第三章『HERO & HEROINES』

21. ターゲットは秋月螢視




 魔法には、炎・水・風といった「属性」がある。神瀬ユウマことボクの場合、風と暗示(幻覚)が自分の属性ということになる。

 ボクがそうであるように、魔法使いは原則一つ、多くても二つまでしか「属性」を扱うことができない――物理法則さえ無視する魔法使いにとって、数少ない「縛り」だ。

 

 ボクとレンが水鏡律季を狙う理由も、彼の『生命力の鉄拳リビドー・ナックル』が、このルールの例外であるからに他ならない。

 乳揉み身体接触を介することで、バディの属性魔法を限定使用する――なんともふざけた能力だが、教国にとって喉から手が出るほど欲しい因子だ。ゆえに捕獲任務についたボクたちに失敗は許されなかった。ただでさえ重要な任務なのに、対人戦を経験したことのない掃除屋スイーパーと、ド素人同然のルーキーのコンビに負けたとなれば大失態。一時は除隊も覚悟したぐらいだ。


「追放されてたらヤバかったな。俺たち日本じゃ行方不明者扱いだし、教国以外じゃ食っていけないぞ」


「うちの組織は秘密主義だからねー……。食えなくなるどころか、そのまま口封じされてたかもしれないよ」


「記憶処理するより殺す方が手っ取り早いからな。下っ端の悲哀だ」


 生きている幸せをかみしめながら、ホカホカのチャーハンをほおばる。高菜と一緒に炒めたピリ辛の味付けだ。

 二年イギリスに住んだが、やはり日本人の主食は米だ。帰りたくなくなってしまうぐらいに美味しい。


「キッチン付きのウィークリーを借りててよかったね。ホテルだったらこうはいかないから」


「ああ……しかし、こんだけ長居するとは思わなかったな。せっかく調整した味覚が戻っちまいそうだぞ」


悪の爪マーレブランケが指定したXデーは三日後だ。それまでこの町は出られないよ」


 任務失敗したボクらに処罰が下らなかったのは、悪の爪マーレブランケ第九席ロイ・ストリンガーが、この任務を引き継ぐと言い出したためだ。

 律季と炎夏の情報を集めるのと、戦闘を隠蔽するためにボクが必要らしい。なぜ教国の最高戦力が直々に動いたのかは分からないが、ボクらとしてはともかく首の皮がつながったというところだ。


「……助かったのかは、まだわからないぞ。今は命を貸されてるだけだ。律季を捕まえた後は、俺たちが失態を追及される番かもしれないんだぞ」


「……わざわざ恥をかくために帰って来たわけじゃないよ。日本にいる残り三日の間に、なにか手柄を立てなきゃだね……」


 律季と炎夏のほうも必死だろうが、ボクたちもボクたちで命がかかっている。子供の魔法ごっことは違うのだ。

 どんぶりを避けるようにテーブルの上に並べられた書類の中、炎夏の親友・秋月あきづき螢視けいじの写真が目に留まる。ボクは直感した――手柄を立てる糸口は、彼しかない、と。レンも同じ写真に視線を落としている――ふりをして、ボクのふとももをチラチラと盗み見ていた。

 外出に備えてショーパンを穿いているので、確かに露出は多い。……しかし、レンがこんな露骨にエロい目をするなんて初めてのことである。水鏡律季の影響だろうか? 



 ……す、少しだけ攻めてみようかな。



「……よいしょっと」


「っ……!」


 これ見よがしに足を組み替えてみる。レンは思わず息を呑んでしまい、にたにたするボクの表情に気づいて、悔しそうな眼をした。

 やる前はこっちも恥ずかしかったのだが、それを忘れるぐらいにかわいい反応だ。……うれしい。


「……レンのすけべ。そんなにボクの脚が好きなの?」


「うっ……し、仕方ねえだろ。お前が太もも出したの穿いてるから……。クーラーついてんだからもっと長いのにしろよ」


「真夏にそんなの着てられないよ。……というかレンって、もしかして胸よりこっち派? 炎夏の乳よりボクの太もものが興奮する感じ?」


「んなこと一言も言ってねーだろ」


 反応が一拍速かった。図星だったらしい。口調はいつもの冷静な言い方だが、長年付き添ったボクの感覚はごまかせない。レンの隣の椅子に移動し、たくましい肩によりかかってみた。そのまま足をレンの足に絡める。


