乳揉みというは生きる事と見つけたり その5



「先輩、そういえば今日って親御さんは?」


「――二人とも夜十時ぐらいまでいないわ。本当、全部水鏡くんの都合のいいようにいってるわね」


「マ、マジですか? 十時って、まだ昼の一時なんですけど」


「ど、どうせ……やるんでしょ、『訓練』……。実際、水鏡くんの『武装形成フォーミングアーム』に関わることなんだから、実験結果を報告しないといけないし。

 ――その……弟は家にいるから、あんまりうるさくしないでね?」


「は、はい」


 今二人がいるのは、天道家の玄関前だ。律季がここに来るのは、これで二度目となるが、今度は炎夏自らが律季を招いていた。

 律季も炎夏も交際相手はいないのだが、なにやら人目を盗んで浮気関係にあるような怪しい雰囲気になっている。ドアノブに手をかけて扉を開ける炎夏の動作も、しずしずとして、心なしかためらいがちだった。


(今から、おっぱい揉む……)


(今から、おっぱい揉ませる……)


 期待と不安と好奇心。心臓がドクドクと鳴り、目が自然と据わる。

 炎夏の部屋がある二階への階段を、部屋の主が先行して登った。ロングスカートを履いているため、見上げても下着は覗けないが、浮き上がった尻の形だけでも十分に魅力的だ。


「……なに静かになってるのよ。ずーっとしたいって言ってたじゃない。いつもの君なら、もっと露骨に喜ぶところでしょ」


「ああ、いえ、その、なんていうか……不思議なもんだなぁと思いまして」


「不思議?」


「デートして、お部屋に上がらせてもらって、おっぱいまで揉ませてもらえるのに――まだ、先輩の彼氏じゃないなんて。もっとも、いずれは『』つもりですけど」


「……生意気言わないでよ」


 律季は炎夏の目を見返し、真剣な面持ちで言い放つ。そこはすでに炎夏の部屋の前だ。

 ――そんな予感。飲まれかけている自分を隠すため、炎夏はわざと声を低める。いくら虚勢を張ったところで、これから二歳年下の男の子に体を許してしまうことに変わりはないのだが。

 強い態度を示しながらも、律季が自らの手で目の前のドアを開けることはない。炎夏にとっての最後の砦は、炎夏自身の手で開けさせることに意味がある――そう示す様に。


 ――ガチャリ。


 ドアの先に広がった部屋の光景は、炎夏にとっては何よりも見慣れたものだが、安心感はなかった。隣で律季が、いやらしい鼻息を吐いているせいだ。彼女の聖域は今から律季に土足で踏みにじられる。炎夏のプライベート空間が、律季のパラダイスに変貌させられてしまうのだ。


「せ、先輩っ……! じゃ、じゃあ、さっそくお願いします!」


「……ま、待って……! シャワー浴びてくるから、しばらくここで……きゃっ!」


「そんなのいやです。このままさせてください」


 部屋に入るなり、炎夏の手を握って捕まえる律季。調子づく彼を牽制するために、シャワーを提案したのだが一蹴された。

 こうなればこっちのものだ――と、本能で悟った律季は、今までの人生で経験したことがないほどにアドレナリンを大量放出し、炎夏を『もの』にすべく密着する。一年生と三年生の間に高い壁があるように感じるのは、学生ならではの錯覚に過ぎない。たった二歳しか歳が違わない『男』の腕力に抵抗する術は、炎夏には無かった。律季は炎夏の肩を押さえつけ、強引にベッドの上に座らせる。


「清潔さを気にするぐらい、俺を意識してくれてるのはとっても嬉しいですけど……先輩の匂いを嗅ぎながらしたいんです」


「……変態。乱暴な事しないでよ」


「先輩が可愛すぎるから、優しくする余裕が無いんです。でも、できるだけがんばります。――じゃあ、そろそろ……」


「うん。『約束』だから、ね……」


 炎夏の隣に座り、待ちきれないとばかりにスカートの上から太ももをすりすりと撫でる律季。それに応えて、炎夏はゆっくりと手を持ち上げ、『念力』で直接触れることなくブラジャーのホックを外した。




