第8話 計画
学校を終えた俺たちは近くのカフェに来ていた。
「愛莉は何頼む?」
「うーん、そうだなぁ。カフェオレにしようかな」
「じゃあ俺も同じものを頼むよ」
店員を呼び、カフェオレを2人分注文した。
そう言えば、もうすぐ1年生だけは宿泊研修があったよな。そしてちょうどその日は宿泊施設の近くで祭りが開催されるのだとか。
先生たちがしっかりと宿泊研修を受けてくれるんだったら行ってもいい、と言っていたのを思い出した。普通なら絶対ダメだと思うんだけどその辺りはこの学校、緩いので生徒にとっては最高である。
注文したカフェオレはすぐに届き、宿泊研修と祭りの話題を切り出した。
「もうすぐ宿泊研修あるらしいね。その日の夜には祭りもあるんだって」
「最近祭り行ってないから楽しみだな~」
「俺も最近全く行ってないな」
「悠くん」
「ん?」
「何か私に言いたいことがあるんじゃない?」
愛莉は悪戯っぽい笑みを見せた。
バレていたのか。俺がその祭りに愛莉を誘うおうとしていたこと。
「祭り、一緒に行かない?」
「良く言えた! もちろん一緒に行くよ!」
「ありがとう」
良かった。
愛莉なら了承してくれるとは思っていたけど、返事を聞くまで緊張していたので少しホッとしている。
「祭りを楽しむためにも宿泊研修を乗り切らないとね!」
「そうだな、宿泊研修は校長先生の眠くなりそうなくらい長い話から始まるらしいからね」
「うわー、まじか。全校集会とかみたいな感じなのかー」
愛莉が嫌そうな反応をするのもわかる。校長先生の話が長いというのは誰もが知る周知の事実だ。冬とかならまだ大丈夫なのだが、夏の全校集会では長すぎるあまり全校集会中に倒れてしまう生徒が出たことがあるほどだ。
そんな出来事があってからは校長先生も短くするよう心掛けているようだが、それでも長い。
まあ、その退屈な研修を乗り切った先には楽しい祭りが待っているのだ。
もし祭りが無かったら誰も今回の宿泊研修にやる気を起こしてなさそうだ。
「研修が終わったら祭りがあるから、頑張ろう」
「そうだね、それだけが唯一の救いだよ~」
「祭りがなかったらみんな絶望に打ちひしがれてただろうな」
「祭りに感謝だね! 祭り会場で浴衣とかレンタルしてたりするのかな~」
愛莉は早くも祭りに胸躍らせているようだ。
浴衣のレンタルね……え? 浴衣?
愛莉、浴衣着るんですか? もし着るとしても他の人には見せたくない。俺だけが見たい、とか思ってしまう。俺って意外と独占欲強いのか?
俺がそんなことを考えていると愛莉が俺の顔を見ながらフフッと笑った。
「悠くん、顔に出てるよ」
「え?」
「私の浴衣姿を他の人に見せたくない、とか考えてたんでしょ」
「なんでわかるの?! 超能力者か何か?」
「だって私が浴衣の話をし始めた途端に難しそうな顔するんだもん。でも、安心して。他の人に見られることはあるかもしれないけど、私が自分の浴衣姿を見せたいのは悠くんだけだから」
「そ、そっか。ありがとう」
自分の浴衣姿を見せたいのは俺だけ……か。狙って言ってるわけではないと思うけど、嬉しいことを一切の躊躇なしに言ってくれるのが愛莉らしいな。
俺は愛莉にドキッとされられっぱなしだな。
「そろそろ帰ろうか」
「うん!」
カフェオレも飲み終え、俺たちは帰路につくことにした。
愛莉と祭りに行けるのかぁ。普通なら面倒くさいとさえ感じるはずの宿泊研修が楽しみになってきた気がする。
実際に楽しみなのは宿泊研修ではなく、祭りの方なのだが。
「もし浴衣のレンタルがあったら、悠くんも着てね。男性用もあるはずだから」
「俺も? うん、いいよ」
「やった! これ、約束ね!」
約束を交わし、愛莉を家まで送って帰宅した。
「早く宿泊研修の日にならないかな」
俺は1人でそう呟いた。
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