「!?」


「……さわりたいんでしょ? 別にいいよ。太ももぐらいなら、いつでも……♪」


「お、おい、やめろって……こういうのは律季だけで間に合ってんだろ」


「……ふ~ん? そんなこと言って、目線ボクの脚に釘付けだよ? 実はけっこう溜まってるんでしょ。律季が毎日毎日炎夏と乳繰り合ってるの見て、うらやましくてしょうがないの、ボクはちゃんとわかってるよ?」


「なっ……!」


「ホントに何もしないでいいの? ターゲットの律季があれだけいい思いしてるのに、レンは見てるだけでいいの……?  エッチなことさせてくれる女の子は、君にもいるんだぞ……っ♪」


「~~~~~~~~!! ……め、飯食った後で話そうか……!」


「うんっ♪」


 ……この幸せを手放さないためにも、今回の仕事は絶対にしくじれない。教国から追放されれば、レンと一緒にいられる時間も失われる。

 ボクはボクの恋路を守るために、水鏡律季の恋路を打ち砕かなければならないのだ。












 

 






 おれ――秋月螢視が「ヤツ」に会ったのは、中学三年生の春のこと。

 太い眉とオレンジ色の髪をした、人懐っこい新入生。それが、水鏡律季だった。当時は今より大人しい性格で、部活もおれと同じ放送部を選んだ。


「お前、運動神経いいのに、なんで部活はこっちなんだ? ウチの幼馴染ほのかがバスケ部に欲しがってたぞ」


「うーん……体動かすのは好きなんですけど、集団行動が得意じゃないので。部活必須だったからここ選んだだけで、できれば帰宅部がよかったです」


「おれも一緒だ。放送部自体、そういう奴らのたまり場みたいなもんだしな」

 

「みんなテンション低いですよねー」


 友達というほど仲良くはない。顔を合わせれば話す、ごく普通の先輩後輩の間柄だ。

 そんな関係性が少し変わったのは、とある昼休みに起こったある事件がきっかけだった。


『――きらめき♪ マジカル♪ プリティガール~♪』


「――げっ!?」


 何を隠そう。おれは男の身でありながら、魔法少女モノの女児向けアニメ――いわゆるニチアサが、三度の飯より好きな人間なのだ。

 その時は寝不足だったこともあって、校内放送で使うはずのディスクと、私物のサントラを取り違えてしまい、全校にニチアサのキラキラしたOP曲が鳴り響いた。中学の校内放送などもともと無法地帯。リクエストのアニソンやボカロが流れて妙な空気感になるのは誰でも覚えがあるだろうが、その比じゃないぐらいの動揺が各教室に走ったのが、放送室からでもわかった。


(や、やべえ! おれの密かな趣味が学校中に……!?)


「――失礼しました。では、改めてリクエスト曲をお送りします」


 パニックになった瞬間、律季がすばやく曲を止めて仕切り直してくれたおかげで、ざわつきは収まった。

 生徒たちにはなんとかごまかしが効いたようだが、ニチアサのCDなど学校の備品にはない。律季にはおれが持ってきたものであるとバレてしまっている。全校生徒に俺がニチアサ好きだという事実が一斉に知れ渡る――という最悪の事態は回避されたが、律季の口から噂になる可能性がある分、ピンチには変わりない。


「……な、内緒だぞ? 絶対誰にも言うなよ?」


「わかってます。誰かに聞かれても、俺が間違えて持ってきたってことにしますよ」


「……すまねえ、助かる」


「あのアニメ好きなんですね。俺、見たことないんですけど」


「……うわー、知られたか。炎夏ホノー以外誰にも内緒だったのになぁ……。

 面倒なことにしちまってごめんな。お前も引いただろ?」


「ん? 別に引いてませんけど?」


「……いいよ、気遣ってくれなくても。むしろそっちのが傷つくわ」


 二つ下の後輩に女々しい一面を知られたあげく、優しい言葉をかけられるという中々にキツイ状況に、おれは頭を抱えるしかない。

 ――しかし、律季の次の一言は、とても意外なものだった。


「気遣いじゃないですよ。だって秋月先輩が好きになるってことは、いい作品だってことでしょ?」


「……え?」


「ね、よかったらあのアニメのどのへんが好きかとか聞いていいですか? 俺も興味が出ました」


 裏表のないまっすぐな顔でそう言われて、からかわれているという発想は出てこなかった。それ以来律季との距離は縮まり、気づけばニチアサ談義を交わし合えるオタ友同士の仲になった。おれにとっては炎夏ホノー以外でただ一人、自分の一番の趣味を理解してくれる相手だった。

