第9話 宿泊研修開始

 宿泊研修、当日がやってきた。

 学校から宿泊施設まではバスで移動することになっている。

 

 昨日、宿泊施設で誰と同じ部屋にするか決める時間があったのだが、普通なら男子と女子が同じ部屋になることはないはずなのだけど、愛莉が授業後に先生たちに直談判しに行ったらしく、俺と愛莉は同じ部屋になった。


 この学校、緩すぎませんか?


 まあ、愛莉が先生たちから良いイメージを持たれているからというのもあるんだろうけど。


「よし、いよいよだね」

「そうだね、楽しみ! じゃ、バスに乗ろ!」


 用意されたバスに乗り込み、空いている席につくと、愛莉は当たり前のように俺の隣に座った。もはや、周りの生徒も驚いていなかった。「そうだよな~」と言いたげな表情でこちらを見ているだけだった。


 他の生徒の視線を気にしていない……いや、気づいていない愛莉は隣でずっと笑顔を浮かべている。


「愛莉、楽しそうだね」

「そりゃもちろん! なんて言ったって、夜には祭りが待っているからね」

「そうだね、俺も楽しみだよ」


 学校から宿泊施設までは約2時間ほどかかるらしく、イヤホンをして音楽を聴いている生徒や携帯で映画を見ている生徒などがいた。


 研修は長いから、今のうちから張り切りすぎても祭りに行く頃には疲れ切ってしまうかもしれない。そう思った俺は、愛莉に休むように言った。


「宿泊施設までまだ時間掛かるみたいだから、寝てもいいよ」

「でも、悠くんとお喋りしたい」

「俺も愛莉とお喋りしたいけど、休まないと祭りに行くときには疲れ切っちゃうかもよ」

「確かに……。それもそうだね、それじゃ休もうかな。悠くんもちゃんと休むんだよ?」

「オッケー」


 俺の言葉を聞いた愛莉はちゃんと眠りについた。が、頭を俺の肩に乗せながら眠りについてしまった。

 さすがにこの状況は他の男子たちも黙っていられないようでもの凄い形相で何かを言おうとしているようだ。


 今、この男子たちの相手をするのは面倒だ。

 よし、少し恥ずかしいけどこうするしかない。


 俺は男子たちに何か言われる前に愛莉の方に少し頭を傾けて眠りについた。もし、愛莉が起きたときに何か言われたらその時は理由を説明しよう。

 とにかく今は休もう。



「悠くん、起きて。着いたよ」

「ん……うん……」


 目を覚ますと愛莉は起きていた。

 愛莉は俺が起きたことを確認すると、顔を赤らめた。


「そういえば、さっきまで私たち……その……」


 あ、そうか。さっき俺が男子たちから逃れるためにやった行動のことを言っているのか。


「あのことか。あれは、その、まあこういうことがあったから」


 周りの男子に聞かれたらまた睨まれるかもしれないと思い、俺は小声で先ほどの出来事を愛莉に伝えた。


「なるほどね、そういうことがあったんだね。でも、寝たふりするだけでも大丈夫だったんじゃない?」

「あ……確かに」

「私も起きたときビックリしたけど、嬉しかったからいいよ」


 そうだ。あの時、寝たふりするだけでも大丈夫だった。

 まあ、愛莉は迷惑がるどころか嬉しそうにしているので結果的に良かったのかな。


 理由の説明を一応、完了させた俺はバスに乗せた荷物を持ち、宿泊施設に入った。

 宿泊施設に入ると、自分たちが宿泊する部屋の鍵を受け取り、荷物を置くために部屋へと向かった。


「お~、意外と広いな」

「そうだね、和を感じられる部屋だね」

「うん、落ち着けそうな部屋だ」


 部屋に荷物を置いた俺たちは宿泊研修で使用する大きな部屋に向かった。


 その部屋に全員集まると、すぐに研修が始まった。

 最初から校長先生による長くてつまらない話が始まった。さっきまでバスで寝たのに校長先生の話のせいでまた眠くなってきた。


 周りを見渡してみると、そう感じていたのは俺だけではないようだった。みんな眠そうにしているが居眠りしている生徒は1人もいなかった。


 恐らく、ちゃんと研修を受けないと祭りに行けないと先生に言われているからだろう。


 結局、校長の話だけで1時間を費やした。


「もし私が研修中に眠りそうになったら絶対に起こしてね」

「わかった。俺が眠りそうになったら起こしてね」

「うん! 2人で支え合ってこの研修を乗り切ろう!」


 そんな約束をして俺たちは残りの研修に立ち向かっていく。


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