第6話 お揃い
近くのショッピングモールに着いたのだが、俺は圧倒されていた。このショッピングモールができたのは最近のことだったので俺はまだ1度もここに来たことがなかった。
なので、ここまで広くて大きいものだとは思っていなかった。
「どの店に行く?」
「俺、ここに来たことないからどこにどんな店があるか分からないんだよね。だから、愛莉が行きたいところに行きたいな」
「いいの? 悠くんからしたら、つまらなくてすぐ飽きちゃうかもよ?」
「そんなことないよ。俺は愛莉が好きなものを知りたい」
「そっか、わかった。じゃ、行こっ!」
そう言うと、愛莉は俺の手を掴んで少し駆け足気味でとある店へと向かう。
よほど好きな店なのだろう。
子供のような無邪気な笑顔を見せている愛莉に連れられて着いたのは俺がこんな場所に足を踏み入れていいのか、と戸惑ってしまうほどオシャレな服屋だった。
だが、愛莉が好きな店だ。どういう服を置いているのか俺も知りたい。
それに愛莉のミニファッションショーが見れるかもしれない。それだけは何があっても見逃すわけにはいかない。
緊張しつつも俺は愛莉に連れられながら店内に足を踏み入れた。店内に入ると、すぐに店員と思われるオシャレな服を着こなしている女性が声を掛けてきた。
「いらっしゃいませ。どういったものをお探しでしょうか?」
「オシャレで可愛い服が欲しいの」
「それではこちらへどうぞ」
愛莉は慣れた様子で店員に要望を伝え、店員の後を付いて行く。
店員が案内してくれた場所には女性ものの服が沢山並べて置かれていた。
愛莉が自分に合いそうな服を選ぼうとすると店員は去り際に俺と愛莉の方を交互に見た。
「もしかして、いえ、もしかしなくてもカップルですか? よろしければ最近流行のカップルコーデの服が揃ったコーナーがありますので、是非」
「「!?」」
それだけ言うと店員はどこかへと行ってしまった。
俺と愛莉はその場で固まってしまう。
なんでカップルと思われたのだろうと考えようとしたがすぐに答えは出た。愛莉はこの店に入る前、俺を連れてここに来た時から手を繋いでいた。
俺はそのことをすっかり忘れていた。
そりゃカップルに間違われても仕方ないな。
「愛莉、気にしなくていいからな。店員さんが勘違いしただけだからさ」
「買う……」
「え?」
「だから、カップルコーデの服買う!」
マジですか?
それはつまり、俺とカップルコーデをするのが嫌じゃないってこと?
カップルコーデって、カップルでも着るのに躊躇してしまいそうなものだが。付き合ったばかりのラブラブなカップルくらいしか着ているイメージができない。
「愛莉、本当に言ってる?」
「本気でガチでマジだよ!」
「お、おう、そっか」
「悠くんは……嫌?」
「そんなことないよ、嫌じゃない」
その上目遣いで言われたら、何があっても首を横に振ることはできないだろ。
結局カップルコーデの服が置かれているコーナーに行くことになったが、その前に俺は愛莉のミニファッションショーを堪能させてもらった。
愛莉は幾つか服を選び、試着室に持っていくと着替えて、俺の前でモデルのようなポーズをとる。
愛莉はモデルのように完璧にスタイルをしているから、なんだかモデル風のポーズが様になっている。何なら、モデルよりも完璧に着こなしている気さえする。
試着する度に、「似合ってる?」と聞いてくるが本当にどれを着ても似合っていたので、「似合ってるよ」と答えていたら、愛莉は試着した服をすべて買うことにしたようだ。
いくら何でも多くないかとも思ったが、愛莉が嬉しそうだったので俺が口を出すことはない。
そして、俺たちはついに
そこには可愛らしいものからカッコいいボーイッシュなものまで男性用と女性用がセットになって販売されていた。
でも、さすがに外で俺と愛莉の2人がカップルコーデの服装で歩くのは少し、というかだいぶ恥ずかしいよな。
そんなことを考えていると愛莉が1つ手に取り、差し出してきた。
「これとかどう……かな? これなら外で使うこともないから平気じゃないかなと思って……」
「これって、パジャマ?」
愛莉が取ってきたのはカップルコーデのパジャマだった。たしかにこれなら外で使うこともないから、大丈夫かもしれない。
俺が何を考えているのか愛莉にはバレていたみたいだ。
「これなら、悠くんの家に泊まるときにも使えるし」
「そうだね。うん、これにしようか」
家に泊まりに来て2人でお揃いのパジャマを着るって、やってることが冗談抜きでカップルと変わらないな。
俺たちは試着してサイズを確認して自分に合ったサイズのものを購入して店を出た。
その後も、ショッピングモール内を色々歩いて回ったが、俺はお揃いのものを買ったことが嬉しくて頭の中はずっとお揃いのパジャマのことでいっぱいだった。
最初はカップルコーデの服に躊躇いを感じていたが、なんだかんだ俺が1番喜んでいるのかもしれないな。
一通り店を見てまわり、俺と愛莉はお揃いのパジャマの入った袋を持ちながら帰路についた。
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