 『ぷちん♡』 



 ――ダプンッッッ♡♡♡♡




「――っ!!!!!」


「……♡♡♡」


 乳肉が軛から解き放たれた瞬間、ノースリーブの下で、穏やかな爆発が起きた。

 うつむき加減に胸を楽にした炎夏の姿を、律季は目を見開いて側面から凝視している。服の上からでも、前後で質感が変わったのが目に見えてわかる。脇の下にも襟にもブラが通る隙間は無いので、炎夏は『しゅるしゅるしゅる……』と、裾から『ブツ』を抜いた。


 ――ピンク色の、帽子と見まごう巨大なブラジャーが、ほかほかと温かい香りを立ち上らせていた。

 炎夏がちょうど顔の横でつまんで持っているので、片方の球体だけでも彼女の顔より大きいことが分かる。取った瞬間胸の部分が膨らんだということは、このサイズでもある程度圧迫されるほど、『中身』は大きいらしい。


「こっ、これが、Rカップの……! ちょ、ちょっと貸してくれませんか?」


「ダメ。一応聞くけど、何する気?」


「いえ、裏の部分を嗅いだり舐めたりした後、頭にかぶって先輩のおっぱいの気分を体験してみようかと」


「水鏡くんってば、ほんとに正直者よね。最後に至っては何?」


 『ぽよん……♡ ぽよん……♡』解き放たれた双球が、服の下でなまめかしく揺れる。

 ウォーターベッドというのはこんな感じなのだろうか。叶うなら、炎夏の乳枕で寝てみたいものだ――律季はそう思った。


「でもこれ、たぶん国産じゃないですよね? ブランド名の読み方も分からないんですけど」


「まぁね……中一ぐらいから既に、サイズ合うのがなくて困ってたわ。多少ならまだごまかせたけど、さすがにRともなると、普通の店だとまず見つからないわね。オーダーメイドするか、海外のメーカーのを通販で買うぐらいしか……って、あれ? み、水鏡くん?」


「――すみません先輩、今のエロすぎです」


「えっ――ん、っ♡」


 律季は炎夏の胴体を自らに向けさせ――右手を左おっぱいに、左手を右おっぱいに、服越しに沈み込ませた。

 瞬間、世界の色が変わったような衝撃。律季の全身が歓喜の叫びを上げた。

 

「……お、おおおおおおおおおおっ……!! す、すっげぇ……っ!!」


「っ、あっ♡ 水鏡くん、もうちょっとやさし……くぅっ♡」


 柔らかい、というのは分かっていたのだが――妄想では到底たどり着けない『量感』があった。それは夢の中ですら得られなかった夢のような感触。

 『むちむち♡ もぎもぎ♡』 重しを持ち上げるように、下からおっぱいを揉み込むことで、重量と柔らかさを同時に味わう。


「ん、っ……。ぐっ♡ う、う゛う゛うううっ……♡♡」


 いろんなところを触るたび、いろんな喘ぎ方をする炎夏。まるで楽器のようだった。

 後輩に簡単に気持ちよくされるのが悔しいのか、炎夏は歯を食いしばって快楽に耐えながらも、喉の奥からエロい声を漏らし続けている。炎夏を我慢できないほど気持ちよくさせているという達成感に、律季はすっかり夢中になっていた。そんな彼を、炎夏は震える手で押しのけようと抵抗する。


「待って、水鏡くん、ちょっと待って……! いきなり魔法使わないでよっ♡」


「は……はっ? 魔法? そんなもん使ってませんよ? なにもかも初めてで、完全にいっぱいいっぱいだし……」


「う、うそよっ♡ じゃあ無意識♡ また無意識に使ってるんでしょ♡

 ――じゃなきゃ、……っ♡♡」


 ぷちっ。

 その発言は、男の嗜虐心を最大限に挑発し、律季の興奮のレベルを一段階引き上げた。さっきまで嬉しそうな目でニヤニヤしていた彼が、瞳孔を開き、無表情になる。


「なんなんですか? わざとやってんですか? ――じゃあお望み通り、そうしてあげますよ。もともと、魔力込めたらどうなるかっていう実験でもあったんだ……しっ!」


「――ふあああああっ♡♡♡!!?? あ、熱いっ!!??」


 律季が掌に『力』を流した瞬間、炎夏がおとがいを上げて悶えた。

 ――服越しではあるが、炎夏の胸の谷間にまたがり、光る紋様のようなものが浮かび上がる。

 

