな。
「――でも、そういうのとはまた別に、良くない胸騒ぎがするんですよね。
炎夏さんと秋月先輩が仲たがいしちゃうと、なんだかものすごくマズイ事が起こる気がしてならないんです。それこそ二人の関係に、
「……なんじゃと? 根拠は?」
「ないです」
「ないんか!?」
「……根拠はありませんが、とにかくそんな感じがするんです」
見落としてはならない重大な『何か』を、俺も炎夏さんも見落としているような……そんな予兆。そんな違和感。
思い詰めている炎夏さんと事情を知らない秋月先輩の関係性は、この俺が取り持つしかないだろう。俺はそう決心し、昼休みの残りの時間、レイン先生に膝枕をしてもらいながらこれからのことを考えたのだった。
◆あとがき
若干特殊プレイ多めの回でした。
ダレがちな説明パートは並行してエロを挟むことで、若干間を持たせられるのではないか……という実験。使ってみるとなかなか悪くない手法の気がしたが、いかんせんアクロバティックすぎて律季が主人公じゃないと使えないかも。基本読み飛ばされるパートにバリューを付加できるが、「もっとちゃんとエロ書け」と言われる恐れもある。
作者としては便利なんだけどなぁー……好評だったらまたやります。
炎夏は「後輩男子の顔面をケツの下に敷きながら平然と思い出話をする」スキルを手に入れた。
がんばれ螢視。お前の幼馴染は律季の予想をも超えた速さで変態度を増してきているぞ。
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