金髪ヤンキー

 約1年の時が過ぎた。1年間ずーっと寝ているか、ゲームをしているか運動をしているかだったので、学校の対人関係やらなにやらを考えるのは嫌だったが、勉強は好きだったので、ずっと続けていた。それが不登校だった俺の唯一の楽しみだった。


中学校からは、俺を知っている人がいないであろう県外の私立中学校に行った。

幸い勉強だけはしていたので、合格することはできた。

不安でいっぱいだったし、初めて行くのに1ヶ月ほどかかったが、クラスの人達は驚くほど優しく、杞憂だったなぁ。なんて思い、久しぶりに心が暖かくなった。

隣にいた人がとても美人で、1ヶ月遅れてきた俺を異端者扱いすることもなく、優しく接してくれた。


俺は不登校だったとはいえど、健全な男子生徒だったわけなので、1週間も経たないうちにその子に恋をしてしまった。


当時の俺は、それが恋心だとははっきりと分かっていなかったが、その子に対する想いを俺は過去に経験したことがあった。

そう、華さんに対する想いである。


恋に恋するお年頃とでも言うのだろうか。

俺とその隣の席の子は急激に仲が良くなり、俺がその子のことを「かわいい」

だの「優しい」だの無責任に言っていた。それに対してその子があまりにも照れるものだから、俺も調子に乗ってもっと無責任な言葉を重ね、表面上だけ仲が良くなっていったのだ……

気づけば俺らは出会って2ヶ月ほどで付き合い始めた。当時の俺は嬉しかったが、その子のこれからや、将来のことなど何も考えずに付き合い始めたから、次第にどう接すれば良いのか分からなくなっていった。ドラマなどでよく見る恋人の真似っ子をしてみたり、デートをしたりしてみたが、いまいちピンとこなかった。


そして……よく考えもせず始めた恋愛は夏休みが明けてすぐ、終わった。

俺は、無責任な言葉を重ね、勘違いをさせる言葉まで言い、恋人の真似をするだけのために、隣の女の子の初めての彼氏や、キスなど色々なものを奪ってしまった。

俺はとても後悔をした。

自分の無責任な行動。

そんな事をした自分が許せなくなった。

自分の欲求を満たしたいがために彼女のことも傷つけて、最終的に別れてしまった。

よく「中学生の恋愛なんてお遊び」なんて言うけど、それは本当なんだなと思った。

その時俺は気づいた。


――もうこれからは恋愛なんてしなくてもいい。するだけ時間の無駄だ。


そこから更に俺は勉強にのめり込んでいった。

テストでは常に学年1位を取るし、勉強三昧だった。

家に帰ったら勉強、勉強。ご飯を食べて、勉強、勉強、勉強。

とくに誰かに何かを言われているわけでもないのに、勉強をずっとしていた。

そのせいで視力は0.02まで落ちてしまった。

そんな生活が2年も続いた。

なぜ俺は、普通に学校生活が送れないんだろう。

勉強にのめり込んでからというもの、隣の席の彼女と別れたという噂を聞いたからか、遊びに誘われなくなった。話しかけることもなくなったし、クラス替えでメンバーが変わってからも上手く馴染めずにいた。


ついに時間の流れるのは早いもので、もう気づいたら中学3年生になっていた。

ある日、参考書を読みながら廊下を歩いていると歩いてきた人に肩をぶつけてしまった。そいつは3年生の中でもとくに素行の悪いやつで、いわゆる「ヤンキー」という、当時の俺が一番嫌う人種であった。俺は普通に廊下の左側を通り、本を読んでいたとはいえ、左側通行をしていれば肩が当たるようなことは絶対にない処を通っていたのだが……

「おい、どこ見て歩いてんだぁ? あぁ?」

「あっ、す、すいません。」

「謝ってすむ問題じゃねぇだろうが? あぁ〜俺喉乾いたな〜自販機で買ってきてくれないかな〜?」


こいつからはあの転校生と同じ匂いがする。

自分のことしか考えておらず、人を非難することで自分のストレスやら何やらを発散しようとする奴らだ。コイツラには逆らうよりも、従った方がいい。

今までの経験から俺はそう判断し、自動販売機に走っていった。

だけど、そのせいで、また俺はイジメに合うことになった。

きっと、絶好のカモだと思ったんだろう。俺は人にはっきりと物を言うことが、小学生のイジメの時から苦手になっていたので、そういうところをついてきたのだろう。

高校までは我慢しよう。

そう思い、ずっと耐えた。

1年間イジメから耐えたのだ。

先生に相談するということは考えてなかった。もちろん親にも。心配をかけたくないからだ。


俺は、対人関係や学校関係で悩みに悩んだこの5年間で、あることを悟った。

『人に舐められてはいけない』

視力が悪いからと瓶底メガネを付けて、誰とも話さず、教室でじっとしている。

こんなの、舐められるに決まっている。

みんなに舐められないようにすれば、イジメられることなんてない。


そう考えて、俺は髪を金色に染めて、耳に穴を開け、ピアスを通した。

ヤンキーなんて所詮そんなものなのだ。

人に舐められないように、自分を強く見せたい。

そんな理由でなるような奴らばかりなんだ。


俺は、一番嫌いな人種の「ヤンキー」に自らなったのだ。

高校からは、人に舐められないように。




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