「これは……!? もしかして、俺の『武装形成フォーミングアーム』ってやつか?」


「はぁ、はぁ……♡ ど、どう? 私の『炎』は使えそう?」


「は、はい。俺も手に熱い感触を感じます。多分、先輩の胸……いや、この『模様』から力が流れ込んでるんじゃないでしょうか」


 一時的に律季が手を放しても、『模様』は光を放ち続け、律季の手の熱さも冷めない。

 接触することによって直接魔力を授受するというより、力の所有権を示す『模様』を相手に刻み付ける……というのが、水鏡律季の能力の実態らしい。おそらく模様が浮かび上がっている間は、律季は炎夏の炎を使うことができるのだろう。


「でも、前回はこんなことなかったわよね。水鏡くんの能力が成長してるってことなのかな?」


「どうでしょうね? 俺にもよく分からないですけど、前はちょっと触っただけだったから、本格的に作動してなかったって可能性もあります。でも、となると、スキンシップの過激さが『力』にも影響するってことに――はっ! せ、先輩!」


「わ! な、なに?」


 律季の瞳に火が付いた。それは炎夏由来の炎魔法でもなければ、『武装形成』の片目の輝きでもない。あえて言うなら欲情の火だった。


「お、お願いします! 服の中に手を入れるんで、直におっぱい揉ませてください!!」


「え、ええっ!? そ、そこまでやらせる気は……」


「じ、実験です! あくまでどうなるかを検証するためにです!」


 ふーっ! と鼻息荒く迫る律季。まるで説得力がない。

 しかし快感で全身を火照らせ、甘い匂いをより濃く立ち上らせている炎夏は、そんな言葉にも説き伏せられかかっている。


(さ、さすがにそれは恥ずかしい……ダ、ダメよ。水鏡くんは、私の命を二度も助けてくれたのよ? 『おっぱい揉ませる』っていう約束だし……)


「先輩、お願いです。直接おっぱい揉ませてください……!」


 その台詞で、炎夏の脳裏にフラッシュバックする光景がある。

 ほんの五日前、体育館倉庫で『おっぱい揉ませてください!』と頭を下げられた時のこと。あの時は困惑するばかりだったが、紆余曲折あったとはいえ、一週間にも満たない間に、こんなことになってしまったのだ。

 律季を部屋に招き入れ、自ら進んで彼の手に体を預けた。今や炎夏に許された選択は、『服の上から』おっぱいを揉ませるか? 『生で』おっぱいを揉ませるか? その二択しかない。


 だがしかし、だからこそ、これ以上は安易に許せる領域ではないのだ。

 ――彼女は由緒ある天道家の長女である。たとえ恩のある律季が相手でも、魔法にまつわる事情があっても、毅然たる態度を示しておかねばならない。


「――ねぇ、水鏡くん。私も、こればっかりは建前に乗っかれないからさ。本音を言ってよ」


「ほ、本音……?」


 もみもみ。


「ん……♡ 水鏡くんは、私のおっぱいを揉むの? ――あっ♡ い、いや、もっと言えば、

 ――私も神社の娘だからさ。ただ遊びたいだけの男の子には、そこまではさせられないわ。水鏡くんは私と、最終的にどうなりたいって思ってるの? おっぱい揉んだら、それで満足しちゃう感じ? ……はぅっ♡」


「――え? いや、んなわけないでしょ。いけるのであれば結婚までいきたいですよ」


 即答。炎夏は思わず律季の目を見返したが、彼は完全に素面だった。

 おっぱいを揉む手すら、ぴたりと止まっている。この言に関しては真摯な言葉であるようだ。


「実際、俺も、いっぺんおっぱい揉んだら多少は満足するかと思ってたんですけどね。実際やってみたら、なんかもうどんどん渇きが増すっていうか、ますます何回でも揉ませてほしくてしょうがなくなっちゃってるんで、自分でもびっくりしてます。だから、少なくともこれで満足して先輩に興味を失うなんて事は絶対ないです」


