第7話 教室の朝
ショッピングを終えた帰り、俺は愛莉を家まで送って行ったのだが、愛莉は購入したお揃いのパジャマを俺に見せてくる。
「来週の金曜日も泊りに来るね! これ、一緒に着たいし!」
「うん、そうだね。楽しみにしておくね」
「うん! それじゃ、また月曜日に学校でね」
来週も泊りに来てくれるのか。
そのうちまた泊りに来てくれるとは思っていたけど、予想以上に早かったので驚いた。
次に会うのは月曜日の学校か。
少し不安だ。愛莉が口を滑らせて俺とショッピングに行ったこととかカップルコーデのパジャマを買ったことを言ってしまわないだろうか。
というか、俺たちが今日行ったのは近くのショッピングモールだ。同じ学校の生徒に見られてないよ……な?
そんな心配が俺の頭の中をよぎったが、心配したところで何もできないし、今日が楽しかったならそれでいいか、と思い直した。
「今日は楽しかったな」
俺は寝支度をして、すぐに眠りにつこうと持った。疲れに気づかないくらい楽しかったのだろう。帰宅して急に疲れが出てきた。
俺は購入したパジャマを枕の横に置いてから、眠りについた。まるで、ずっと欲しかったものを買ってもらった子供のように。
*****
月曜日、俺は大きなあくびをしながら学校へと向かっていた。
昨日は特に予定などはなく、ただただ暇な1日を過ごした。愛莉とショッピングに行った日が充実していたから余計に昨日は1日が長く、退屈に感じた。
「おはよ~!」
「お、愛莉。おはよう、一昨日はありがとうね」
「いえいえ、私の方こそありがとう! 楽しかったね」
「うん、また行こうな」
「うん! 絶対ね、約束だよ?」
「おう」
通学路の途中で愛莉と合流した俺はそのまま教室まで2人で登校した。
教室に入った瞬間、男子たちからもの凄い視線を感じたがこれはいつものことなので無視することにしている。こっちから何も言わなければ何も起こらないので無視が最適解なのだ。
席につくと、数人のクラスの女子生徒たちが愛莉の席に集まってくる。愛莉は男子にだけではなく、女子からも人気があるのだ。
女子からは普段のクールな振る舞いが好印象らしく、憧れを持たれていることが多い。
「七瀬さん、週末は何してたんですか?」
「愛莉さんは休みの日、何しているんですか?」
愛莉は憧れを持たれているから『さん付け』で呼ばれることが多いのかもしれないな。
愛莉は女子生徒たちにクールな振る舞いで質問に答えるが、その内容は俺が危惧していたものだった。
「金曜日に学校を終えた後に、悠くんの家に泊まって、翌日に2人で近くのショッピングモールに買い物に出かけましたよ」
そう答えた途端、教室中の男子からの視線が一層強くなった気がするのは俺だけだろうか。
それに対して女子たちはテンションが上がっている様子だ。俺は愛莉と一緒にいることで男子たちには敵意のような視線を送られることがあるが、女子たちは全くの逆である。
女子たちは男子たちと違い、俺が愛莉の仲が良い人だと知っているからか、優しく接してくれる。正直、有難い。
「悠さんとお出掛けしたんですね、いいですね~」
「はい、悠くんと出掛けるのはとても楽しいです。私の1番好きな時間です」
「ふふ、本当にお似合いな2人ですね。2人はいつからお付き合いしているんですか?」
「「!?!?」」
女子生徒の1人が急に凄い質問をしてきた。
俺と愛莉は驚きのあまり同じような表情をしていたと思う。
「いえ、私と悠くんは付き合っていませんよ、
「今はってことはそうなる予定があるかもしれないんですね。楽しみにしてますね。それと、悠さんは女子人気が高いですから取られないうちに付き合った方がいいですよ」
「え……っ……」
愛莉が反論する前に女子生徒たちは自分の席へと戻って行ってしまった。それに、愛莉、今は付き合ってないって、女子生徒が言った通り付き合う予定があるみたいに聞こえる。そうなれると良いな。
それよりも女子生徒の去り際の一言が気になる。俺の女子人気が高い?
嘘だろ。今までそんなこと感じたことがなかった。女子生徒たちが優しく接してくれるのは愛莉のお陰だと思っていたんだけど、そうじゃないのか? いや、まさかな。
女子生徒が自分も席についた後、愛莉が不安そうに聞いてくる。
「私たちはずっと一緒だよね?」
「うん、もちろん。俺はどこにもいかないよ」
愛莉は少しホッとした表情を見せる。
さっきの女子生徒の一言を気にしていたのだろう。愛莉が不安になる必要はない。何があっても俺はずっとそばに居続けるつもりだから。
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