 だが律季はこの一か月後――中学生最初の夏を迎えようとしていた時、うちの中学からいなくなる。教師に聞いても詳しい理由は分からず、「家庭の事情」の一点張りだった。他の生徒に口外できないほど重大な事態が律季の身に降りかかったのか――その心配がずっと残っていたので、三年たって高校で再会した時にはうれしかったものだ。





「――あの、炎夏さん、『訓練』を……♪」




「も、もう……っ♡ またなの? というか、名前で呼ばないでって言ったでしょ……♡」




(……やっぱり、怪しい)



 

 その律季は――今や、おれの最大の悩みの種と化していた。

 というのも最近、うちの幼馴染である炎夏ホノーが、律季と怪しい感じになっているのだ。明らかに仲が良すぎるというか、距離が近い。階の違う三年の教室にふらりと現れた律季に誘われ、二人でどこかへ一緒に消える……というのが、ここのところ頻繁に起こるのだ。

 二人はバスケ部のマネージャーと後輩部員なのだから、会話すること自体は別におかしくないが、部活の話をするだけなら教室でもできるはずだ。何より不自然なのは表情である。期待に鼻の穴をふくらませた顔をして現れる律季と、そんな彼を見て赤い顔でそわそわしだす炎夏。そんな光景を一日に何度も見ていれば、違和感ぐらい覚えて当然だろう。


 全てのきっかけは、あの「おっぱい揉みたい事件」だ。あれが起きた直後から全てが狂い始めたような気がしてならない。

 よもや本当に、炎夏が律季に胸を触らせたなんてことはないだろうが――明らかに二人の仲が縮まっているのと何か関係はあるはずだ。


「なぁお前……最近、律季となにしてるんだ? 毎日二人でどこか行ってるけど」


「……え゛っ。な、なにって言われても……。ど、どう答えたらいいのか……」


 訊いてみると、炎夏はますます真っ赤な顔でそっぽを向く。受け答えもしどろもどろだ。

 ――えっ、いや、嘘だろ。そこまで怪しすぎるとこっちが困るんだけど。まさか、ホントにエロいことしてるなんてことは……


(ちょっと!? なんでそんなわかりやすく動揺するんですか!)


(だ、だって言えるわけないでしょ!? 律季くんの顔におっぱいビンタしたり、体中おしくらまんじゅうでこすりつけあったり、変態プレイの数々を繰り広げているのよ……!? それも、レイン先生と二人で!)


(適当に流せばいいだけでしょ!? そういうところも可愛いけど!!)


 律季が大慌てして、炎夏といくつか視線を交わす。言葉を交わさずにコミュニケーションをとっているとわかる動きだった。

 「あうう……」と黙り込んでしまった炎夏に代わり、律季が口を開いた。ニコニコした笑みだが、浮かんだ汗は隠しようがない。


「天道先輩には、バスケの相談ついでに勉強も教えてもらってるんですよ。何度も聞きに来るのは申し訳ないんですけど、わかんないことはちゃんと聞いてねって言われたので、お言葉に甘えてます」


「そ、そうそう! 万一補修になったりしたら、試合出れなくなるから……こ、これもバスケ部のためよ」


「……にしたって、休み時間のたびに来るのはおかしくないか? おれ家庭教師やってるし、言ってくれれば今からでも教えるぞ」


「あー……助かるんだけど、来週ぐらいまでは私が見てあげないといけないっていうか……」


 二人して話を合わせている。しかも今のは、明らかに律季の方が炎夏に助け船を出していた。

 来週まで、とはどういうことか――と、おれが聞きかけた時。

 

「――っ!!♡」(びぐんっ♡♡)


「!? ほ、炎夏ホノー……?」


「あ……!」


 炎夏が突然体中を慄わせ、痺れる腕で巨大な胸を抱きしめた。一見寒さをこらえているようだが、体中から熱気がむわむわと立ち上っているのが感じられる。目の錯覚だろうか――目をつぶる前に一瞬だけ、彼女の瞳の中に光るハートが見えたような気がする。


「っ……♡ り、律季くん……わたし、もう限界かも……っ♡」


(名前呼び!?)