「い、いやいや、そういうことを聞いてるんじゃなくてね……」


「でも、先輩にエロいことだけ期待してるわけじゃないのも確かですよ。今日はデートできて楽しかったし、今後も二人で出掛けたりしたいです。先輩の近くにいられるだけでも幸せなので、将来的には一緒に暮らせたら素敵だなーって思います」


「――あ、う……」


 性欲の塊のような律季に、引かれるなら引かれるで構わないと投げた質問だったが、想像以上に重い答えが返ってきた。いやらしいことを語る際とは比にならないほどにストレートな語彙だった。

 炎夏の体だけが目当てなら事態は簡単なのだ。実際、過去に告白してきた男のうち何人かはそうだった。しかし、律季の場合はどちらもまったくの本音らしいのが始末に困る。彼が本性を隠せるほど賢かったら、正面から『おっぱい揉ませてほしい』はないだろう。


「水鏡くんが思ってるほど簡単じゃないんだって。私と付き合うってことは、自動的にうちの神社に婿入りする意思表示ってことになっちゃうの。少なくとも、うちの親とか地域の人とかはそういうふうに受け取るわ」


「俺じゃ先輩とは釣り合わないってことですか?」


「……いろいろ口出しされるようになっちゃっても、大丈夫なのかって話」


 世間体に固執するあまり、自分の心情を明らかにしない炎夏に、律季は焦れたようだ。照れ隠しなのは分かるが、こうも頑なだと、少々苛立ってしまう。


「――要するに、今の俺じゃってことですね。いくら先輩がまんざらじゃなくても」


「な!? だ、誰がそんなこと言ったのよ!?」


 ――否定が弱い。炎夏自身は嫌がっていないと見て間違いなさそうだが、正式に交際するためには周囲の人間の同意を取り付ける必要がある。

 つまり現状ではロミオとジュリエット。外堀より先に内堀を埋めてしまって、本丸へ攻め込めない状態だ。律季は炎夏に告白した何十人もの男の中でも、おそらく最も彼女に接近できた者だろうが、まごまごしていればどこぞの良家の息子が彼女のフィアンセの座をかっさらいかねない。ただでさえ彼女は今年いっぱいで高校を卒業するのだ。


「先輩が俺のことを嫌いだっていうなら、おとなしく引き下がりますけど。でもそんな理由じゃ俺も諦められないです。先輩も、このおっぱいも、誰にも渡したくないです。

 優秀な男じゃなきゃ彼氏にできないっていうんなら、俺がになります。今すぐは無理ですけど、将来的には、誰にも文句をつけられないぐらいに完璧で、先輩が彼氏にしたくてたまらないぐらいにかっこいい男になってみせます」


「……き、君、自分で何言ってるかわかってる……?」


 炎夏の顔に赤みが差し、瞳孔が開く。交際どころか婚約も同然。それはまさしく将来の誓いだった。

 興奮状態で出まかせを言っている可能性もある。だがもし今までの彼が、『おっぱい揉ませてほしい』という台詞にそれだけの覚悟を込めていたとしたら……。

 。命懸けの戦いに参加することすら、炎夏と一緒ならと躊躇せず、実際に死にかけても恨み言一つ言わなかった彼だ。


「――はい。俺としては神社に婿入りなんて願ってもない話ですよ。重荷だなんて思いません。両親がいなくなってから、身寄りもあってないようなもんなんで。先輩と一緒になれるなら、もう寂しくもなくなるし」


「っ、水鏡くん……」


「だから、あとは先輩の気持ちだけです。――おっぱい、揉ませてくれますか俺が彼氏でいいですか??」


 言い終わってから、律季は若干頭が冷えたように、両手の指を腿の上で組んだ。唇を怯えたように引き結び、体中をわずかに震わせながら、黙って炎夏の返答を待つ。

 自分が今、重要な選択の場面に立たされていることを炎夏は悟った。応じたところで今すぐ付き合うことにはならないが、だからといって軽々しく答えれば、律季に対する深刻な侮辱になるだろう。


