第3話

 試験中はずっと、どうやって柴田駿を口止めしようか考えていた。

 今回の試験は結構簡単だった。なんだかんだで一度しか過去問を見ていないがその時の問題よりもすらすら解法が思い付いた。

 

 これはきっと合格だろうと思いながら試験が終わり、私は柴田駿のもとへ向かった。

 「ねえ、今から時間ある…?」

 こういう時は、話してしまったほうが速い。

「えっと…。うん。空いてるけど。」

これは好都合だ。

「そう。お昼はまだだよね?」

「うん。」

「じゃあ決まり。ちょっと付き合ってもらいたいことがあるの。」

 まだお昼を食べてないというので、昼ごはんを奢ってあげよう。そこで理由を説明して、ついでに口止めもすればいい。

「駅前にショッピングモールがあるから、そこでいい?」

「おう。」

 あそこのモールのフードコートなら、値が張るといってもたかが知れているだろう。


 モールまで歩いて10分くらいだが、あまりにも駿が私に気を使っているようで少し気まずかった。

「見てはいけないものを見てしまった」という顔をしているのでこっちもどうしていいかわからなくなる。

「3番の証明問題のやつ、結構難しかったよね。」

 沈黙に耐えられなくなった私は、独り言でもいいからと思い呟いてみた。

「確かにな。あれは結構難しかった。でも4年くらい前の過去問でも似たような問題が出ていたから、なんとか解けた。」

 一応会話する気はあるらしい。

「そうなんだ。過去問やっとけばよかったかな。」

 私はまた呟いた。

「…。まさか、おまえ過去問解いてないのか?」

 駿は大きく目を開く。

「うん。普通に検定のこと忘れてたの。」

「普通忘れないだろう。さっきから思ってたけど、おまえ、何者なんだよ。」

 ストレートに聞いてきた。

「それを説明するから付き合えって言ってるの。」

 やはり事情を説明するのは気が引ける。とりあえずはぐらかしておいた。

「悪かったな…。」

 駿が謝るとまた沈黙が続く。

 幸運なことに目的地のショッピングモールは見えているため、なんともいえない雰囲気に耐えることはできた。

 

 フードコートは大勢の人々で溢れていたが、奇跡的に二人掛けのテーブルを確保できた。

「じゃあ、好きなもの選んで。」

「いや、悪いよ。俺が…。」

「同じこと何回も言わせるな。奢るって言ってるの。」

 だいぶ低い声のトーンで言ってしまう。

「ごめん。学校では高い声出してるけど、これくらいが通常営業だから…。」

 駿は私のことを怖がっているのだろうか、少し挙動不審になる。

「じゃあ、お言葉に甘えて…。」

 駿は頭が良いから、それなりに空気も読める。今この状況は奢られるのが最適だと判断したのだろう。

「ラーメンもでいいか?」

「いいよ。奇遇だね。私もラーメンの気分だった。」

 そう言って二人で列に並び、駿は味噌ラーメン、私は醤油ラーメンにありつくのだった。

「二人で1500円か。駿だけだと800円…。」

駿はやっぱり奢ろうか、とでも言ってきそうな目をしているので私はさりげなく呟いた。

「口止め料にしては安すぎたかな…。」

駿はラーメンをすすっている箸を止め、私の顔を見た。

 「そういうことか。」

 さすが優等生。理解は速い。

「理由は話すから、今日の出来事は秘密にしてくれない?800円で。」

 「その話、乗った。」

 駿は今日一番のいきいきとした表情を見せた。




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