「……すっ、すみません秋月先輩! 話の途中ですけど、炎夏さん具合悪いみたいなんで……!」


「ごめんね、螢視ケージ……♡ 終わったら、ちゃんと話すから……♡」


「わ、わかった。お大事にな……」


 手慣れた感じで炎夏に肩を借し、律季は教室を出ていく。おれ達は気づけばクラス中の注目を浴びていたが、体調を悪くした彼女を心配している者が大半で、違和感を持っているのはおれ一人らしかった。普通の風邪にしては症状が急すぎる。直前まで普通に話していたのに、いきなり発熱に襲われるなんて……。

 この短期間で妙な事が起きすぎている。律季と炎夏が急接近したことも、今の発熱も――思い当たる理由は、ひとつしかなかった。


「……元気ないねぇ、螢視。なにかあった?」


「――おう、ユウマか」


 神瀬ユウマが、てくてくと近づいてきた。隣では朝霧レンがいつも通り目つきの悪い顔をしている。

 俺はビニール袋からコンビニで買って来たおにぎりを取り出した。いつもは四人そろって食べるのだが、最近はなぜかその機会がなく、もっぱら炎夏を除いた三人でつるんでいる。どうも近頃、炎夏がおれ達を避けているような気がしてならない。


「ん、今日はコンビニ飯か? いつもの弁当はどうした?」


「今朝は寝坊しちゃってな。用意する時間なかったよ」


「――ふーん。また受験勉強かい?」


「いや、ゲームやりすぎただけだ。寝る前にちょっとだけのつもりだったんだけどな……」


「あー……わかる。俺も中学ん時は何回もやったわ」


「ダクソ1はやっぱりすげえな。気づいたらアノロンまで行ってたよ」


「ウソでしょ?」


「寝坊どころか徹夜コースじゃねぇか」


 我ながらバカみたいな話だと思うが、事実である。炎夏関係の悩みを隠すための嘘というわけではない。

 もとよりユウマに対してごまかしは通用しないのだ。その気になれば暗示魔法で真実をしゃべらされてしまう。


「でもまあ……それだけじゃないんでしょ? 見てたよ、さっきの」


「炎夏の事が気になるんだろ? 最近様子おかしいしな」


「――やっぱり、二人もそう思うか?」


「……まあ、な。大方お前も、それでストレスが溜まってゲームにのめりこんじまったんだろ」

 

 妙な間が気になったが、レンの言う事が図星だった。邪念を振り切るためにゲームに没頭していたら、いつのまにか寝落ちしていた次第である。

 ユウマとレンが隣の椅子に座り、一つの狭い机に三人分の昼飯が並んだ。二人の弁当はいつも通りお揃いだ。鶏そぼろご飯に卵焼きとちくわがついていて、なかなか凝った中身だ。


「ねぇ螢視、おかず交換しないかい」


「おにぎりと卵焼きでトレードか? 不公平にも程があるだろ」


「ちぇー」


(……すげぇなコイツ。つい先日まで赤の他人だった奴に、普通こんなズケズケ行けねぇよ。いくら暗示があるとはいえ……)


 二人と、これまでに何千回と繰り返してきた他愛無いやりとりをする。

 しかし、それでも胸の中のしこりは消えない。四人組の中でおれだけが魔法使いでないという意味では、この二人との間にも壁はあるのだ。


「……律季は、炎夏ホノーのバディなんだろう?」


「「!」」


 さらりと言ったおれの言葉に、二人が箸を止めた。――やはりな、と思った。魔法使いである二人なら、少なくともおれよりは炎夏の事情を知っているはずなので、カマをかけてみたのである。

 水鏡律季こそが、今まで見つからなかった炎夏のバディ。そう考えれば全ての違和感に辻褄があう。炎夏が詳細を俺に話してくれないのも、魔法使い特有の守秘義務ゆえだろう。

 

「……どうしてそう思うんだ?」


「どうしてもこうしても、そう考えるしかない状況だろ。炎夏ホノーは律季に『乳が揉みたくてバスケ部入った』なんて言われて、しばらくは口も聞きたくないって剣幕だったんだぞ。それが舌の根も乾かないうちに自分から勉強教えるだなんて、魔法関係の何かとしか思えないじゃないか」