「……水鏡くんの言ったことを、全部信用するわけじゃないけど……わかったわ。そこまで言うなら、君におっぱい揉ませてあげる。一応魔法の実験でもあるしね」


「――ッ! あ、ありがとうございます!」


「言っとくけど、本当にいいのね!? 全部じゃないけど、ある程度は信用するわよ! 私、期待するからね! 後で『やっぱやめた』とか一言でも言ったら焼き殺すからね!?」


「……はい!」


 腰で動いて炎夏と肩をくっつけた律季は、彼女に体重を預ける。先輩マネージャーにして炎の魔女の体温が、じんわりと伝わってきた。

 ――すりすり。律季は炎夏の右腕を捧げ持つように両手で優しくつかむと、ゆっくりと頬ずりして温もりを堪能する。YESをもらったせいか甘え方のギアが一段階上がっていた。炎夏は苦笑いして彼を受け入れる。


「もう。おっぱいじゃなかったの?」


「あ、そうでした」


「入院してたのもあるだろうけど、水鏡くん、ちょっと乾燥肌気味だね。ちゃんとケアしとくのよ? ……私の彼氏になりたいんだったら、さ♡」


「~~~~~っ!」


「――んあっ♡♡♡」


 たまらず、炎夏の脇の下から服の中に手を突っ込んだ。心なしか体温の高い肌の上をまさぐり、胸をわしづかみにする。

 ぐるぐると乳肉を弄ぶ手を止めることなく、律季はベッドの上を移動し、炎夏の背後に回り込んだ。正座の体勢で両腕を彼女の両脇の下から侵入させ、思うままに乳を揉む。


「……ンう゛っ♡♡ う゛ぁッ♡♡」


「あああああ~~~~~っ、すっげぇ、生乳すっげ~~~っ! すべすべふわふわ、マジ最高すぎッ……!!」


 この時、律季の本能と理性が全く同じセリフを出力していた。まさしく魂の歓喜である。

 律季は何の遠慮もなく欲望の限りを尽くす。なにしろ、手の中にあるのはほかならぬ彼女(仮)の胸だ。


「う゛ううっ♡♡ ぐうっ……♡♡」


「いいんですよ先輩、声出しても……」


「ダメよ、弟に聞こえちゃうでしょ……あ゛っ♡ ひぁぁぁ♡」


 喘ぎ声を上げさせたくてしょうがない律季が、情熱的な責めを行う。炎夏の方は、それを拒むかのように口を覆って必死で嬌声をこらえるが、反論した隙に胸を前から押しつぶされ、甘い悲鳴を部屋中にまき散らしてしまった。


「気持ちいいですか?――


「!? ちょ、ちょっと……!?」


「隠さなくてもいいですよ。匂いがどんどん濃くなってるからわかります」


 角度のせいか、炎夏からだと、大して長くもない前髪に隠れて律季の目が見えない。時折彼女の後頭部で、律季が鼻を髪の中に突っ込み、そのまま肺いっぱいに息を吸い込む感触と音が聞こえた。


「あー、ほんっといい匂い……! 炎夏さんの全部、俺のものにしてやりますから……!」


「ま、またそれ! ――んあっ♡! な、なんで名前でっ……」


「だって、俺の彼女になってくれるんでしょ? だったらもう『先輩』なんていやです」


「まだでしょ、まだ! あと、彼氏にするかどうかはあくまで私の判断だからね!? 外で勝手に名乗ったらぶん殴るわよ!?」


「大丈夫です。こうやって呼ぶのも二人っきりの時だけにするんで」


「んもー、ちょっと譲歩するとすぐこれなんだから……」


 吹き出しに入ったぐちゃぐちゃの線が、炎夏の頭の上に浮かんでいる。こうなった律季はまず引かないことが経験上彼女にはわかっていた。


「お願いですよ、いいじゃないですかー……」


「んっ♡ あ、くっ♡ だ、だめだよぉ……あっ♡」


「先輩も俺のこと『律季』って呼んでいいですから。お願いです……」


「あっ、んっ♡ こ、交換条件になってないでしょそれ……」


 もにゅもにゅ♡ ゆさゆさ♡ くりくり♡ あの手この手で炎夏の胸を責め、無理やり要求を押し通そうとする律季。拒否の回数のたび、どんどんその攻撃は速まっていった。


「いいって言うまで止めませんよ。弟さんにばれちゃってもいいんですか?」


 ――くり♡ くり♡ さすさすさすさす♡

 人差し指で『先端』を押し込み、いじくり、輪をなぞる。とうとう炎夏は体勢を維持できなくなり、腰をかくつかせ、足の指のあたりでいきみ始めた。快楽をごまかすためのへこへこした動きが、律季の征服欲を刺激する。

 

(ううっ、先っぽ弱いのにぃ……! ダメだ、もう限界……っ!)


