第12話 祝福

 俺と愛莉が宿泊施設に戻ると、祭りには行かずに残っていた、もしくは既に帰っていた生徒たちの視線が俺たちの方に向いた。

 まあ、予想はしていた。


 女子たちは目をキラキラと輝かせながら好奇心のある視線を、男子たちはもはや怒りすらなく悲しみに溢れた今にも泣きだしてしまいそうな視線を向けていた。

 女子たちはいつも通りだが、男子たちよ、いつもの威勢は何処へ。


 俺たちが数人の生徒からの視線を受けていると、祭りに行っていた他の生徒たちも一斉に帰ってきてしまったかと思えば、最初の生徒たち同様の反応を見せた。

 一体何なんだこれ。


 彼らを素通りして部屋に戻っても良いのだろうか?

 ずっと見てくるから戻りづらいんだけど……。


 そんなことを考えているとようやく1人の男子生徒が口を開いた。


「お前ら一体はどういうことだよ」


 そう言いながらその男子は俺と愛莉の恋人繋ぎをした手を指差した。

 気のせいか周りからの視線が一層強くなった気がする。これは説明するしかないらしい。


 俺は愛莉にアイコンタクトをすると愛莉はこくりと頷いた。


「えっと、俺と愛莉は付き合うことになったんだ」


 女子たちからは歓喜の叫びが上がり、男子たちからは絶望に打ちひしがれた声が上がった。

 なんというか、予想通りの反応だ。


「やっぱりそういうことだったんだな。俺たちの分まで幸せにしてやるんだぞ」


 そう言うと、男子たちは一斉にサムズアップをして見せた。


 なんだこの海外映画の後半の感動シーンみたいな光景。

 まるでどっちがヒロインを先に振り向かせることができるか競い合ってたライバルみたいな。俺は全くもって競ったつもりはないんだけど。


 でも、男子たちとの関係は良好になっていきそうなので良かったのかもしれない。


 そして次は女子たちのターン。見ればわかる。絶対に今のこの人たち、恋愛脳だ。


 1人の女子生徒が俺たちの前まで歩み寄ってくると、目を輝かせながら俺たちに問いかける。


「どっちから告白したの?」

「俺からだよ」

「どんなシチュエーションで言ったの?」

「花火が上がっているときかな」

「きゃー、ロマンチック! 前から思っていたけど、2人はこの学校で1番お似合いの2人だよ!」


 後ろの女子たちも俺の答えを聞くなりテンションが爆上がりしている。


「足止めしちゃってごめんね。もう行っても大丈夫だよ」

「そうか、助かる」

「……2人の愛の部屋に」

「え?」

「いや気にしないで何でもないから」


 最後の方、何か凄いこと言った気がしたのだけど、気のせいか。


 ようやく足止めから抜け出せた俺たちは自分たちの部屋へと戻ってきた。なんというか、祝福されたようなので良かった。

 もしかしたら、男子たちは俺に文句を言ってくる人も出てくるかもしれないと心配していたが、杞憂だったみたいだ。


 むしろ、これからは俺と彼らの間に友情が芽生えそうだ。


「改めてこれからよろしく愛莉」

「うん、よろしくね悠くん」


 数秒見つめ合うと、俺たちは同時に笑いが込み上げてきた。


「さっきのみんな凄かったね」

「本当だよ。俺、女子たちから質問攻め食らうし、男子たちは映画のワンシーンみたいなことするし」

「あれは笑っちゃいそうになったよ。私、この前そういうシーンがある映画見たし」

「そりゃ、笑っちゃいそうになるよ」

「だよね~」


 先ほどの出来事を振り返っていくと、自然と笑いが溢れてくる。愛莉と笑い合えるって、なんというか……幸せだな。

 俺はそんなことを考えていると、愛莉が真剣な表情になり一言呟いた。


「悠くんと笑い合えるって、なんか幸せって感じがする」

「!?」

「悠くん、どうしたの?」

「いや、ちょっとビックリしただけ」

「なんで?」

「俺も今、愛莉が言ったことと同じことを考えていたから」

「本当に?! ふふっ、私たちって本当に相性良いね」


 その後も2人で楽しく談笑してから、その日は眠りについた。


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