「……は? な、なんだそれは? 俺らも初耳だぞその話」


「え、マジで……? アイツ炎夏の胸揉みたいからってバスケ部入ったの? で、それを本人に言ったの……?」


「話の腰を折らないでくれよ。衝撃受けるのはわかるけど……。あと、別に本人に言ったんじゃなくて、律季がそう言ってるのをたまたま炎夏ホノーが聞いちゃっただけだ。炎夏ホノーが怒るのも分かるけど、律季は冗談のつもりだったんだろうな」


(……いやぁ。それはないと思うなぁ……)


(胸が揉みたい一心で魔装まで至っちまう男だぞ。マジに決まってるじゃねぇか……。

 それにあいつ多分、そういう良くない冗談は言わねえタイプだろ。言う時は本気で思ってる時だ)


炎夏ホノーにも当然プライベートがあるし、魔法使いが一般人にベラベラ秘密をしゃべれないのもわかるが……一番の親友に隠し事をされるのは、やっぱり寂しいよ。仕事上のパートナーなら、俺に言えないようなことをやってるわけでもないだろうにさ」


(ヤってるんだよなぁ……)


(ヤりまくってるんだよなぁ……)


 炎夏はおそらく、魔法使いとしてかなり強い部類に入る。五歳の時に「あの事件」を経験したおれには、彼女が弱いはずがないという確信がある。現とレンとユウマは、火力では炎夏にかなわないと言っていた。

 律季が炎夏のバディになったといっても、魔法使いになったのが「おっぱい揉みたい事件」と同時期なら、まだルーキーもいいところだ。炎夏とは相当な力の差があるに違いないし、いろいろと教えを請わなければならない時期のはず。、そこに関しては心配はしていないのだが……モヤモヤすることには依然変わりない。

 魔法の秘密などに興味はないが、律季とどういう関係性かぐらいは、教えてくれてもいいじゃないか? やましいことがないのなら、なおさらだ。


「……おれが魔法使いだったら、こんな風に悩まなくても済むのかな……」


「――!」(ぴーん!)


 おれがそうこぼした時、ユウマの目線が突然鋭くなる。コーヒー色の頭の横に、電球が見えたような気がした。口にご飯粒をつけたままのユウマが、こちらへ机越しに身を乗り出す。


「ほほ~ぅ? そうかそうか……♪ 螢視は、ボクらと同じ魔法使いになりたいと♪」


「な、なんだよ……?」


「奇遇だね。ボクらもちょうどそれを考えていたのさ――キミの協力を得て、あの二人の仲を引き裂くことをね。

 この魔女っ子ユウマちゃんが、キミに知恵を貸してあげようではないか♪」


 昔から知っているはずの友人が、見たことのない禍々しい笑みを浮かべている。レンもまた、俺に詰め寄る彼女を黙って見守っていた。

 ――そして彼女の右手が、懐から杖を取り出しておれに向ける




「さぁ……大好きな幼馴染を、律季から取り返そうぜ……♪」












         第三章『HERO & HEROINES』












◆あとがき




 ・秋月あきづき螢視けいじ


 大多数の読者が存在を忘れていたであろう炎夏の幼馴染。クリーム色の髪をした長身の少年で、IQ130の天才である。

 炎夏が魔法使いであることを知っているが、非魔法使いの一般人であり、詳しい機関の活動までは聞かされていない微妙な立ち位置にいる。炎夏に近い立場であるためユウマに目を付けられ、赤の他人である彼女を親友と誤認させられたあげく、手駒としてキープされているハメに。

 第三章は彼が主軸となってストーリーが展開されていきます。旧版を読んだ方にはネタバレ済みなので言いますが、彼がこの作品の第三ヒロインです。最終的にTSして律季におっぱいを揉まれますので、ご期待ください。



 ・ダクソ1


 螢視と筆者がハマった神ゲー。この一か月間更新がなかったのは八割がたコイツが元凶です。(起動するたびにアノールロンドまで行ってしまうのも筆者自身の実話です。おかげで生活習慣がガタガタになりました)

 ちなみに螢視のお気に入りビルドは炎を使える呪術師で、次点はクラーグの魔剣を握った技量戦士。キャラクリで三時間かけて炎夏を再現したら、ゲーム開始直後に亡者になっていたトラウマがある。炎夏もちょっとだけ触ったことがあるが、不死院の直後にうっかり地下墓地へ行ってしまい、篝火から帰れなくなって詰んだ。



 

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