「いきますよ、炎夏さん……はいっ!」


「んん゛~~~~~~~~っ♡♡♡♡」


 律季は炎夏が達する寸前、完璧なタイミングで手つきを変え、二本指で乳首を思い切り押し込んだ。

 ――カァ……ッ!


(あ、『模様』……!)


「炎夏さん、炎夏さん……っ!」


「ちょ、ちょっと待――ん゛ぎゅうううううう~~~~~♡♡♡♡♡♡」 


 炎夏の胸に浮かんだ『模様』が、服越しにさらに光を増すも、それが見えていない律季は炎夏に快感を与えようとさらに躍起で責めた。

 両手で口を抑え、絶頂の声をかみ殺す炎夏は猫背になって快感を逃がそうとするが、律季は逃がすまいと執拗に追いすがり、『ぐりぐりぐりぐり♡』と乳の中に沈んだ炎夏の弱点をこね回す。「んあ゛あああああっ♡♡ ひっ、い゛ぃぃぃっ♡♡」本当に下階まで届きそうな派手なイキ声が轟いた。


「……はぁ、はぁ……♡」


「え、えっと……せ、先輩、大丈夫ですか?」


 律季から顔は見えないが、炎夏は体をわずかに傾けて、すっかり放心状態だ。さすがにやりすぎたかと危惧した律季は、思わず呼称を元に戻してしまう。

 ――ぴんっ♡ 


「んっ♡ こ、こらぁ……♡」 


「あ、起きてる」


 爪で軽く乳首をはじいてやると、弱々しい反応が返ってきた。絶頂を迎えたばかりのせいで、びんびんに充血して敏感になっているのが感触だけでも分かる。


「あの。炎夏さんのこと、炎夏さんって呼んでいいですよね?」


「だ、だめだってば……♡」


 ――ぴんっ♡


「あんっ♡」


 ――ぴんっ♡


「はぁっ♡」


 ――ぴんっ♡ ぴんっ♡ ぴんっ♡ ぴんっ……♡


「うっ♡ あっ♡ はぅ゛っ、あがっ……♡」


「ね、いいですよね? 炎夏さん」


「――ふ、二人っきりの時、だけ……♡」


 茹だった頭でまともな判断ができるはずもなく、脅迫じみた乳首責めもあって、炎夏は結局申し出を飲んでしまう。律季は感謝を示すかのように炎夏の胸を解放し、抜いた腕で彼女を後ろから抱きしめた。


「――あ、『模様』が光ってる」


「や、やっと気づいたのね。私がイった……じゃなくて、その……オーガズムの時に強く光ったわ。まだ詳細はわからないけど、オーガズムに達することが『何か』の条件になっていそうね。多分、直接触るのは関係ないわ」


「なるほど」


 ――もにゅ♡ もにゅん♡


「み、水鏡くん?」


「『律季』ですってば。炎夏さん」


「だから呼ばないわよ……あんっ♡ ――じゃなくて、なんでまだ揉んでるの!?」


 『直に触れたらどうなるか?』という実験結果が出た以上、もはや乳を揉む大義名分はない。

 いぶかる炎夏を無視して、律季は愛撫の手を休めなかった。振りほどこうにも服の中へばっちり食い込んでいるため、容易には腕が抜けない。力づくで引き抜こうとしても、乳首責めされればふにゃふにゃになってしまう。


