青年期の殺意
第20話 首吊りがいっぱい①
「自殺大国・日本」と言われて久しい。
決して自殺を推奨するわけではないのだが、最も手軽で確実な自殺方法は〈首吊り〉ということになっている。飛び降りや服毒、
僕は〈首吊り〉と聞くと、いくつかの思い出がある。
最初は、僕が中学生の時のこと。午前中の授業を受けていると、窓から見える民家の前に警察官が大勢きていることに気づいた。何か不穏なことが起こったらしい。実は、数日前からクラスメイトの男子が一人休んでおり、民家はその欠席者の自宅だった。
まさか、クラスメイトの身に何かあったのか? 彼とは仲がよかったので、とても心配だった。
昼休みになって、担任教師の口から衝撃の事実が明かされた。彼の両親に離婚話があり、母親が数日前に実家に帰ったという。警察が大勢きたのは、残された父親が首吊り自殺をしたからだった。
クラスメイトは母親と一緒だったので、父の死には立ち会っていない。無理心中に巻き込まれなかったことは、不幸中の幸いだった。
彼はそのまま転校をしてしまい、二度と会うことはなかった。事情が事情だけに、彼が同窓会に顔を出すこともなかった。
二つ目は大学生の時である。大学の隣には杉林があったのだが、杉の枝にロープをかけて首を吊った大学生がいた。早朝だったこともあり、発見した守衛が警察に連絡して、速やかに処置がとられたらしい。
自殺した彼とは面識のなかったし、大学側が自殺理由を明らかにすることもなかった。
だが、しばらくして、夜更けになると彼の幽霊が出る、という噂が立った。杉の枝に首を吊った状態でブラブラと揺れているらしい。
僕も通りすがりにそれらしきものを目撃したが、関わり合いをもたないようにした。今ふりかえっても、それは賢明だったと思う。
三つ目も、大学生の時に経験した。〈連鎖自殺〉という衝撃的な事件である。
自分と同い年ぐらいの若い男女五人が立て続けに首吊り自殺をしたのだ。とある町の狭いエリアで、彼らは次々と首を吊ったという。皆、遺書を残していないため、原因は不明。まるで、ホラー映画かミステリー小説のようだった。
不謹慎にも、僕は好奇心を刺激された。彼らに一体、何があったのか?
その一端でも感じ取りたかったし、日帰りで行ける場所であったことも後押しをして、僕は現地を訪れることにした。
弁明をさせてもらうと、決して野次馬根性を発揮したわけではない。連鎖自殺の謎を探るドキュメンタリー映画を撮ろうと考えたのだ。
もっとも、撮影機材は市販のビデオムービーだし、内容は取材映像とナレーションで構成された短編作品である。映画制作の技術と経験はなかったが、若さゆえの根拠のない自信だけは充分にあった。
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