第14話 Kを殺すかもしれない①


 実話怪談の『地獄からの呼び声』に続いて『真っ黒な河童』をもってきたのは、どちらも仲間たちと過ごした思い出を含んでいるからである。


 クラスにおける僕の位置づけが〈サブカルチャーに詳しいオタク〉〈ちょっと変わった奴〉だったことは既に述べたが、クラスメイトが全員、僕に対して友好的であったわけではない。


 同じクラスには、「俺はレベルが高く、他の連中より優れている」と、他者を見下す連中がいた。タイプ的には不良寄りの体育会系であり、五人ほどのグループをつくっていた。グループのリーダー格はKといって、なぜか僕を目のかたきにしていた。


 Kは長身で弁が立ち、成績は良くなかったが、人好きのするタイプだった。男子中学生は皆、そうだと思うのだが、暇さえあればふざけていた。それは僕やKも同じである。Kに対して何度か軽口を叩いたのだが、その際に真顔で言われたのだ。



 それまで聞いたことがないような、冷ややかな口調だった。仲間の男子なら構わないが、僕には絶対に認めないという、Kなりの線引きがあったらしい。おそらく、Kは自分をスクールカーストの上位と位置づけ、僕のことは底辺だと見なしていたのだろう。


 僕は気にしないようにしていたが、次第に嫌がらせを受けるようになった。上履きにマジックで落書きをされたり、教科書やノートを破られたりした。現場を目撃したわけではないが、Kの仕業であることは明らかだった。


 極めつけは、接着剤を使ったイタズラである。文化祭の際、体育館で英語劇を見ていた時だった。背後から頭にこっそり接着剤を落とされたのだ。数滴落とされただけなので、まったく気づかなかった。


 だが、相手に気づかせなければ、イタズラの面白さは半減するのだろう。すぐ後ろにいたKからつつかれて、頭に何かついていると知らされた。その頃には接着剤が固まっていて、髪の毛があちこちで細い束になっていた。


 僕は当然、Kに文句を言ったのだが、相手は恥ずかしげもなく、しらばっくれたのだ。どうして、俺が犯人だと断言できる、おまえはその現場を見たのか、と言うわけである。そばにいた連中もKに同調したので、僕は引き下がるしかなかった。


 洗面所の鏡で後頭部を確認してみると、髪の毛があちこちで固まってひどい有様だった。水を付けても石鹸で洗っても接着剤は溶けやしない。もはや、ハサミでカットするしかなかった。丁寧に作業をしたつもりだが、不格好な虎刈りになってしまい、散髪屋で整えてもらったことを覚えている。




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