「うーん、匂いがいっぱい嗅げるのはいいけど、炎夏さんの顔も見たいな」


 そう言って律季は一度手を抜き、炎夏をベッドの上に寝そべらせると、今度は裾から『すぽっ』と服の中に手を入れる。どんどん手つきがこなれてきていた。

 目と目を合わせ、真剣な面持ちで炎夏を見つめながら、律季は乳揉みを続行する。


「あ、んんっ……も、もういい加減に……」


「いやいや、今やめるわけないじゃないですか。むしろこれからが本番でしょ?」


「な、なにがよぉ……」


 右手でへそをいじくりまわし、左手を胸の谷間に差し込んで圧迫感を楽しむ律季。一度絶頂を迎えて正気を取り戻しかけた炎夏が、またどんどんしおらしくなっていく。


「んんっ、おへそは……それに谷間もっ♡ も、揉むんじゃなかったの……?」


「え? これも感じるんですか? マジでめちゃくちゃ敏感なんですね、炎夏さんって」


「だからそれは……あん♡ 君が魔力を使ってるせいだってば……♡」


「あくまでそのスタンスなんですね。――ふ~っ」


「ひゃあ!?」


 不意に、すっかり熱くなった炎夏の耳に向けて、息を吹きかけてみる。

 ハイになってしまっているのか、律季は童貞とは思えないほどに大胆になっていた。炎夏が自身のあらゆる動作で簡単に喘ぐことも、彼に自信を着けさせたようだ。


「ほら、敏感じゃないですか」


「う、うううう……わかったわよ。認めるから、もうやめてよぉ……」


「だからダメです。だって俺まだ、必要な分しかおっぱい揉めてないですもん」


 もみもみ♡ もみもみ♡

 炎夏を感じさせるよりも、純粋に感触を楽しむための単調な乳揉みだ。特に責めを意識していなくても、十分に炎夏をエロい顔にできることはすでに実証済み。律季は己の掌に収めるには大きすぎる質量の肉を、手癖のままほぐしていった。

 おっぱいに対して圧倒的に小さい手の感触だけで、全身を震わせてしまう炎夏。抑えきれない喘ぎを漏らすたび、自分の体は律季の意のままなのだと、したたかに思い知らされる気分だった。


「なんというのかな……『実験のために』おっぱいを揉むっていうのが、どうも俺の中で納得いかないんですよ。確かに嬉しいは嬉しいんです。でも、おっぱいは俺の中では手段じゃなくて目的なんですよ。もし一時的におっぱいを手段にしなきゃいけない状況になったとしたら、なおさらそのあとは純粋な気持ちでおっぱいを楽しまないといけないっていうか」


「ごめんなさい、全然意味わかんないわ!」


 律季にとって『乳揉みで魔力を得る』能力は、合法的におっぱいに触れる都合のいいもののはずだったが――彼はそれで満足できなかった。

 彼がそういう能力を手にした以上、これからの炎夏のスキンシップには『魔法の訓練』という側面がつきまとうことになるからだ。この世の何よりもおっぱいが好きな彼にとっては、いやらしいことをする口実が得られるメリットよりも、おっぱいを『手段』にしてしまうことへの嫌悪感の方が強かった。

 『これは必要なことだから』と互いに言い訳しあいながら行為に及ぶ、というのは、それはそれで興奮できるのだが――純粋に義務的な行為となってしまっては、萎えることはなはだしいのである。『おっぱいを揉む』ことの動機は、『おっぱいを揉みたい』以外にありえないのだ。


「――炎夏さんっ!」


「きゃぁぁぁぁっ!!??」


 隙を着き、裾をまくりあげ――律季は、炎夏の服の中へ顔を滑り込ませた。律季が買ったものだとはいえ、おろしたてのノースリーブがべろべろに伸びてしまう。


「ちょ、ちょっと待って! こんなの訓練でもなきゃ約束でもないでしょ……!」


「だって、炎夏さんともっとエロいことしたいんです……!」


「こ、このぉ! いい加減に――って、え!?」


「――『念力』、『創造』」


 慌てて襟を伸ばすと、谷間の間に顔をうずめた律季が見えた。手を振り上げ、制裁を加えようとした瞬間、そこで動かなくなる。もう片方の手も勝手に跳ね上がり、両手首の位置にどこからともなく手錠が現れた。律季が『創造』で作り出したのだ。両手を上げさせられた体勢で炎夏は拘束された。


「あ、ああ……っ。そんな……っ♡」


「いきますよ、炎夏さん……!」


「水鏡くん、待って――あ、ああああああああッ♡♡♡」


 炎夏を好き放題にしたい一心で、ぶっつけ本番で鉄の手錠という複雑なものを作り上げてみせた律季。潜り込んだ炎夏の服の中は、彼にとってまさしく遊園地だった。楽しくないものがひとつもない、最高の遊び場である。


「ん、んんんっ……♡」


 ――巨大な乳房で、両側から顔を押しつぶす。


「やぁ……くすぐったいよぉ……♡」


 ――充満した濃厚な香りを、肺中に満たす。

  

「ねぇ、もうやめてってば……♡ そんなとこ汚いよ? 汗臭いでしょ?」


「炎夏さんに汚いとこなんかないです! 炎夏さんの汗っかきなところが大好きです! ――その証拠にっ……!」


「ひゃあッ!?」


 律季は谷間に滲んでいた汗を、舌先でひとなめした。おそらくそれがこの空間を満たす甘い香りの根源であろう。確かに科学的には菌が繁殖しているのだろうが、律季にはそんなことは関係なかった。炎夏の谷間の汗などは、彼にとっては極上の甘露にほかならない。


 ――チロチロ♥


「炎夏さんの、エロいとこのエキス……! 美味すぎっ……!」


「み、水鏡くんっ……ほんと、やめてっ……♡ 気持ち悪いからぁ……♡」


 ――レロレロ♥ ちゅっ♥ じゅ~っ♥ 


「うううっ……こ、このぉ……!」


 ――ベロベロベロベロベロベロ!! じゅうううう~~~~~~っ!!


「お、おどりゃあああああ――ッ!!」


「ぎゃあああああああ――っ!!??」


 ――天罰覿面。

 炎夏はついにブチ切れ、手錠を力づくで引きちぎった。大はしゃぎで服を蠢かせている律季の頭に両手を添えて加熱する。火は出ないが布地が赤熱し、律季の絶叫が轟いた。
















「――もう、水鏡くんのよだれでぐちゃぐちゃだわ。早くシート取って」


「はい、私が悪うございました……」


 すっかり拗ねた炎夏が、卓上に常備してある汗拭きシートを指さした。マンガチックな焦げたアフロになった律季が、しゅんとしながら手を伸ばし、サイコキネシスで箱を引き寄せる。「ごほっ」と咳をすると、黒い煙が出てきた。


「あの……よろしければ、拭かせてもらってよろしいでしょうか?」


「ダメ。絶対またエッチなことする気でしょ。信用があると思わないで」


「……しくしく」


「水鏡くんには分からないかもしれないけど、女の子の汗っかきって本気で悩むやつだからね。舐められたりしたらパニックになるの当たり前でしょ」


「いや、単にデカパイが蒸れてるだけじゃ……脇は胸ほどじゃなかったし」


「オン・アビラウンケン――」


「すみませんすみませんすみません」


 









・マナ教団


世界各地に信者を持つ巨大宗教。17世紀中ごろに創始され、長い歴史を持つ。

この宗教においては、「魔法使い」とは現在の人類を超越する神聖存在として考えられている。信者たちはこの教義に従い、魔法使いとして覚醒するべく日々修行を積んでいる。

近年は『魔法使いによる新世界の建設』を現実のものとする野心が芽生え、魔法使いを密かに募り、世界へ征服戦争を仕掛ける準備を行っている。


総本山は欧州グレゴリオ教国。

指導者の称号は『聖女サンクタ』。現『聖女』は16歳のシーラである。






・『機関』


正式名称『国際魔導共同戦線』。

マナ教団=グレゴリオ教国の脅威に対抗するために作られた国連直下の組織。教国に対抗して世界各地の魔法使いを管理下に置いている。

本質的には軍ではなく魔法使い同士の互助組織であるため、『教国』との戦いを強制はせず、本人の希望で道を選択させる方針をとる。

『教国』に情報が漏れるのを防止するため、末端の者は組織名を知ることすら許されないほどに厳格な情報統制が敷かれている。


各地の魔法使いの連絡網で成り立つ組織であるため、明確な本拠地が存在しない。

司令官は『シラユリWhite Lily』というコードネームで呼ばれているが、正体は一切不明である。




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